Concert Report#532


塩谷哲 Satoru Shionoya with Super Salt Band

2013年5月19日(日) 20:00
ブルーノート東京
Reported by 神野秀雄
Photo by Hiroshi Kawasaki

塩谷哲(p)
田中義人(g)
松原秀樹(b)
山木秀夫(ds)
大儀見元(perc)

Superstition (Stevie Wonder)
Beauty and Brilliance
Magma in Your Eyes
Entropy
Join the Angels
Arrow of Time

Patio
あこがれのリオデジャネイロ

塩谷哲のソロ・デビュー20周年記念してリリースされた素晴らしいアルバム『Arrow of Time』の発売記念ライブ。アルバムの紹介はこちら(http://www.jazztokyo.com/five/five975.html)、及川公生氏による録音評はこちら(http://www.jazztokyo.com/column/oikawa/column_163.html)を参照されたい。

ブルーノート東京3日連続計6公演のうち最終公演を聴いたが、すでにCDの内容を大幅に超えるバンドに化けていたし、大阪、名古屋公演を経てさらに化けていくと思う。スーパーバンドだからといって、見かけのテクニックに走るような曲もなく、塩谷の心に降りてきた歌うような曲を全員が楽しそうに演奏する。自然に演奏する中で生まれる凄すぎるグルーヴ、楽しい演奏にただ圧倒される。
曲によって役割は変わるのだが、いずれも最高の表現力を持つ塩谷哲のピアノ(YAMAHA CF-Xを持ち込み)と、田中義人のギター、大儀見元のパーカッションが、曲の立体感とニュアンスを繊細に表現し、山木秀夫のドラムスと松原秀樹のベースが力強いグルーヴを生む。他方、グルーヴはひとりひとりから対等に湧き上がり交わり高められていく。たとえば、中では異質な1曲で<Magma in Your Eyes>ではヘビーメタルのサウンドを目指すのだが、決して大音量でがなりたてる必要はなく、ピアノが効果的に絡み、間に沈黙すら感じさせる全体の流れに、メンバーが交互に緊張感のあるフレーズを短く加えていくと、全体でとてつもなくテンションの高い、ダイナミック・レンジが広い曲に仕上がる。バラードの曲もとても美しい。「意識せずに書き始めたが、やはり3・11には思うところが多く、やりきれない思いもこめられていると思う」と語っていたが、せつなさと希望を感じさせる演奏となった。
ジャズ、フュージョンの最先端を走ってきたメンツではあるが、それ以上にJ-Popのサポートや編曲、プロデュースに重用されてきたメンバーたち(このライブにもJ-Popのミュージシャンが多数来ていた)である点は大きく、最低限の音から、そして音を出さない瞬間からこそ豊かな歌とグルーヴが生まれてくる。「このメンバーたちは楽器で選んだのではなく、人で選びました。たとえば大儀見さんがギターと歌でも一緒にやりたい。」塩谷はCDを「力が抜けた力作」と自嘲気味に語っていたが、信頼する仲間が集まり、力が抜けて、その瞬間を心から楽しむとこれだけの音楽が生まれる。その楽しさとポジティブな思いが会場の観客に伝播していく。
鳴り止まない拍手。ダブル・アンコールとなり、仲間たちから自然に音楽が生まれるイメージを表現した<Patio>、そして塩谷のソロ活動の中で長く演奏されてきた<あこがれのリオデジャネイロ>で締めくくられた。Super Salt Bandはメンバーがそれぞれ多忙すぎてレギュラー活動は難しいにしても、年に1、2回集まりながら長く活動を続けていくと思うが、そのたびに進化し、どこまで行ってしまうのか。このバンドの今後、塩谷とメンバーたちのこれから、そして次の20年間が楽しみでならない。


塩谷哲 / Arrow of Time
ビクターエンターテインメント VICJ-61683
2013年4月3日発売

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.