Concert Report#502

第746回東京都交響楽団定期演奏会
2012年12月20日(木) @東京文化会館
Reported by 多田雅範

指揮/ヤクブ・フルシャ

マルティヌー:交響曲第6番「交響的幻想曲」
ベルリオーズ:幻想交響曲

マルティヌーを本質的に発見したかけがえのない演奏。
が、都響に集う観客はモンダイだ。

以前フルシャにインタビューをしたとき、プログラムの建て方について彼は「自分がいわば"チェコの音楽大使"としての使命も担っていることを意識しつつ、ドヴォルジャークやスメタナだけでなく、まだ世間一般によく知られているとは言い難いマルティヌーの作品なども積極的に取り上げていきたい。それと同時に、出自とは関係なく指揮者としてとり上げたいポピュラーな作品を組み合わせればバランスのとれた選曲になり得る」と語っていた。(吉村渓のテキストから)

(都響にはこないだ聴いたクラリネットの天才女子近藤千花子がいるんだ、あれ?居ないなー)なんて構えでステージを見ていたものだったが、彼女は東京交響楽団の奏者だったという勘違いはあとで知った。

彼女のリサイタルのマルティヌーも良かったし、最近図書館で借りたマルティヌーも良かった。20代の頃に初めて聴いたマルティヌーは、現代音楽っぽさのカッコ良さを求める耳だったから「小犬みたいな名前の作曲家で好みじゃないよ」と友人に借りたCDを返した記憶しかない。

ステージに立った若きヤクブ・フルシャの指揮が始まる。じつに楽曲の隅々までミリ単位までズレないように緊張するかのような図形的な身動き。オーケストラが放つ響きが5つの層になって、その響きが増幅したり、相互侵食したり、風景を変えてゆく様子であり、それは、じつに誠実なあや取りで観客に翻訳してみせたと言える。この様相は、オーケストラの実力の証明でもあり、フルシャの指揮は賞賛に値する。

そして同時に、やはり若い指揮者であることも、感じさせた。スコアに誠実なあまりに、マルティヌーを崇め奉ってしまっていたのでもあった。伝えなきゃいけない、という使命感まで、わたしはこの指揮に感じた。これだけ作品を手の内にしているのだから、ちょっとだけ手綱を緩めて音楽を曲線の連続にしてしまえばいいのに、どのステップも踏み逃さないように気を遣う余りに若いスポーツ選手の一途さになってしまうのだ。ちょっと、もったいないなあ。

とはいえ、音楽からわたしが受けた感銘は「マルティヌーって、すごい!ブラボー!」なのである。フルシャは使命をまっとうしたのである。マルティヌーをもっと聴きたい。わたしにとってマルティヌーを本質的に発見したかけがえのない演奏だった。

この前半を聴いただけで、大満足でおつりがくる。後半のベルリオーズの曲は古いタイプのハードロックのようであまり好きではないのだし。

「演奏が終わっても、音楽を楽しんでおられるお客様のご迷惑にならないよう、指揮者がタクトを降ろしてから拍手をされますよう、お願い申し上げます」と、開演前にこれだけ何度もアナウンスするのは都響だけなのだな、と、思ってはいた。さすが東京都、音楽のことをよくわかってらっしゃる。大賛成。

なんだけど、ベルリオーズのエンディングでは、最後の音符が大音量で鳴り響いて、指揮棒が上がって即座に同時に5ヶ所以上からブラボー親父たちが怒声を上げてた。これは何の競争なの?開演前の重なるアナウンスの意味が悪寒のように襲ってくる。

思えば。楽章を終えるごとに、会場のあちらこちらから「ごほ、ごほ」「がは、がは」「ぐふう」「ごわっほう!」・・・。咳払いの世界選手権でもやってんのかい!という極めて不快な空気に満ちていた。

まったく後半はベルリオーズ以前のモンダイだった。サントリーホールや紀尾井ホールでのコンサートでは、こんなことはない。

前半で帰れば良かったと思いながら、公園口公園改札から山手線に乗って帰った。

これは都響に集う観客のモンダイだ。25日にこの都響で第九を聴きに行くつもりでいたけれど、これでは行けない。

これでは公演評にならない。しかしながら、この揺るぎない体験は、記すところからしか、次の音楽は始まらないともひとりの聴き手として思ったりもしている。

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.