Concert Report#475

篠ア史子ハープの個展]U〜ハープの個展40周年記念
2012年10月22日 @東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル
Reported by 多田雅範/Niseko-Rossy Pi-Pikoe
Photos by 林 喜代種 Kiyotane Hayashi

ハープ:篠ア 史子
指揮:権代 敦彦、西村 朗、野平 一郎
オーケストラ:特別編成オーケストラ(コンサートマスター:大谷康子)
ギター:鈴木 大介
ハープ:篠ア 和子

権代敦彦(1965-):マトリックス(母型)〜ハープと室内オーケストラのための〜 op.133
鈴木大介編曲:武満徹の映画音楽より
          「紀ノ川」「伊豆の踊子」「化石」(編曲版初演)
監修:武満眞樹
西村 朗(1953-):睡蓮〜独奏ハープと弦楽のための〜
野平一郎(1953-):彼方、そして傍らに〜ハープと室内オーケストラのための〜

ハープの個展というイメージから初台のオペラシティはリサイタルホールのほうに足を運びそうになった。ハープ奏者によるコンサートホール(大ホール:タケミツメモリアム)での公演、室内オーケストラとの委嘱作品ばかりで構成、それだけで偉業である。

赤いドレスを着た篠ア史子と真っ赤なチャイナ服を着た権代敦彦が現れる。なんともチャーミングな二人だ。それで指揮台に立つのか作曲家権代。「マトリックス(母型)」は新世代の旗手らしいシステマチックな厳しい音響作品。見た目とは違って、ハープの音を基調に容赦ない過酷な演奏をクールに響かせ続ける。26分に及ぶ響きの営みは、鮮烈な美の強度を放っていた。左右に配置されたホルンの響きが効果的だった。

ギタリストの鈴木大介が武満の映画音楽作品を2台のハープ(篠ア史子・篠ア和子)、フルート、ヴィオラ、チェロ、ギターに編曲構成。鈴木は「譜面に置き換えただけです」と話していたが、この楽器構成の音色が武満作品に実に良く合っているというか、その優雅な彩りに息をのんだ。ギタリストを超えた鈴木の音楽家としてのスケールの大きさを感じさせた演奏だった。

後半に入って、西村朗作品。日本現代音楽の横綱らしい、期待通りの高品質な響きの海の中でハープが漂っている美しさに満ちた作品。作曲ノートにある「後半では、チューニング・キーを用いた曲線的な旋律も現れる」ところも、さすがな印象。西村自身の指揮でもって、安心して聴ける完成度といい、いいものを聴かせていただきました的な充実感を得たわけだけど。トリが西村朗ではなくピアニストの野平一郎なの?という疑問を持つ。作曲家としての野平一郎をわたしは知らない。

野平一郎作品はノイズを多用した作風で、野平自身の指揮で音楽がどんどん生気を帯びてデモーニッシュなうねりを作り出してゆく。この、現代音楽の野生!このコンポジションの出来は、指揮と奏者に大きく左右されるものではないだろうか。ライブの緊張と躍動が、一瞬を賭けたところに宙に浮いて進んでゆく。権代のシステマチックも、武満の優美も、西村の重層完成も、「それはそれだが」と、野平作品は突破しているものがあるように感じた。野生とは手の届かない謎である。野生を飼い慣らす格闘、というコトバもまたちょっとチガウかもしれない。スコアに書ききれないリズムとうねりの応酬でサムシングの到来に賭けるような、リスキーな道だ。この室内オーケストラという手段で、現在の時間を沸騰させていた野平作品。これこそ現代音楽の可能性だ。

40周年記念とはいえ「ハープの個展」は、その意味を超えるような提起をしていることに感動した。篠ア史子はハープ奏者を超えた、シーンを開拓し、作品に生命を与え続けるマエストロであるのだ。第12回である。第1回は72年東京文化会館小ホール、第2回は73年に同ホール。第3回は80年ドイツ文化会館。第4回は88年サントリー小ホール。第5回は89年カザルスホール。第6回は91年霊南坂教会(赤坂)。第7回は99年紀尾井ホール。第8回は01年東京文化会館小ホール。第9回は04年紀尾井ホール。第10回は07年オペラシティで三夜構成。第11回は09年サントリー小ホール。パンフレットにはその作品が一望できるリストがあるが、第6回を除いてどの回も当代の現代音楽作曲家への委嘱作品で構成されてきた。できることなら、すべての録音を聴いてみたい。日本の現代音楽のアーカイブにもなっていることだろう。

このコンサートの室内オーケストラにはクヮトロ・ピアチェーリ弦楽四重奏団の4人も揃っていた。4日後にショスタコーヴィチ・プロジェクト13公演が控えている(ショスタコーヴィチ14番、グバイドゥーリナ4番に加え、野平の弦楽四重奏曲第2番がプログラムされている)中にあって、素晴らしい演奏を聴かせてくれた。室内オーケストラにフルートの天才木ノ脇道元のクレジットがあったけれど、姿が見られなかった。ファンとしてはちょっと残念。代役?のフルート奏者は申し分なく上手かったですけれど。

こないだのハインツ・ホリガー公演では奥さまでハープ奏者のウルスラ・ホリガーが体調不良で来日できず残念でした。直後のこの公演なので、音楽の神さまは埋め合わせしてくれたのだろう。ヨーロッパ人と日本人だと、ハープの音色に異なる位相が現れるのだろうか、ホールの響き、空気の湿度、どこか筝との親和性が漂う独自性。それはひとつの探求だろう。「ハープの個展」、これからもできれば毎年の開催を期待したい。















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