Concert Report#519

ブリュッヘン・プロジェクト
「18世紀オーケストラ&新日本フィル」第2回
2013年4月5日(金)すみだトリフォニーホール 大ホール
Reported by 佐伯 ふみ
Photos by 林 喜代種

指揮:フランス・ブリュッヘン
ピアノ:ユリアンナ・アヴデーエワ
管弦楽:18世紀オーケストラ

【曲目】
モーツァルト:交響曲第40番ト短調 K.550
ショパン:ピアノ協奏曲第1番ホ短調Op.11(ナショナル・エディション)
ショパン:ピアノ協奏曲第2番ヘ短調Op.21(ナショナル・エディション)



 ブリュッヘンの指揮に、久々(11年ぶり)の来日である18世紀オーケストラ、それに(いささかスキャンダラスな話題も振りまいた)2010年ショパン・コンクールの覇者、ユリアンナ・アヴデーエワがピリオド楽器で共演する。これは聴き逃せないと足を運んだ。同じように感じた人が多かったようだ。広いホールがほとんど埋まる盛況。曲間の反応も手応えのあるもので、こういうコンサートは嬉しい。「主催・企画」のすみだトリフォニーホールのセンスの良さには、最近、感心させられることが多い。

 呼び物はもちろんアヴデーエワのショパン・コンチェルトだが、冒頭のモーツァルト交響曲第40番が、まずとても良かった。ブリュッヘン/18世紀オーケストラの自家薬籠中の音楽。

 アヴデーエワが弾くヒストリカル・ピアノは1837年パリ製のエラール、それもオリジナルだそうだ。このためにわざわざオランダから日本へ運んだという。モダンの楽器のパワーと安定性に慣れた耳にはまったく異質の、むらのある発音と音域で変化する音量。曲が始まった当初はどうしても違和感のほうが強くてもどかしさを感じたが、アヴデーエワは、緩急自在のアゴーギクの変化でそれをカバーして、感情の起伏の激しい、スケールの大きな音楽を作りだす。

客席を向いて配置されたピアノで、若さあふれるエネルギッシュな音楽を展開するアヴデーエワは1985年生まれ(28歳)、それに相対してタクトを振る指揮者ブリュッヘンは1934年生まれ(79歳)。年齢の差、音楽の違いを感じさせないのが、思えば不思議である。泰然自若のオケにふんわり受け止められて、ピアノは安心して自由奔放に飛翔する。ピアノ・ソロを迎え入れるところなどブリュッヘンのオケもケレン味たっぷりにリタルダンドしてみせたりして、音楽でしか見られないような、世代を超えた奇跡の共同作業を堪能させてもらった。とくに第2楽章のロマンツェ、ピアニッシモのピアノの美しい入りに何度ほうっと溜息をついたことか。速いテンポでは、奔(はし)るピアノにオケが追いつかない箇所、勢いの違いを感じさせるところもなきにしもあらず。

 ピリオド楽器の小編成オケは、その鄙(ひな)びた音響が、ポーランド時代のショパンの若い音楽にこれほど似合うものかと感心した。とくに小型ティンパニの乾いた響きは忘れられない。はっとさせられる新鮮さで、まさにこの響き!と感じさせる箇所が多々あった。このオケと指揮者を得たからか、アヴエーエワの演奏はショパン・コンクールのときよりずっと深化している。ただし、これは無いものねだりかもしれないが、ショパンの音楽のあのなんとも言えない貴族的な冷ややかさ、内なる激情はあっても決してそれをあからさまに表出しない、といった肌触りは、感じられなかった。この演奏をショパンが聴いたら、もしかしたら、あまりにあけすけだと赤面するかもしれない。

18世紀オーケストラは、今年が初来日から40年目の節目で、今回を最後の来日とするそうだ。寂しい。ともかくも、最後にこうした素晴らしい演奏に接することのできた幸せを記憶に留めておこう。

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