Concert Report#496

ザ・チーフタンズ結成50周年記念ツアー/シンフォニック・ナイト with 新日本フィル
2012年11月30日 @すみだトリフォニーホール
Reported by 伏谷佳代(Kayo Fushiya)
Photos by 三浦興一(提供:すみだトリフォニーホール)

<出演>
ザ・チーフタンズ(The Chieftains)
パディ・モローニ(Paddy Moloney;uillean pipes & whoistle)
マット・モロイ(Matt Molloy;flute)
ケヴィン・コネフ(Kevin conneff;bodhran & vocal)
トリーナ・マーシャル(Triona Marshall;Irish harp)
ジョン・ピラツキ(Jon Pilatzke;step dance & fiddle)
ネイサン・ピラツキ(Nathan Pilatzke;step dance)
キャラ・バトラー(Cara Butler;Irish dance)
ディニー・リチャードソン(Deanie Richardson;fiddle)
ジェフ・ホワイト(Jeff White;guitar)
アリス・マコーマック(Alyth McCormack;vocal)

竹本泰蔵(Taizou Takemoto;conductor)
新日本フィルハーモニー交響楽団


<プログラム>
<第1部>
ザ・チーフタンズ・オン・ステージ

<第2部>
ザ・チーフタンズ with 新日本フィル(編曲;ザ・チーフタンズ)

March of the King of Laois(レーイシュの王様;アイルランド民謡)
The Long Journey Home〜Thema----Shenandoah----Anthem(TVドキュメンタリー『ロング・ジャーニー・ホーム』より)
Galician Overture(『ガリシア序曲』)
Planxty Mozart(『モーツァルトを讃えて』)
Did you ever go A-Courtin’, Uncle Joe・・・

予想を裏切らぬすばらしい音体験であった。結成半世紀、アイリッシュ・カルチャーの精髄の伝道師として、有無を言わさぬ高精度の音楽を供し続けてきた。おもに口承で伝えられてきたというケルト・ミュージック、さらにワールド・ミュージック・ブームで流行り廃りの激しい昨今において、そうした不確実性を物ともせずに、彼らの音楽に触れた人の心をますます虜にしてきた実績は偉業と呼ぶにふさわしい。なぜか遠く離れた島国である我々日本人のツボへ嵌まる節回し、日常に根ざしながらも、気がつくと流れるような叙情性へと口を開けるパッション、そして何より「エンタテインメント」というブレない第一義が、フィドルやイーリアン・パイプなどの伝統楽器からダンスまでを含む総合的なパフォーマンスをダイナミックに、弾力的にまとめあげてゆく。


来し方が自然に滲む貫禄...チーフタンズ・ソロ

第1部はチーフタンズ単独、第2部が新日本フィルを迎えてのシンフォニック・ナイトであったが、リーダーであるパディ・モローニが曲の合間に紡ぐMCが味わいたっぷりで、曲を奏でるのと何ら変わりない音楽性を湛えている。あたかも蚕から絹糸が吐き出されるように、音楽の精がステージから姿を消すことは片時もない。さまざまなジャンルを大きく跨ぐ越境的な活動を当然の生業としてきたチーフタンズだけあって、器楽的に見ても新旧の混淆がごく自然に立ち現れる演奏である。例えば、トリーナ・マーシャルがアイリッシュ・ハープからエレピへ弾き替えするときも、その移行は驚くほどスムースであり、フォークロア性が損なわれることなく現代性のみが加味される。また、今回はアメリカのカントリー・ギタリストであるジェフ・ホワイトを招いていることもあり、やはり想像力は旧大陸から新大陸へ、アイリッシュ・トラッドとカントリー・ブルースとの出会いへと飛ぶ。途中でストーンズの「サティスファクション」のリフが楽器総出で増幅されてゆくシーンなど、現代のベクトルから過去を俯瞰しているような不思議にノスタルジックな感覚が呼び覚まされる。アイリッシュ・ミュージックとは、アイルランドに根付く音楽という以上に、アイルランド人とともに移動する音楽であることを今更ながらに納得する。絶えず人とともにある音楽。形骸化されずに変容をくり返すのを身上とするからこそ、その生命力は世界中で熱狂される(ケルト性というべきものだろう)。そうしたバンドの今に至る道程の一部が、この日はアメリカ大陸というオブラートのなかで豊かに提示されていた。


さて、後半のオーケストラとの共演、当然イメージされる「伝統音楽とクラシック音楽の融合」、さらにそれがついに日本で実現したことへの万感のおもいについては、松山晋也氏による当日のプログラムに詳しい。パディ・モローニ以下初期のメンバーはクラシック・ジャズ系の室内楽団「キョールトリ・クーラン」のメンバーであった。そのため、まさにチーフタンズ生成の素地としてクラシックへの傾倒が含まれていたという。また、当夜の公演に関しては、10年前におなじ会場での同様の編成が予定されていたにも関わらず、ハープ奏者であるデレク・ベルの急死によりキャンセルになったという経緯もある。


互いへのリスペクトが増幅させるユーモア...チーフタンズwith竹本&新日本フィル

そうした固有の事情とは別に、これまでさまざまなコンサートで(先日のミシェル・ルグランも記憶に新しいが)まさに「仕事人」的な過不足ないサポート力を見せてきた竹本泰蔵と新日本フィルのコンビが、幾多の灰汁と手癖を最強度の個性にまで高め、ビロードのような光沢を放つチーフタンズの音楽に対し、どのような出方をするのかに興味津々であった。例えば2曲目の『ロング・ジャーニー・ホーム』はコーラスまで入っての大所帯となったが、イーリアン・パイプの突き抜けたアコースティック能力に聴き手は終始気圧されつつも、エレピやパーカッションなど各々のパートの重なりが一陣の風のごとく指揮者のダイナミズムのもとに収まり、ふわりと煙に捲かれる心地よさがある。大編成ながら威圧ではなく、ジャンルを超えた音楽のエレガンスともいうべきもので場を高揚させるのである。つづく『ガリシア組曲』と『モーツァルトを讃えて』は、安易な融合とは相容れないしたたかな調和路線。絶妙に距離を取りつつケルト性を浮き彫りにし、サウンドを肉厚にするのに一糸乱れぬ貢献をしていたオーケストラのとりわけパーカッション・パートが、終盤に近づくにつれてチーフタンズが奏でる、畳み掛けるような土着のリズムに食い尽くされてゆくのはスリリングこのうえない。攻め、ならぬ引きの演出が得がたい(『ガリシア組曲』)。また、あえてホルンなど金管パートでの軽やかな規則性を強調し、チーフタンズの強烈な音圧とのギャップを対比させた『モーツァルト〜』も練れている。パディ・モローニのアレンジの才がいかに優れているか証明するような楽曲のひとつであるが、すっきりとシェイプされた竹本泰蔵の音楽運びによって、この曲を初めて聴く人にとっても、楽しむべきツボが、判りやすく楽しく伝わったのではないか(指揮者本人が一番楽しんでいたかもしれないが)。音圧のひずみが激しいほど、余白が生むヴァリエーションは多彩になり、シンバルやダンスがそれらをヴィヴィッドに加速してゆく。大円団の『Did you ever go A-Courtin’, Uncle Joe・・』はお決まりのメンバー紹介を兼ねた各パートのメドレー。オーケストレーションが交互に挟み込まれる。曲のテーマがアイリッシュ・トラッドとカントリー・ブルースとの関係性だけあって、ここでもやはりギターが大活躍する。とりわけ中盤で、フィドルとアイリッシュ・ハープにそれぞれギターが折り重なるあたり、全体に与える凪のようなつま弾きの作用が密やかな醍醐味を生んでいた(*文中敬称略)。


【関連リンク】
http://www.thechieftains.com/main/













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