Concert Report#479

庄司紗矢香&ジャンルカ・カシオーリ
ヴァイオリン・デュオ・リサイタル
2012年10月30日 @サントリーホール
Reported by 佐伯ふみ Fumi Saeki

庄司紗矢香 (vn)
ジャンルカ・カシオーリ(pf)

ヤナーチェク:ヴァイオリン・ソナタ
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第10番ト長調作品96
ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ ト短調
シューベルト:幻想曲ハ長調D934

 カシオーリの緩急自在、軽やかなピアノに、庄司の品格ある美しい音色のヴァイオリン。魅力あるデュオが、2010年に引き続き2度目の日本ツアーを行うというので聴きに出かけた。残念ながら前回は聴き逃したのだが、このデュオでほぼひと月をかけて全国17カ所を回る大ツアー。人気のほどがうかがえる。

 聴いてみた印象としては...その人気ぶりを改めて納得したのが半分、しかし物足りない思いも少なからず残った。貶るつもりはないし、若い世代を代表する名手であることをもちろん認めたうえで、惜しいなぁ、という嘆息である。

 ヤナーチェク、そしてドビュッシーの速い楽章では庄司の美質を十分に堪能した。とくにヤナーチェクの2楽章、高音域でのピアノとのやりとりは実に美しく、惚れ惚れした。どれほど高度な技術を要するパッセージでも、決して揺るがないピッチ、悠揚せまらざるリズム、テンポの構築。確かな技術と強靭な精神力を感じさせ、それがまたごく自然で、無理をいっさい感じさせないことが、庄司の最大の魅力だろう。
 骨格の大きさで魅せる庄司に、細やかで多彩な音楽表現で深みを与えるのがカシオーリのピアノ。近年作曲家としても評価を高めていると聞けば、さもありなん。作曲者の言わんとすることを細部にわたって読み込み、それを確実に音楽として表現する。あたりまえのようだが、窮屈さや学究的な厳格さではなく、音楽する楽しさが自然に伝わってくる音楽家はそう多くはない。ただ、今回のカシオーリは伴奏者として、一歩引いたスタンスを堅持しているようにも聞こえた。もっと突っ込んで、ソリストを挑発したり牽引したりという、デュオならではの面白さも聴かせてほしい。

 さて、物足りないのは緩徐楽章である。若手音楽家にはありがちのことではあるけれど、1つだけ例をあげるなら、シューベルト《幻想曲》の冒頭のC音。たゆたうようなピアノに乗って、シンプルなCが密やかに、しかしある確信をもって響いてくる。筆者などはこのCを聴いただけで心が震えるような、切なさ、美しさを湛えた箇所だ。しかし演奏者は、どれだけの思いをもってこの音を発していただろう? 
 音楽の美しさ、そこに込められた深さに、演奏者みずからが感動し、それを聴き手に伝えたい、共有したいと願う。それが演奏というものだと筆者は思う。美しさと深さを感じ取る感性、それを確実に表現できる技術、それに加えてもう1つ、プロの舞台人に必要なのは、それを他者に伝えたい、伝えねばという情熱だろう。作品に向き合う姿勢がいかに誠実であっても、いかに巧みで美しい演奏であっても、聴いていて心が満たされないという音楽会は少なくない。エンターテイナーとしての別の技術、心の姿勢が必要なのだ。

 まだまだ若い2人、舞台での立ち居振る舞いも、まだなにか学生のようなぎこちなさが残る2人である。これだけの才能の持ち主が、今後どれだけ音楽を深め、舞台人として成熟していくことか。期待したい。



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