Concert Report#534 |
ウィーン交響楽団/大野和士/インゴルフ・ヴンダー |
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大野和士(指揮) ベートーヴェン;ピアノ協奏曲第4番op.58* アンコール
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ベートーヴェン・イヤーにふさわしい、本家本元によるオール・べートーヴェン・プログラム。ツアーが立て込んでいることもあるかもしれないが、曲数も少なめで、大曲2曲をじっくりと聴かせる。そのぶん、アンコールにウィーンらしさをたっぷりと盛り込んだ小品で聴き手の気分を軽やかに盛り上げる。大野和士という、中央ヨーロッパの楽壇の重厚さを文字通り皮膚感覚で吸収したヴェテラン指揮者とのコンビは、いかにもゲルマン的な矍鑠(かくしゃく)とした響きで終始会場を魅了した。
ピアノ協奏曲のソリストを務めたのは、これまたウィーンの若き俊英インゴルフ・ヴンダー。2010年のショパン・コンクールでは第2位、併せてコンチェルト賞と幻想ポロネーズ賞を受賞している。入賞者ガラコンサートで3年前に聴いて以来だったが、相変わらずピアノという楽器の何たるやを知り尽くしている。とりわけ今回は、オーケストラという他者との調和・対話という側面での、その類稀なる造形センスがみてとれた。装飾音なども惚れ惚れするような粒立ちの良さである。リリカルかつ芯のある音色は清冽なたたずまいをもち、ヴァイオリンをはじめとした弦の波へすっきりと乗る。オーケストラとピアノは歩み寄りつつも微妙に棲み分けを維持する見通しのよさがある。しかし、これを構築美と取るか少々物足りないと取るかは意見のわかれるところかも知れない。第4番特有の優美な曲想に関しては、異論のない出来映えではあるが。
休憩を挟んで「英雄」交響曲。暗譜で挑むところにも、大野の意気込みが感じられる。楽曲のモデルがナポレオンということもあってか、ウィーン響ならではのきっちりとした造りこみのなかにも、ヒーローの姿を体現するかのような溌剌としたドライヴ感が盛り込まれる。弦の刻みも迫真。大野のアプローチは、紛れもない現代オーケストラの音を操りながらも、当時これを初めて聴いた人々の興奮へと想像力を掻き立てるような、歴史を遡上する深い洞察力とロマンをもっている。現代のことばで表現すればロックテイストとでもいうのか、まずリズムが先行する。脂の乗りきった大野の現在の起爆力を味わうのにも打ってつけの選曲だ。惜しむべきは弦やティンパニの完成度の高さに比べて、管楽器がいまいちフォーカスを絞りきれない点で、例えばフィナーレのホルンによるトリオ、ファジーな音程はとりたてて何の効果ももたらさなかったような気がした。もちろん全体として見たときに、贅沢な演奏会ではあったけれども(*文中敬称略。Kayo Fushiya)。
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http://www.jazztokyo.com/live_report/report312.html
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