Concert Report#503

ゲルハルト・オピッツ/シューベルト連続演奏会第6回
2012年12月27日(木) @東京オペラシティ・コンサートホール
Reported by伏谷佳代(Kayo Fushiya)
Photos by林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<出演>
ゲルハルト・オピッツ(Gerhard Oppitz;pf)

<プログラム>
*オール・シューベルト・プログラム
ピアノ・ソナタホ長調D459
ピアノ・ソナタト長調D894
<休憩>
即興曲集D935

*アンコール
3つのピアノ曲D946より
第1曲変ホ短調

オピッツのシューベルト・チクルスを聴くのも早や3年目を迎えた。今回の来日では、チクルス全8回のうち、第5回と6回の2公演である。暮れも押し迫った第6回を聴いた。以前も触れたことだが、このチクルスでは時系列に曲を配すのではなく、初期から後期までの曲が各回に盛り込まれているのが特徴でもある。
 
右列後方の客席にて拝聴。初期のうららかなピアノ・ソナタD459が始まってからの第一印象は、ややリヴァーブが強すぎるな、というもの。ひたすらに夢幻的な薄靄(もや)が連続する。もちろん、ピアノの響きという点では申し分のない伸びやかさであるし、オピッツの叙情性を頑健なるジャーマン・ピアニズムの「入れもの」抜きで差し出されている気分にはなるのだが。ピアニシモのうつくしさも格別である。しかし、その美は直球の投げかけというよりも、空気のように隙間から浸透してくる性質のもので、やや捉えどころのない感じもする。だが、そこは流石オピッツ。こうした杞憂は長く続かない。終楽章のアレグロへと進むにつれて、茫漠とした静けさのなかから確固とした道筋が立ち現れはじめる。造形のしっかりとした、シェイプされた音色による左手の疾走がそうした印象を聴き手に与えるのであろうが、このあたりの締め上げ感から前半部分を振り返ったとき、初めてコントラストが活きてくる。確信犯でありヴェテランの解釈であるが、作曲家若年期の「ういういしさ」という観点では、ややオピッツの存在のほうが勝ってしまったようだ。うるさい聴き手には好みが分かれるかもしれない。

さて、オピッツらしさとは何か、と考えたときにまず挙げられるのが、この「シェイプされた音色」である。つづくソナタD894でまさにこの美点が証明されたといえるだろう。オピッツの出す音のことごとくは、弱強や質感によらず、すべてがたしかに「届く音」である、という事実。埋もれる音が全くないことが、結果的にゆっくりと堆積してゆく充足感をもたらす。
 
白眉は休憩後に奏された即興曲集D935である。明確な意志の化身ともいえる音が乱舞し交錯するが、それらが牧歌的なのどかさを一切損なわぬムードのなかで実現されていた第1曲、ぬかるみに沈みこむような深い歓喜を増幅させつつも、一貫して表層の軽やかなテンションを維持していた第3曲など、規模のおおきな曲での複層的な手綱さばきがやはり光る。稚気に満ちあふれながらも、一抹の哀切さを含む高音の瞬きはまぶしいほどだ。和声や転調の推移がそのまま音楽となっているような、絶えず全体の仕上がりから細部が意味を帯びてくる豊かなストーリィ性は、オピッツの音楽からしか味わうことのできぬ異彩を放つ。 チクルスの完結編に期待したい(*文中敬称略)。

【関連レポート】
http://www.jazztokyo.com/live_report/report393.html
http://www.jazztokyo.com/live_report/report304.html

 











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