Concert Report#526

日本フィルハーモニー交響楽団第649回東京定期演奏会
2013年4月26日(金) サントリーホール
Reported by伏谷佳代(Kayo Fushiya)
Photos by林喜代種(Kiyotane Hayashi)
※写真は4月27日公演のものです

ピエタリ・インキネン(主席客演指揮者)
日本フィルハーモニー交響楽団
(コンサート・ミストレス;江口有香/ソロ・チェロ;菊地知也)

シベリウス;交響曲第3番ハ長調op.52
<休憩>
シベリウス;交響曲第6番ニ短調op.104
     ;交響曲第7番ハ長調op.105

自国ものというだけではない、熱き想いが昇華された澄み切った世界
 
「ピエタリ・インキネンのシベリウス・チクルス」と題されたシリーズの最終回である。筆者は日本フィルを生で聴いたのは初めてだったのであるが、指揮者が引き出した母国への想いが滾(たぎ)る音色であるのか、日本フィル固有の音質であるのか、その透明度とあたたかさが見事に共存し一体となった音色のクオリティに、しじゅう魅了されどおしだった。やわらかでありつつも、凛とした輪郭を片時も失わぬ弦楽器群。とりわけチェロやコントラバスなどの低音弦が揺るがぬ音楽の骨格をかたちづくる。交響曲第3番、スケルツォ・フィナーレでの3連符の畳み掛けなど壮麗。単なる清澄な響きの構築で終わらせぬ確固とした屋台骨、その生き物のごとき前のめりの造形に目を見張る。インキネンの指揮は全体的に身振りがおおく、ちいさなフレーズにも周到な対応をみせる。丁寧な振りだ。しかしながら、過度に自己主張を盛り込むことなく、写実主義のようなタッチで作品のすみずみまでを蘇生させる。
 
休憩を挟んでの後半は、第6番と第7番。第7番が単章構成の曲ということもあるが、この日のようにアタッカで演奏されたのは演出として成功だった。高音弦から低音弦への静寂の橋渡しが演劇的な効果を生む。第6番では澄み切った音色にさらに弾力性が加味され、皮膚に張りつくような質感である。それにしても弦のレヴェルが高い。細部のコントロールに秀で、楽器の材質感でニュアンス豊富なざわめきを演出しつつも、極度の統一感でサウンドが束ねられている。スタジオ録音をおもわせる音の吸収のよさだ。また、そうした弦のベクトルに金管・木管も軌道を合わせるかのように、抑制の効いた、エッジの丸い音をだす。楽器の個体差による境界がはずれ、それらのブレンドから全く新しい世界が現出する。自然描写的なナチュラルさでありながら、ひじょうに幻想的な新たな1ページが加えられる感慨をもつ。つづく第7番でも、このまろやかな雰囲気造りはより一層の深化をとげ、弦の刻みやリピートがうみだすミニマリスティックなドライヴ感は、あたかも色鮮やかな映像をみるかのごとし。ここではトロンボーン・ソロが、何ともいえぬ風圧の節回しのよさを発揮していた。
 
ピエタリ・インキネンはまだ30代の前半ながら、成熟した嗜好と細やかな配慮で、理路整然とした筋道を感じさせる指揮者である。聴き手に与える後味も爽やかだ。日本フィルとともに、彼のシベリウスがどこまでの精度に達するか、今後も機会あるごとに聴き続けたい組み合わせである(*文中敬称略。4月28日記。Kayo Fushiya)。

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