Concert Report#533

La Folle Journee au Japon 2013 "L'heure exquisite"
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 「熱狂の日」音楽祭 
2013 「パリ、至福の時」
2013年5月3日〜5日
東京・丸の内 東京国際フォーラム
Reported by 神野秀雄
Photos by 三浦興一

1.みんなでボレロ

GW後半を控えた5月2日夜の東京国際フォーラム。地上広場に楽器を持った人々が集まってくる。小さなステージに指揮者が現れ、スネアドラムのパターンが始まり、フルートソロ、クラリネットソロへ。そして、やがて会場全体からモーリス・ラヴェルの名曲「ボレロ」のフレーズが湧き上がり繰り返される。「みんなのボレロ」と題されたフラッシュモブ企画。ネットでの呼びかけで集まった見知らぬ音楽仲間が奏でる熱狂の音楽のひととき。ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 「熱狂の日」音楽祭 2013 「パリ、至福の時」(LFJ)は、1000人(主催者発表)の異様な盛り上がりとともに幕を開けた。
1995年、フランスの港町ナントで生まれ、2005年から東京で開催、今年で9回目を迎えたLFJ。今年は3日間に有料プログラム135公演を行い、有料チケット154,289枚の90%以上を販売するという大規模な音楽祭として定着したが、20年以上前は休日の丸の内は人通りのないゴーストタウンであり、バブル崩壊後に建った東京国際フォーラムも無機的なハコモノにしか見えなかったが、これだけの音楽ファンを熱狂させる場となったことには感慨を禁じえない。その公演のほんの一部をご紹介させて頂く。この記事中でリンクとしてご紹介しているYouTube動画はラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャパン公式YouTubeで提供されているものなので、安心してご覧頂き、その雰囲気を感じて欲しい。その多くはフランス・ナントで収録されたものだ。

「みんなでボレロ」
http://youtu.be/xYHYVUwURQM

2.20世紀パリ 音楽の冒険

アンサンブル・アンテルコンタンポラン スザンナ・マルッキ(指揮)

"Aventure musicale"
Ensemble intercontemporain, Susanna Mälkki direction

#342 5月5日12:30 ホールC
"20世紀パリ:音楽の冒険(Aプロ)"

アンサンブル・アンテルコンタンポラン
スザンナ・マルッキ(指揮)
ラヴェル:序奏とアレグロ
ブーレーズ:シュル・アンシーズ(3台のピアノ、3台のハープ、3台の鍵盤打楽器のための)

#325 5月5日18:45 ホールB7
"20世紀パリ:音楽の冒険(Cプロ)〜未来の音楽家のために"

ドビュッシー:フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ
ブーレーズ:デリーヴ1(6つの器楽のための)
ミュライユ:セレンディブ(22人の音楽家のための)

ピエール・ブーレーズが創設した現代音楽アンサンブル「アンサンブル・アンテルコンタンポラン」が18年ぶりに来日した。アーチスト・プロデューサーのルネ・マルタン氏もこのようなアンサンブルを呼び、子供たちや若者にも聴かせることができた(#325は25歳以下に1.000円で提供)ことはLFJの大きな到達点のひとつと語っていた。現代音楽と言っても前世紀の音楽であり、今の子供たちから見れば十分に本来のクラシックの距離感に入ってくるのだが。注目すべきは演奏の圧倒的なクォリティで。現代音楽を演奏するために集まり高い技量を持ったアンサンブル・アンテルコンタンポランのメンバーが演奏するのと、通常クラシックの名曲を中心に演奏しているオーケストラ団員が現代音楽を演奏する場合とでは音の鮮やかさと切れに差がある。いやもっと根本的な解釈からも違うかもしれない。このためこれまで聴くことのできなかったリアリティーでその曲の美しさと作曲家の思いがよりダイレクトに伝わってきた。特にブーレーズの作品の表現は際立っていたし、そのメンバーが演奏するドビュッシーやラヴェルによる小編成の曲もよい演奏で、対比する中でフランスの伝統のつながりを実感することができた。

アンサンブル・アンテルコンタンポラン
ピエール・ブーレーズ「シュルアンシーズ」
http://youtu.be/iDO6_3jJh44

3."聖なるパリ" − ミシェル・コルボ フォーレ「レクイエム」
"Paris Sacré"- Michel Corboz/Fauré : Requiem

ミシェル・コルボ (指揮)
シンフォニア・ヴァルソヴィア
ローザンヌ声楽アンサンブル
シルヴィ・ヴェルメイユ (ソプラノ)
アンドレ・バレイロ (バリトン)

#315 5月5日 19:30〜20:15ホールA
デュリュフレ:グレゴリオ聖歌による4つのモテット op.10
フォーレ:レクイエム op.48(1893年版)

グノー:十字架上のキリストの7つの言葉から「Peter in manus tuas」

巨匠ミシェル・コルボとローザンヌ声楽アンサンブルによるレクイエムはLFJの定番プログラムだったが、79歳という高齢もありしばらく来日が途絶えていた。思えば、今回が日本において、3・11以降で最初のレクイエムの演奏となる。フォーレのレクイエムの安らかさと優しい響きが、繊細でありながら、ホールAの巨大な空間を満たしていくすばらしい時間となった。

4.ラムルー管弦楽団 フェイサル・カルイ指揮
Orchestre Lamoureux, Fayçal Karoui conductor

#215 5月4日 19:00 ホールA

ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調(ピアノ:小山実稚恵)
ラヴェル:ラ・ヴァルス
ラヴェル:ボレロ(サプライズゲスト:佐渡裕指揮)

#313 5月5日 15:00〜15:45ホールA
パリとスペインのマリアージュ2"Mariage de Paris avec Espagne"

サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ op.28 
ファニー・クラマジラン (ヴァイオリン)
サン=サーンス:ハバネラ op.83
デュカス:交響詩「魔法使いの弟子」
シャブリエ:狂詩曲「スペイン」

#316 5月5日 21:45ホールA
ファイナルコンサート「パリの花火」" Paris : Feu d'artifice "

サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ op.28
ファニー・クラマジラン (ヴァイオリン)
ロドリーゴ:アランフェス協奏曲より 第2楽章
カニサレス (ギター)
ラヴェル:ボレロ
ヒメネス:≪ルイス・アロンソの結婚式≫より 間奏曲(カスタネットとオーケストラのための)
ルセロ・テナ (カスタネット)
ルセロ・テナ カスタネット。ソロ
ビゼー:オペラ「カルメン」前奏曲 
ルセロ・テナ (カスタネット)

LFJ2013 ラムルー管弦楽団 モーリス・ラヴェル「ボレロ」
http://youtu.be/GRNkWW0sa-w

LFJ2013 ファニー・クラマジラン ロンド・カプリチオーソ
http://youtu.be/MOVsdmFw3-s

LFJ2013 カニサレス アランフェス協奏曲
http://youtu.be/Ilmnif-qYXI

LFJ2013 ルセロ・テナ ビゼー「カルメン」
http://youtu.be/Lx67bQV80ik

モーリス・ラヴェル指揮により「ボレロ」を初演、ドビュッシー「海」も初演するなど伝統あるフランスの民営オーケストラの初来日。そんなことはまったく知らず、当日にふらっと行ったらほとんどの公演が売り切れ、いきおいホールAのオーケストラ公演を中心に買える状況で、ホールAの音響にも期待せず、とりあえず行ってみたのがラムルー交響楽団だった。1曲目「亡き王女のためのパヴァーヌ」からいきなりこのオケ、ラムルー管弦楽団と指揮者フェイサル・カルイを大好きになってしまった。残念ながら今まで、あるオーケストラに心を瞬時に持っていかれるまでの経験はなかった。また、ラヴェルやドビュッシーのオーケストラ曲は大好きだが、期待してコンサートに行って、すばらしい演奏ではあっても、身体に染みわたり、魂が満たされる思いには至らないことが多かった。木管楽器群のどこまでも豊かな音色と表現力に心をつかまれる。大げさだが気持ちのよい木管のヴィブラートは曲調にあっていた。金管楽器群も同様に豊かな音色に魅了される。弦については、表現は適当ではないかと思うが、他のオケの響きにさらに倍音のレイヤーが載っているような、根本的に違う本当にすばらしい響きがする。すべてにおいてベストなオケというよりも、その時代のフランスにより近い響きを出せるオケということなのだろうと思う。比較してみると国立ロワール管弦楽団は近い傾向があり、シンフォニア・ヴァルソヴィアはまったく違う音だった。
#215のアンコールでは、ラムルー管弦楽団で指揮者を務めていた佐渡裕が登場し「ボレロ」を。団員にまでサプライズだったそうで、中には感激で泣いている団員までいた。伸びやかで楽しい「ボレロ」で会場を沸かせた。

最終日、ファイナルコンサート「パリの花火」は、ソリスト3人を迎え、美味しいとこどりのコンサートに。
ファニー・クラマジランの伸びやかなヴァイオリンによるサンサーンス。ギターのカニサレスによるアランフェス協奏曲第2楽章、つまりチック・コリア「スペイン」のイントロに引用されている部分のみいきなりやってしまうのだが、哀愁の漂うギターの音が会場の心を掴む。
カルイ版の「ボレロ」は、ほとんど体に動きのない、指先と目だけのような指揮に、リズムの輪郭だけが聴こえ、もはや音色として認識できないほど小さな音のスネアドラムから始まる。しかも広すぎてやりにくいホールA。管楽器にもバランスの取れた明瞭な小さな音を要求する。ここから始まった「ボレロ」は極めて大きいダイナミックレンジを持つ演奏となり、感動的なクライマックスを迎えた。
そして、カスタネットの女王ルセロ・テナが登場。カスタネット・コンチェルトとも呼べる曲だが、カスタネットだけでオーケストラと対等以上にわたりあう表現力とグルーヴに会場が感嘆と興奮の渦に巻き込まれる。

テナのカスタネットが場内を沸かせトリプル・アンコール。ビゼー「カルメン」は2回演奏された。コンサートの最後の盛り上がりをまとめてルセロ・テナが持っていった感じはあり、個人的には、ルセロ・テナを含むアンコールのあと、「ラ・ヴァルス」などに行って、ラヴェルの響きで締めくくってもらえたらとも思ったのだが、この興奮の流れを中断せずに、ホールA全体がスタンディング・オベーション、トリプル・アンコールでも席を動かないような本当の「熱狂の日」を共有できたので、これでよかったのだと思う。これまで「熱狂の日」という名称には違和感や恥ずかしさを感じていたが、クラシック・コンサートでのこれだけの興奮と一体感を見てしまい、今年のLFJではそれを体感することができた。終演後、舞台の袖で出口の近くにアーチスト・ディレクターのルネ・マルタンが笑顔で立っていて、「Merci beaucoup!」と感謝の気持ちを伝えることができた。

最終日、ルネ・マルタンから来年のLFJのテーマについての発表があった。来年のフランス・ナントのテーマは「アメリカの音楽」。これは興行的には非常にチャレンジングだが、アメリカの作曲家はもちろん、アメリカに移住・亡命した作曲家やアメリカに縁のある作曲家なども含めていくと語っていた。もちろんジャズを含めた幅広いアメリカ音楽へのアプローチもあると思う。また日本人の演奏家も招きたいとのことで、このテーマであれば小曽根真、塩谷哲らの活躍も期待してしまう。
一方、日本では10周年を迎えるということで、ナントとは異なるスペシャル・バージョンを用意する。過去にテーマになった作曲家たちが再び東京国際フォーラムを訪れるという趣向で10人の作曲家たちをとりあげるという。モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス、ショパン、シューベルト、グリーグ、ドヴォルザーク、チャイコフスキー、ラヴェル。そして最後の一人は、アメリカからガーシュウィン。これだけ幅広いとフォーカスをどこに定めるかの難しさはあり、ガーシュウィンを含めてくれたことはジャズ的なアメリカ的なアプローチや関連プログラムの余地があり嬉しいし、今年の「熱狂」を知ってしまった今では、どんな音との出会いやサプライズがあり、どんな「熱狂の日」を見せてくれるのか来年が楽しみでならない。

ルネ・マルタン
©2013 Hideo Kanno

【関連リンク】
LFJライブレポート #147 小曽根真&塩谷哲ピアノデュオ「パリ×ジャズ」
http://www.jazztokyo.com/live_report/report528.html
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2013「パリ、至福の時」公式ウェブサイト
http://www.lfj.jp/lfj_2013/
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 公式YouTube
http://www.youtube.com/user/LFJTOKYO/
ラ.フォル・ジュルネ・ナント 公式ウェブサイト
http://www.follejournee.fr/
ラムルー管弦楽団 公式ウェブサイト
http://www.orchestrelamoureux.com/
アンサンブル・アンタンコンテンポラン 公式ウェブサイト
http://www.ensembleinter.com/fr/

【追記】
7月20日(土)15:00頃集合で開催される、すみだ川アートプロジェクトの「アンサンブルズ・パレード/すみだ川音楽解放区」の参加者の一部で「みんなでボレロ」を再演しようという構想が動いている。誰でも参加できる。詳細はblog.brasstribe.netでイベント前までに告知される予定。

 

神野秀雄 Hideo Kanno
福島県生まれ。東京大学大学院 理学系研究科 生物化学専攻 修士課程修了。福島高校と東京大学のジャズ研に所属 。中学校の吹奏楽部でサックスを吹いている中で『キース・ジャレット/マイ・ソング』に出会って以来のECMファン。

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