Concert Report#515

エグベルト・ジスモンチ & アレシャンドレ・ジスモンチ「ギターデュオ、ピアノソロ」
Egberto Gismonti and Alexandre Gismonti "Guitar Duo, Piano Solo"
Jazz Week Tokyo 2013
2013年3月27日(水) 19:00〜 渋谷ヒカリエ 東急シアターオーブ
Reported by 神野 秀雄(Hideo Kanno)
Photo by池田エイシュン

-1st set-
Egberto(g) & Alexandre(g) duo
1. Dança dos Escravos
2. Águas Luminosas & Dança
3. Carmen

Alexandre (g) solo
4. Palhaço
5. Chora Antonio

Egberto(g) & Alexandre(g) duo
6. Mestiço e Caboclo
7. Lundu

-2nd set-
Egberto (g) solo
1. Selva Brasileira
2. Raga

Egberto (p) solo
3. 7 Anéis
4. Infância
5. Frevo

Egberto (p) & Alexandre (g) duo
6. Fala da Paixão
7. Sanfona
8. Forrobodó

-Encore-
Água e Vinho

 

東急東横線渋谷駅ホームが86年の歴史の幕を閉じ、地下鉄副都心線直通の地下ホームへ移った3月下旬、新駅真上11階にある渋谷ヒカリエ・東急シアターオーブで「Jazz Week Tokyo 2013」が開催され、その最終日、1947年生まれ65歳の父エグベルトと、1981年生まれ32歳の息子アレシャンドレの父子によるコンサートが行われた。2009年のアルバム「Saudaçoes」(ECM2083)で、すでにその音は日本にも届いていたが、コンサートは初。1,927人収容の東急シアターオーブはほぼ満席、開演前、異様なまでの期待と興奮に包まれていた。
第一部は、エグベルトとアレシャンドレのギターデュオで幕を開ける。「Dança dos Escravos」から始まる3曲。エグベルトの10弦ギターにアレシャンドレの6弦ギターが絡み寄り添う。エグベルトがアレシャンドレにずっと優しい眼差しを注ぎ、アレシャンドレがそれに演奏で応える。その家族ならではの空気感がこれまでの来日と大きく異なる。いったんエグベルトがはけて、アレシャンドレのソロで2曲。私の大好きな「Palhaço」。あれエグベルトのピアノじゃなくてここで?とは思ったが、あえて息子にこの曲を託すエグベルトの気持ちと、シンプルだが心をこめて「Palhaço」のメロディをホールに響かせるアレシャンドレに好感を持つことができた。そしてデュオに戻り2曲演奏した後、休憩に。

第二部は、ジスモンチの12弦ギターによるギターソロから。12弦ギターは一部が復弦となり美しい響きとなり、デュオと使い分けている。エグベルトのギターソロが極限まで研ぎ澄まされ成立していることを再認識する。多くの観客にとってこの夜のハイライトとなったのは、次のピアノソロのパート。ちなみにピアノはスタインウェイ。「7 Anéis」「Infância」と壮大な展開をしていく名曲が続く。祈りなのか、ピアノに気を送っているのか、心で話しかけているのか、1曲ごとにピアノの向かって右側の角に手を置いて、しばらく静かに立ち、そしてピアノに向かう。静寂のホール空間にオーケストラがいるかのような無限の世界が広がっていく。初めてのエグベルト体験となったたくさんの観客にとっては神がかった特別な時間と受けとめられたと思う。そして「Frevo」も実にすばらしい。第二部はセットリストにはないいくつかの曲のフレーズが織り込まれていたようにも思う。そして、アレシャンドレの6弦ギターが加わり、ピアノとギターのデュオになる。ギターデュオの場合は明確な個性の分離が難しい点もあったが、ピアノとギターのソロはよりわかりやすくアンサンブルを楽しむことができた。鳴り止まない拍手の中、アンコールでは「Água e Vinho」が演奏された。

エグベルトの初来日は、1979年3月中野サンプラザ「ECMスーパー・ギター・フェスティバル」。まだ知名度が低かったエグベルト・ジスモンチ、バット・メセニー、ジョン・アバークロンビーを当時ECMと契約していたトリオレコードが一気に招聘。当時としては冒険だったろうし、その英断をされた担当A&Rの稲岡邦彌らには頭が下がる(当時は、英語読みで「エグベルト・ギスモンティ」と表記されていた)。1990年頃、私が大学ジャズ研で「Palhaço」(私がサックスなのでヤン・ガルバレク&チャーリーヘイデン版)を演奏していた頃も、ジスモンチと言ってもそれほど通じなかった。2007年のソロは770人収容の第一生命ホールなどであったが、今回は1,972人収容の大きな会場で、多くのミュージシャンや音楽業界関係を含むこれだけたくさんの聴衆が、ジスモンチ父子来日を心待ちにし、暖かく迎える。ジスモンチをこれまで日本に伝え、招聘されてこられたすべての方々に、今回、父子のコンサートを実現してくれた方々に深く感謝したい。

これまでのソロコンサートで、一曲目からアンコールまで、鬼気迫りまくり、鳥肌たちまくりを体験してしまった以前からのファンには、若干の物足りなさを感じた一瞬もあったかもしれないが、いままでの音楽は優しいが、ちょっと怖いようでもある表情から、優しい思いやりに溢れた表情での家族と奏でる音楽は、違う意味でさらに私たちを魅了する。

1981年、アレシャンドレ誕生の頃にリリースされた「Em Familier」(EMI)には、アレシャンドラがジャケットを飾り、「Branquinho」 にはその声も入っている。詳細は、コラム・タガララジオ(track218)を参照されたい。
http://www.jazztokyo.com/column/tagara/tagara-32.html
職業音楽家エグベルト ジスモンチにも家族がいて、息子がいるのではなくて、ブラジルの大地に生まれ、世界の離れた土地の先祖たちからの生命を受け継ぎ、家族とともに生きて、家族の中から生まれてきたエグベルトの音楽を今までおすそわけしてもらってきたのだと思う。来日公演として、アレシャンドレとの演奏がいまエグベルトがやりたいことであるなら、その形はよかった。そう考えると、アントニオ・カルロス・ジョビンもファミリーで来日していたし、バーデン パウエルも息子二人と、ジョイスも娘二人とも来日している。カエターノ・ヴェローゾもモレーノがいるし、イリアーヌにもアマンダ・ブレッカーがいる。ブラジルの音楽文化では家族で演奏すること、ツアーに出ることは当たり前なのかも知れない。そしてすばらしいミュージシャンになって独り立ちしていく例も少なくない。今回のアレシャンドレは遠慮があってちょっとおとなしめの印象があったが、もっと父と個性がぶつかるような演奏も期待したい。またアレシャンドレのアルバムが今後ECMから出る可能性もあるらしい。ここまできたら、エグベルトの娘ビアンカ、妻ドゥルシ・ヌネスとの競演も聴きたくなってきた...それはさておき、ヤン・ガルバレク&チャーリー・ヘイデン、あるいはナナ・ヴァスコンセロスとの来日なんてのは今さら難しいと思うが、私はバンド形式での演奏を体感したことがなく、そういった来日も期待していきたい。「Em Familia」ジャケットの優しい眼差しを実感することができた今回の来日公演。たくさんの観客に、熱く、爽やかで、優しい思いを残してブラジルに帰っていった。


Egberto Gismonti / Em Familia
Brasil EMI
ボンバ・レコード BOM24195


Egberto Gismonti
SAUDAÇÕES (ECM2082)

関連サイト:
http://www.facebook.com/jazzweektokyo
http://www.shalala.co.jp/gismonti/

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