Concert Report#517

航プレゼンツKarl2000日本デビュー・ツアー
Reported by伏谷佳代(Kayo Fushiya)

ニューヨークで活躍するサックス・トリオ、Karl 2000の日本デビュー・ツアー。この日は航(ピアノ& ヴォーカル)による企画で、対バンとしてMUMU、航みずからが参加。 まず、植村昌弘(ds)、中根信博(tb)、本間太郎(key)によるトリオ・MUMUから。最近気になるミュージシャンが軒並みトロンボーン奏者ということもあり、この楽器編成でまず思い出してしまうのがニルス・ヴォグラムのノスタルジア・トリオか。ハモンドとエレピの違いはあるものの。本間太郎というピアニストの生ピアノの演奏を以前聴いて感銘をうけたことがあるが、彼のおおきな魅力である伸びのよい芳醇な音色や気配造りの巧さは、エレピでは影をひそめてしまう。よって、もうひとつの持ち味であるリズム面でのコントロールの良さがひたすら浮き彫りになることに。アタックがとても鋭い。ツイン・ドラムのように聴こえる。しかし、さすが植村のバンドだけあって、容赦のない切磋琢磨感がむき出しだ。ピアノもトロンボーンもドラムに向かっての対面スタイルで、レアな音のぶつかり合いのスリルは満点だが生傷の絶えない瞬間がつづく。植村道場か。トロンボーンの中根もプランジャーなどは用いないストレート勝負。タイトな音の攻めは痛快。だが、あまりメロディ的な良さは生かされない。さまざまな引き出しをもっていることを窺わせたが、植村のテンションが張り巡らされているのでユーモアや中根ならではの個性の浸み込んだフィーリングにまで若干届かない気がした。ある種サディスティックなひりつきこそが植村というミュージシャンの強力な個性であり魅力であることは百も承知のうえで、あるいは、ギクシャク感で逆に面白みを出しているのかもしれないが、ほっと気の抜ける瞬間もたまには欲しくなるのは単なる聴き手の我儘か。こういうバンドでは、リズムで畳み掛ける〆の1曲が光っていた。


つづいて航のソロ。1曲のみKarl2000のメンツが参入してのクァルテット編成。航というミュージシャンは毎回進化している。生で聴くのは久しぶりだが、彼女のジャンルを超越したところのピアニストとしての筋の良さ・技術力の確かさを証明する強靭な打鍵は、この日も存分に発揮されていた。瞬時の脱力に長けているので、豪快なかき鳴らしにキレがある。細かなテクニック上の処理が、ことごとく歌をもっており、フレージングの各々にコブシが効いている。シークエンスを追うだけで聴き手は楽しくなる。インストゥルメンタルに折り重なるようにしながらも、ときに全くノンシャランで奔放なヴォーカル。低音で、圧倒的な音圧をもってフローする。場を呑みこむ勢いは、腕の技術同様、瞬間的な離れがよい。肉体を媒体に空気のように音楽が出たり入ったりする----そうしたニュートラルな身体の解放を、その音楽からはいつも感じる。概念的な小難しさ全くなしに。航の存在だけで、ほぼ複数人をカヴァーしてしまうので、ここにKarlの面々が参入したクァルテットでは、当然ながら多彩なディメンションが入り乱れることになる。まず、精確なるピッチで職人気質的なドラムながら、柔和なサポート力を兼ね備えたデイヴ・ミラーと航のピアノはうまく補完しあうし、ダニエル・ロビンの大らかなテナーの艶とそのヴォーカルもよく絡む。注目はオースティン・ホワイトのダブル・ベースで、完全指弾きから醸し出される肉感的な弾力性は音楽のボディをとても豊かにしている。引きと押し、記譜とフリー部分とのバランス・継ぎ目もなめらかな壮大なるコラージュ。「山頭火」 や「ハレルヤ」など定番ナンバーでのブルージーなドスの効き具合は、いい意味でもはや安定期だな、と思わせた。4月のニューヨーク公演を視野に入れてコンディションを調整しているのだろうが、日本のニューミュージックとは明らかに一線を画し、さりとてブルースでもゴスペルでもないその無国籍風が、アメリカの地でどう受け入れられるのか興味津々だ。

さて、トリのKarl2000。いかにもアメリカン、という感じの堂々たる体躯のダニエル・ロビンとオースティン・ホワイト、一見ゲルマン気質の線の細さを感じ刺させるデイヴ・ミラーによるトリオだ。有無を言わせぬ押し出しの良さである。MCもスペイン語や覚えたての日本語の単語を散りばめ、エネルギー全開である。編成としてはオーソドックスながら、個々の卓越したアコースティック能力が濃厚に湧き出ており、ひと言、巧い。能弁である。音が良く鳴る。時おり鳴りすぎるきらいはあるものの、悪ノリという茶目っ気でそれはそれで音楽は進行しているし、こういう時のストッパーとして、ドラムの刻みの細分化が阿吽(あうん)に機能するのが面白い。映画の連続ショットのように、ピアノ学習者が大昔に一度は通過した題名は覚えていないが何とも懐かしい曲やら、「男が女を愛する時」などが縦横無尽に接合されてゆく。オーソドックスなラヴ・ソングを吹かせても、ダニエル・ロビンの音はストレートに、厭味なく聴き手の心にぐさりと喰い込む。いかにも若者らしいフレッシュな音色が、名曲の普遍性を一層引き立てるようだ。シリアスとハイテンションが終始一貫して混じりあう快演で、最初の瞬間からKarlのペースに持っていかれる。つむじ風に吹かれたような感覚。真のユーモアは超真面目を嵐のように通過したところにある-----そんな真理も仄見える演奏。一瞬脈絡のない場面が激しく、鮮やかに回転するところは、なるほど航と共通するものがあるとも思うし、植村昌弘とデイヴ・ミラーという、タイプは違うが容赦なさの点である種共通するふたりのドラマーの聴き比べとしても興味深かった一夜。Karlの面々は未だ20代。若い旬のミュージシャンが来日することは素直に喜ばしい(*文中敬称略。Kayo Fushiya)。

【関連リンク】
http://mumu2005.web.fc2.com/
http://koh.main.jp/index.html
http://www.karl2000.com/fr_k2k.cfm


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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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