Live Report#473

The Cookers
2012年10月17日
Reported by 稲岡邦弥
写真提供:COTTON CLUB
撮影:米田泰久

The Cookers:
ビリー・ハーパー(ts)
エディ・ヘンダーソン(tp)
クレイグ・ハンディ(as,fl)
デイヴィッド・ワイス(tp)
ジョージ・ケイブルス(p)
セシル・マクビー(b)
ヴィクター・ルイス(ds)

メンバー・リストを見て驚いた。この強者どもがグループを組んでコットン・クラブに来襲するのか!NYのクラブでもどこでも聴けるとは思えないメンツだ。こちらは聴き逃したが先月には「ワールド・サキソフォン・カルテット」が出演していたはず。今さらだが、コットン・クラブは要注目だ。
うかつだったがThe Cookersの動きは僕のアンテナから外れていた。結成5周年。インディだがアルバムもすでに3枚リリースしている(『Warriors』『Cast the First Stone』『Believe』)。The Cookersのグループ名はいうまでもなく、フレディ・ハバードとリー・モーガンのバトルで人気を呼んだアルバム『The Night of the Cookers』(Blue Note 1965) から取られ、そのスピリットを伝承している。個人的には、74年のサド=メル・オーケストラの来日時に制作したジョン・ファディスのデビュー・アルバム『ジョン&ビリー』(TRIO) 以来ビリー・ハーパーとは何かにつけ音信があるのだが。
__ビリーがThe Cookersのリーダーと目されているようだけど。
BH:そうじゃない。このバンドは皆の総意で結成されたんだ。
__ポスト・バップの継承の意味は分かるんだけど『The Night of the Cookers』との関係は?
BH:全員がフレディかリーと関係がある。
__具体的には?
BH:まず、僕がリー・モーガンのクインテットに2年間在籍していた。彼が事故死 (1972.2.19) するまでの2年間だ。
__クインテットのメンバーは?
BH:リー・モーガン(tp)、ハロルド・メイバーン(p)、ジミー・メリット(b)、ミッキー・ローカー(ds)、それに、僕。ミッキーは、あとになってフレディ・ウエイツに代わったけど。
__フレディ・ハバードとは?
BH:これには面白いエピソードがある。僕がヒューストンからNYに移って来た頃、あるテレビ局がシリーズ番組を制作することになった。モデル、ビジネスマン、オペラ歌手、ボクサーそれにジャズ・ミュージシャンを主役にしてNYを紹介する番組なんだ。ジャズ・ミュージシャンには僕が選ばれた。僕が有名なジャズ・クラブで“シット・イン”(飛び入り)する設定だったんだけど、ヴィレッジ・ヴァンガードが撮影を拒否したんだ。代案として僕がバンドを組んで、“シット・イン”することになった。
__どんなバンドを組んだんだい?
BH:フレディ・ハバード、マッコイ・タイナー(p)、レジー・ワークマン(b)、エルヴィン・ジョーンズ(ds)、それに僕。撮影には「Slugg’s」を使ってね。
__リー・モーガンが射殺されたイースト・ヴィレッジのクラブだね。
BH:『The Big Apple』というタイトルで全米ネットで放映された。66年のことだけど、ニューフェースの僕にとってはとてもラッキーだった。
__テープは残ってるの?
BH:探してもらってるんだ。TV局は3年前まではたしかに保管されていたというんだけどね。
__他のメンバーは?
BH:皆、何らかの形でフレディと演奏している。
__そういえば、グループの写真にはドラムスにビリー・ハートが写っていたけど。
BH:レギュラーはビリーなんだけど忙しい男だからね。彼が使えない時は、ヴィクターに頼んでいる。スピリットを伝承しようという意味ではアート・ブレイキーのOBでリユニオンを組もうという計画も進んでるんだ。

The Cookersは4管編成。この4管の分厚いリフが何とも心地よい。エディ・ヘンダーソンがフレディ役でデイヴィッド・ワイスがリー・モーガンだろうか。もっともラッパのソロはほとんどがエディ、デイヴィッドはMC役で最後の曲でやっとソロを取らせてもらった。このデイヴィッド、ラッパの構え方に特徴があり、ほぼ75度に下を向けたまま。マイルスに心酔しているのだろうか。
曲を提供しているのは、ビリーとセシル。オープナーで早くも70年代にタイム・スリップ。ビリーの代表作『カプラ・ブラック』(Strata-East/1973)のタイトル・トラックだ。最近のビリーは09年のチャールズ・トリヴァーのビッグバンドで確認済み。パワフルで黒々としたテナー・サウンドはまったく衰えを見せない。それは他のメンバーについても同じこと。強力にドライヴするエディ・ヘンダーソンのラッパ、水が迸るように流麗なジョージ・ケイブルスのピアノ、ヘヴィなサウンドでとびきり安定感のあるセシル・マクビーのベース。菊地雅章やカーラ・ブレイとの共演で馴染みだったヴィクター・ルイスのドラム。ビリー・ハートのようなしなやかさには欠けるが、丁寧に音楽を作り込んで行く。己を見失わずひたすら磨きをかけてきた彼らがシニア世代に入り、ジャズの根幹バップのスピリットを次代に確実に伝えるべく結集した。決して懐古ではない。そんな前向きの姿勢が音楽に現れ、とても心地よいひとときを過ごすことができた。彼らを知らない若い世代に彼らのスピリットを全身で受けてもらいたい。その接点を用意するのは我々が果たすべき役割だろう。

* 関連リンク:
http://www.jazztokyo.com/interview/vol14/v14.html
http://jazztokyo.com/rip/rivers/rivers.html
http://www.jazztokyo.com/newdisc/komado/310.html
http://www.jazztokyo.com/five/five827.html
http://www.jazztokyo.com/live_report/report384.html













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