Concert Report#463

東京JAZZ 2012
2012年9月9日 @東京国際フォーラム Hall A
Reported by 稲岡邦弥
Photos提供:NHKエンタープライズ

PUT OUR HERATS TOGETHER

♪ エスペランサ・スポルディング Radio Music Society
♪ カシオペア 3rd
♪ ボブ・ジェームス・クインテット
Very Special Guest 松田聖子

「東京JAZZ」がセカンド・ディケイド(11年目)に入った。NHKが傘下のNHKエンタープライズ、それに日本経済新聞社と実行委員会を組み首都圏で国際的なジャス・フェスティバルを立ち上げるにあたって掲げたテーマは、「新しい文化の発信」「ジャズの後継者への継承とその発展」「文化のクロスオーバー」であった。11年目の今年は過去10年間の内容を総括した上で、次の10年に向けて第一歩を踏み出す重要な年でもあったはずである。公開された報道資料によると、“東京JAZZは、「世代を超えて、国境を超えて」をテーマに都市型の音楽フェスティバルとしてスタートし”、とあり、段落を変えて“国内で開催される唯一の大型のジャズフェスティバルとして、ジャズファンのみならず、若年層から熟年層まで支持層を広げながら”“成長した”と記されている。しかし、10年の歴史を振り返り、今年のプログラムを眺めてみると、報道資料とは裏腹に、<ジャズ・フェスティバル>としてスタートしたが<音楽フェスティバル>として成長、発展したのが事実では、という印象を強くした。NHKグループが主体となり数多くのナショナル・スポンサーが名を連ねる現在、ジャズにこだわらず、「世代を超え」、ジャンルを超えた観客、番組の要望に応える必要がある、ということだろう。今年のジャズの重しとして、重鎮オーネット・コールマンの参加が発表されていたが、内容の詳細が知らされないまま、体調不良のため来日中止となった。オーネットに代わって小曽根 真がジャズの顔として獅子奮迅の活躍をしたようだ。小曽根はクラシックの世界でも相応の実績を上げつつあり、名実共に国際的な注目を浴びるアーチストの地位を獲得しつつある存在である。
10年目の昨年は3.11が発生、大震災と原発事故から半年後の開催ということもあり放射能汚染を危惧する欧米のミュージシャンの対応が憂慮されたが、幸い大きな支障はなかったようで、プログラムには被災者に思いを寄せるアメリカのジャズ・ミュージシャンで編成された「Jazz for Japan “Live”」が組み込まれた。「東日本大震災とは復興が続く限り連帯したい」というプロデューサーの言葉通り、今年は最終日の夜の部に「Put Our Hearts Together」(心をひとつに)というテーマが掲げられその思いが反映されていた。

今年は8日と9日の昼夜を予定していたのだが、結果として辿り着けたのは最終日(9日)の昼の部の最後「RUFUS featuring スガシカオ」だった。8日の昼夜と9日の「RUFUS」までをギタリストの高谷秀司氏にレポートしてもらい、私は9日の夜の部だけを担当することになった。



Radio Music Society(11人)が揃ったところでエスペランサ(スポルディング)が現れると何やらスーパーモデル登場!の風情である。小柄ながら大きなアフロヘアに艶(あで)やかなステージ衣裳。ミニ丈のドレスからのぞく長い脚がまぶしいほど。演奏が始まるとアップライトとエレキベースを軽々と弾きこなし、歌もうたう。「歌もうたう」どころか、歌もメインのパートである。アップライトではトランペット(女流)とのスリルあるチェイスを聴かせる。すべての所作が洗練されており、ときに醸し出されるフェミニンな雰囲気も自然で嫌みがない。紛れもなくジャズのニュー・ヒロインの登場である。 思わず“ジャズ”と書いてしまったが、彼女の音楽にはソウルやR&Bも色濃く反映されており、曲がはまればブラック・ミュージックのヒロインになり得るだろう。事実、昨年度のグラミー賞でジャンルを横断した新人賞に選出されており、全米音楽界の期待も大きい。一瞬ジャコ(パストリアス)の姿が脳裡をよぎったが、エスペランサの方が音の処理が軽やかでずっとポップだ。ジャズ・ファンとしてはあのジャコの、時にアウトする、よりジャジーなサウンドもこたえられなかったが。メンバー紹介の時間も惜しむほどの時間しか与えられずワン・セットのショーがあっという間に終わってしまった。

 



結成35周年を迎えたカシオペアが「カシオペア 3rd」として登場。長い歴史の中でさまざまな離合集散があったようだが、ファウンダーのひとり野呂一生(g)を中心に超ベテランの鳴瀬喜博(el-g)、カシオペアの顔のひとりだったがサポーティング・メンバーとして参加の神保 彰(ds)に新人の大高清美がキーボードとして参加した4人編成。野呂のギターと鳴瀬のベースを中心にかつてのスピード感あふれる一気呵成の演奏を展開、鳴瀬のチョッパーぶりも相変わらずで会場を盛り上げた。神保はひと際大きな声援を受けながらも大高と共に与えられたソロのチャンスをソツなくこなしてしまった感が拭えない。一世を風靡したバンドだけにコピー・バンドで腕を競った団塊の世代からの声援も大きかったようだ。





同じように70年代のフュージョン・ブームを背負ったボブ・ジェームスがふたりのスター・プレイヤー、ウィル・リー(el-g)とスティーヴ・ガッド(ds)を従え、当時のCTIからのナンバーを演奏したが、こちらの演奏は一転、とても味わい深いものとなった。ウィルもスティーヴもいわゆるファースト・コールと呼ばれるトップ・セッション・ミュージシャンだが、プロデューサーでもあったボブ・ジェームスに対するリスペクトの念が根底にあり、心底から熟練の極みを披露した。メロディの多くはサックスとフルートのデイヴ・マクマレイに委ねられたが、かつての情感あふれるグローバー・ワソントンJr.を知る者にとっては内向的な演奏に終始したデイヴにやや物足りなさを感じたのも事実。ギターのベリー・ヒューズも似た様な印象。

 



クインテットとしての演奏を終了、アンコールとして登場したボブがコールしたのが、Very special guest 松田聖子。会場が固唾を飲んで見守るなか、ロングドレスをまとった松田聖子が歌ったのはジャジーにアレンジされた<上を向いて歩こう>。今年の東京ジャズのフィナーレを飾ったのは<Put our hearts together>(心をひとつに)。東日本大震災の被災者に心を寄せてボブが書き下ろした新曲。詞はボブの娘によるもので、彼女はこのバラードを切々と歌い上げ、大役を果たした。励ましよりもシンパシーが強く出た歌唱だったが、曲の調べによるものだったのだろうか。  







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