Live Report#489

来日直前緊急レポート
Maria Schneider Orchestra
2012年11月21日 @Jazz Standard、NYC
Reported & photographed by 常盤武彦 Takehiko Tokiwa

*初来日直前、ラージ・アンサンブルのミューズ、マリア・シュナイダーの恒例レジデント・ギグ

Set List
1st Set:
Concert in the Garden
Journey Home
Dance you Monster to My Soft Song
Home (新曲)
El Viento

2nd Set:
Evanescence
Gumba Blue
Thompson Fields (新曲)
Nimbus (新曲)
Arbiters of Evolution(新曲)
Over The Rainbow

 アメリカの秋の深まるサンクスギヴィング(感謝祭)週間は、2005年から始まったマリア・シュナイダー・オーケストラの5日間12セットのレジデント・ギグが、ミッドタウンのジャズ・クラブ、ジャズ・スタンダードで開催される。2012年は、1992年にグループ結成、ファースト・アルバム『Evanescence』を録音(発売は94年)してから20周年を迎える、セレブレイト・イヤーでもある。結成当初の1993年からの5年間は、ヴィレッジにあったクラブ、“ヴィジオーネス”に毎週月曜日に出演し、停滞していたジャズ・ビッグ・バンド・シーンに超新星現れると衝撃を与えたシュナイダーだったが、あれから20年、南北アメリカ、ヨーロッパ各地の団体からの多くのコミッション・ワーク(委託作品)を手がけ、また自らのグループでのワールド・ツアーを敢行し、世界最高峰のラージ・ジャズ・アンサンブルへと登りつめた。本拠地のニューヨークでも、その演奏を集中的に聴けるのは、この11月の第3週ぐらいなので、毎年待ち遠しい一週間である。そして今年は、12月にいよいよ待望の初来日公演 (12/17〜20 於ブルーノート東京)を控えている。

 マリア・シュナイダーは2007年に現時点での最新作『Sky Blue』をリリース後、2008年からソプラノ・オペラ歌手のドーン・アップショウとのコラボレーションで、19世紀のブラジルの詩人カルロス・ドゥルモンド・デ・アンドラーデの詩をモチーフにしたチェンバー・ミュージックを制作。セント・ポール・チェンバー・オーケストラと共演によって、クラッシック音楽の分野にも進出し、同年にシュナイダーの地元のミネソタ州セント・ポールで、2011年には、カーネギー・ホールでのコンサートも成功をおさめた。この秋は、同プロジェクトに、さらにオーストラリア・チェンバー・ミュージック・オーケストラに、自らのグループからフランク・キンボロウ(p)、ジェイ・アンダーソン(b)、スコット・ロビンソン(reed)が参加した新曲<Winter Morning Walk>を録音し、来年3月にリリースの予定である。
 ラージ・アンサンブルでも、作曲プロセスを公開し、アーティスト・シェアのシステムでリスナーから制作資金を募り、故郷のミネソタで農場を経営する友人に捧げた<Thompson Fields>、ブラジル音楽をモチーフにした<Lembranca>、今年のニューポート・ジャズ・フェスティヴァルでプレミア演奏され、プロデューサーのジョージ・ウェイン(p)に捧げられた<Home>の3曲のコミッション・ワークと、新曲<Nimbus>と、ダニー・マッキャスリン(ts)と、スコット・ロビンソン(bs)をフィーチャーした最新作<Arbiters of Evolution>の、5曲の新曲が用意されている。この日の2セットで、この中の4曲が披露された。ファースト・セットでは<Home>が演奏される。ミュートをかけたトロンボーンのストリングスのようなオーケストレーションの上で、シュナイダーの作曲をインスパイアしてくれると讃えるリッチ・ペリー(ts)が、珠玉のバラード・プレイを聴かせてくれた。またセカンド・セットでは、広大なアメリカ中西部の大自然を描く<Thompson Field>は、農場のサイロの上から見渡す流れる麦穂、真っ赤に暮れゆく夕日のイメージが目の前に広がるような壮大なテーマの曲で、フランク・キンボロウ(p)とラーゲ・ルンド(g)が、スペイシーなソロを繰り広げた。シームレスに繋がる<Nimbus>では、スティーヴ・ウィルソン(as)のロング・ソロ。そしてシュナイダーが愛してやまない渡り鳥の生態を再びモチーフにした、変拍子の<Arbiters of Evolution>では、この日、ダニー・マッキャスリン(ts)に替わってセカンド・テナーの座についた、クリス・ポッター(ts)が、スコット・ロビンソン(bs)と、激しいせめぎ合いを聴かせてくれた。音楽でストーリーを語り、リスナーを歓喜に満ちた世界に導きたいと語る、シュナイダーの音楽哲学が見事に投影された諸作である。
 東京公演では、これらの5曲の新曲に、今までの6枚のアルバムからのセレクションで、セット・リストを構成するそうである。一日の2セットはすべて異なる曲を揃え、4日間8セットすべてを聴いても重複する曲は2、3曲ぐらいにするとシュナイダーはその意気込みを語ってくれた。

 ファースト・アルバム『Evanescense』からタイトル・チューン、<Gumba Blue>、<Dance You Monster to My Soft Song>、セカンド・アルバム『Coming About』のエンディングの<El Vient>など、かつて90年代半ばに、ヴィジオーネスでよく聴かせてもらった懐かしいラインナップが、この夜も再現された。現在のシュナイダーがほとんど取り上げないストレートなスウィング・チューンが、新鮮に響く。シュナイダーは4作目の『Allegresse』から、グループ名をマリア・シュナイダー・ジャズ・オーケストラから、マリア・シュナイダー・オーケストラへと変更し、ジャズの範疇に収まらない壮大な音楽へ進化した。その転機には、初めてのブラジル旅行が大きく影響を与えており、自らの音楽がダークな陰影を帯びたものから、明るく歓喜に満ちたものへと変貌したと語っている。飽くなき音楽の完成を追求し、メンバー・チェンジも繰り返してきた。リッチ・ペリー(ts)、スコット・ロビンソン(bs)、グレッグ・ギスバート(tp)、ロリー・フランク(tp)、キース・オクィーン(tb)、ジョージ・フリン(b-tb)ら、ホーンの中核をなすメンバーは結成時から不動だが、シュナイダーの音楽の変遷と共に、リズム・セクションは交代を繰り返している。2作目から参加しているフランク・キンボロウ(p)に、ジェイ・アンダーソン(b)、そしてスペースを感じさせるドラミングで、多彩な表現が可能になり自分の音楽には不可欠な存在とシュナイダーが語ったクラレンス・ペン(ds)が加わり、シュナイダーの音楽に独自の色彩をもたらす、異能のアコーディオン奏者ゲイリー・ヴェルサーチと、結成時のメンバーであるベン・モンダー(g)で完成するのが、シュナイダーが現時点のベスト作と語る、グラミー賞ラージ・ジャズ・アンサンブル部門を受賞した『Concert in the Garden』の頃である。ギタリストは、その後も変遷を辿り、1年ほど前からは、若手のラーゲ・ルンドが参加している。そして『Sky Blue』で、古参メンバーに加えて、ダニー・マッキャスリン(ts)、スティーヴ・ウィルソン(as)、イングリッド・ジェンセン(tp)、ライアン・ケベール(tb)、マーシャル・ギルケス(tb)らで鉄壁のソリスト陣が完成した。このメンバーで演奏するオールド・レパートリーは、同じアレンジメントにもかかわらず、新たな息吹を吹き込まれ、鮮やかに甦る。

 来日メンバーに、スティーヴ・ウィルソン(as)を欠くのが惜しまれるが、ベスト・メンバーを揃え東京公演に臨む。シュナイダーは、二人の恩師、ギル・エヴァンス(p,kb,arr)からは流麗なライン構成を学び、ボブ・ブルックマイヤー(tb)からは、複雑な構成の長い曲を書く勇気をもらったと語った。ジャズ・ビッグ・バンドのフォーマットで、インプロヴィゼーションを基調としながら、クラッシック、ブラジルやペルーのラテン・アメリカ音楽、ポップ・ミュージックの要素を盛り込んだ、独自の音楽を構築してきたマリア・シュナイダーは、自らを“コンテンポラリー・アメリカン・ミュージック・コンポーザー”と、捉えていると言う。その華麗にしてカラフルな音世界の全貌が、いよいよ東京でも、この冬、明らかになる。

マリア・シュナイダー・オーケストラ来日公演詳細は下記サイトをご参照下さい。
http://www.bluenote.co.jp/jp/artist/maria-schneider/





















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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

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#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
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#10 Contents
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#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
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