Concert Report#477

サウンド・ライブ・トーキョー 菊地雅章ピアノ・ソロ
2012年10月26日(金) @東京文化会館小ホール
Reported by 多田雅範 Niseko-Rossy Pi-Pikoe
Photos by 前澤秀登 Hideto Maezawa

菊地雅章 Masabumi “Poo” Kikuchi (pf)

2セットとも聴いた。さすがジャズ・ピアニストだ。ステージに出た1曲目が抜群だった。

ファーストセットの1曲目、これがECMからソロとしてリリースされるトラック1なら、アリだ。そうか、これか。ファーストセットは6曲くらい演ったのかな、10、8、7、8、7、9くらいの出来だな。10点満点みたいな点数でもないけどさ。20年近く聴いてきたけど、トラック1が進化だ。

セカンドセットの1曲目、これが10点超えの演奏だった。東京のクラシックの殿堂である東京文化会館小ホール、「数々のピアニストの斃れた血糊が生々しいあの厳しいホールで、どれだけ説得力のある響きを叩き出せるものか」とおれは考えてきたけど、プーさんは凄かった。2曲目以降は7〜9の出来だったかな。

6月のブルーノートで菊地雅章TPTトリオ、ワールドプレミアで公演したジャズはとんでもない水準だった、事件だったと言っていい。今月、アメリカ最大のジャズサイトAll About Jazzで 「The Year of the Trio: Fred Hersch and Masabumi Kikuchi」(http://www.allaboutjazz.com/php/article.php?id=43004#.UIqZ62-vFGa)という記事が載った。今年はプーさんとフレッド・ハーシュの2つのピアノ・トリオの年だった、という、おれが書きたいくらいの断言だ。しかしよ、プーさんのピアノ・トリオってECMから出た『Sunrise』のことを指しているわけだけど、タイコのポール・モティアンは死んでんだぜ。残酷な記事だと思わねえか。どのピアノ・トリオを聴けというのだ。ヴィレッジ・ヴァンガードでTPTトリオをブッキングしているんならハナシはわかる(フレッド・ハーシュ・トリオはブッキングされてる)。TPTトリオはモティアンとのSunriseトリオの先を行っているからな。

TPTトリオを演ったプーさんに匹敵する出来は、それぞれのセットの1曲目だ。音のいいヤマハのピアノを選んだことも、マイクが4本立っていることも、状況的に正解だ。

と、こう書いておいて、だ、どの曲もプーさんらしい厳しく研ぎ澄まされた演奏だったよ、どの瞬間の集中にも納得がいった。わたしも奏者になって、音と一体になれた。

一時期いろいろとNYのプーさんとメールでやりとりしていたんだけど、『Sunrise』がリリースされてからはメールは控えている。絶賛されることも、記事になることもおれはわかっているし、死線を乗り越えてくれただけでファンのおれは満足だ。アビさんというお嬢さんがいることは、ついこないだまで知らなかった。今日、誰にも教えられずにアビさんはこのひとだとわかったのは、不思議だった。

ジャズの特権は、さ、今を生きることでしょ、と、メガネの奥の真剣な目で優しく諭された?のは2001年のインタビューだった。おれはまだECMフリークに毛がはえた程度の耳の編集者だった。どこでどうおれの耳が今に至ったのかよくわからない。

プーさんがタワレコのフリーペーパーintoxicateのインタビューで、TPTトリオにアンドリュー・シリル(タイコ)、ティム・バーン(サックス)を加えようと考えていたようだけど、その後の展望が気になる。とにかくTPTトリオの音源は早くCD化してほしい。すでにかなりの量になっているだろうTPTトリオ音源、ジャズ史の重要文化財だ、アイヒャーは信用できん、ECMのスティーブ・レイクに預けるべきではないだろうか。

コンサート会場で「ウォール・オブ・サウンド」という文庫本のような冊子をもらった。「人生のある時点で自分を守るために用いた曲について」のエッセイ集。なるほど、防御としての音楽。今の若いひとは最初から世の中は派遣労働の現場だったり、切ないな。おれも今は日雇いだがな、おれはいいんだよ。そのエッセイの一節、「タコ部屋には淡路島から両親が死んだので来たという本来なら中学生の男の子も居た」、ううむ、現実にツメを立てるちからが音楽にはあると信じたくなるようなコンサートだった、な。

プーさんの笑顔、手をふる。  



WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.