Concert Report#537

Pat Metheny Unity Band
Blue Note Tokyo
2013年5月23日 19:00
Reported by 神野秀雄
Photo by 佐藤拓央

Pat Metheny(g, ac-g, Picasso g, g-synth, Orchestrion)
Chris Potter(ts, ss, bcl)
Ben Williams(b)
Antonio Sanchez(ds)

1. Picaso Guitar Solo
2. Come and See
3. Roofdogs
4. New Year
5. This Belongs to You
6. Police People
7. Two Folk Songs, Part 1
8. Signals (Orchestrion Sketch)

9. The Good Life

満席の会場からの暖かい拍手に包まれながらパットが一人で登場、42弦ピカソギターでソロを弾きはじめる。以前は音数の多いソロを披露することもあったが、今回は穏やかで美しい世界を展開する。途中、クリス・ポッター、ベン・ウィリアムス、アントニオ・サンチェスが静かに入場してくる。パットはピカソギターを奏で続け、ハープ状の部分を多用したイントロに続いて、クリスがバス・クラリネットで加わり、アルバムで3曲目の<Come and See>につないでいく、パットもIbanezのフルアコに持ち替える。
そして<Roofdog><New Year>と続き、アルバム3、2、1曲目という順番だが、アルバム『ユニティバンド』の印象的なメロディを演奏していく。クリスは、バスクラの他、テナーサックスとソプラノサックスを持ち替えて吹く。<Police People>はオーネット・コールマンを彷彿させる曲。それもそのはずで『Pat Meheny & Ornette Coleman / Song X』からの1曲。そしてパットが大げさなギターカッティングを始め、クリスのテナーがブロウする<Two Folk Songs, Part 1>へ。今回のツアーについてセットリストの予備知識なしで行ったので『80/81』(ECM1180/81)からの曲が演奏されることにこの時点で驚いた。
ステージ後方の左右に分かれて置かれた棚のように大きなふたつの箱の前のカーテンが開き、「オーケストリオン」が現れる、よく見るとステージ中央にもその一部となるパーカッションの機械が置かれている。パットのギターに他の3人、オーケストリオンが有機的に絡んでいく。他のセットでは、<Are You Going with Me?>のオーケストリオン・ヴァージョンが演奏され、クリスがフルートでメロディをとっていたらしく、これもすばらしい音楽となったと思う。
アンコールには、屈託のない明るいカリプソ風の曲が演奏される、『Song X』から<The Good Life>。聞き覚えのあるメロディ、「ライブ・アンダー・ザ・スカイ1988」でのアーニー・ワッツ(ts)、チャーリー・ヘイデン(b)、ポール・ワーティコ(ds)とのスペシャルカルテットで演奏された1曲であることを思い出す。ハッピーな音楽がよみうりランドの青空に吸い込まれていった光景が蘇ってきた。

他のセットでは『80/81』から<The Bat>、またマイケルとのカルテットでも大切なレパートリーだった『Offramp』(ECM1216) から<James>が演奏されていた。アメリカでのフルサイズのコンサートでは、パット・メセニー・グループのナンバーも演奏されるが、しかし日本でもアメリカでも『80/81』での大切な1曲が演奏されていないことに気づく――<Every Day (I Thank You)>。構成が長いということもあるが、マイケルのメモリアルでパットがソロで弾いたように、マイケルに特別な1曲であり、大切に取ってあるのかも知れない。

アルバムの発表から、アメリカ、ヨーロッパなどでのツアーを経て、ユニティバンドはより密度の高いバンドに育っていた。個性的なメンバーを擁しながらバンドの一体感も最高で、またエレクトリックギター、アコースティックギター、ピカソギター、ギターシンセサイザー、オーケストリオンを集約してのプロジェクトとしても統一感があり、「ユニティバンド」という看板に偽りがなかった。
演奏への満足感の一方、サウンド面で満たされなかった思いが残った。2曲目でクリスがバス・クラリネットで登場した際に、大きな音量と深い音色、明確な輪郭に感動したが、それ以降のテナーサックスがむしろバスクラよりも控えめに聞こえる。低めの音量と細めの音色。クリス本来の倍音を豊かに含み説得力のある音ではない。これはクリスが自分でコントロールしていた以上に、おそらく、バンドのサウンド上の一体感を高め、特にパットとクリスのユニゾンでの音を作るために、PAで音質と音量、リヴァーブに大きく手を加えていたように思われる。これはアルバム本来のコンセプトでもなく、アルバムでは、4人の音量と音色をクリアに前面に出している。このメンツで、ブルーノート東京クラスのハコの大きさであれば、生音に近く正面からぶつかるような音の方が、みかけのバランスを超えて、大きな感動を与えられたのではないかと思う。

パットが、リーダーアルバムとして本格的にサックスと組むのは、30年以上前の『80/81』(ECM1180/81)以来となる。デューイ・レッドマンとマイケル・ブレッカーというサックスの二人の巨人、チャーリー・ヘイデン(b)、ジャック・ディジョネット(ds)を迎え、文字通りの1980年の録音。1987年に五反田ゆうぽーとでの「Tokyo Music Joy」で来日もしている。マイケル・ブレッカーは、1987年に初リーダーアルバム『Michael Brecker』(Impulse)を録音するにあたりこのバンドの編成をコアにし、以降のアルバムにも大きく影響する。パットは、デューイ・レッドマン(ts)、チャーリー・ヘイデン(b)、ポール・モチアン(ds)というキース・ジャレット・アメリカンカルテットそのものとも言えるバンドでツアーもしている。またマイケルとは、クリスチャン・マクブライド(b)、アントニオ・サンチェスでのカルテットツアーを行う。パットは『80/81』以降、ジョシュア・レッドマン、ケニー・ギャレットを含むいくつかの録音の機会はあったが、30年もの間、本格的にサックスと組んだアルバムを作らなかったのに、なぜ今復活したのか、パットは「クリス・ポッターがいたから」と強調する。

パットによると、「ユニティバンドは人生を変えてしまったほどのバンド」で、毎晩毎晩の演奏のたびに「このバンドの活動を終わらせたくないと思った」と言う。そして、ユニティバンドに、イタリア人のマルチインストルメンタルプレイヤー、ギウリオ・カルマッシ(Giulio Carmassi)を加えて、パット・メセニー・ユニティグループに拡張し、2014年前半にアルバムのレコーディングを行い、ワールドツアーを行うと発表した。「ギウリオは文字通りのマルチインストルメンタルプレイヤーではない。素晴らしいピアニストであり、ギタリストであり、サックスプレイヤーであり、ベーシストであり、ドラマーであり、歌手である。」パット・メセニー・グループ(PMG)では、ペドロ・アズナールからリチャード・ボナまで只者ではないマルチプレーヤーが参加し、サウンドに圧倒的な深さを加えていたが、ギウリオは、クリスと対等にサックスを吹き、ベンともアントニオとも対等のプレイができるといい、すべての楽器を二重化できる点、完全なピアニストであり、ヴォーカルが可能であることを強調する。しかし、比較的シンプルであったはずのユニティバンドが、PMGのコンセプトに近づいていくようにも思える。ユニティグループが、PMGに代わってパットのレギュラー活動になっていくのかが気になるところでもあるし、大きく発展したユニティグループのアルバムとツアーを楽しみにしたい。(Hideo Kanno)

Nonesuch Records/
ワーナーミュージック
WPCR-14524
ECM 1180/81 /
ユニバーサルミュージック
UCCU-6085

【関連リンク】
パット・メセニー公式ウェブサイト−ユニティ・バンド
http://www.patmetheny.com/unity-band/
Pat MethenyUnited Band Preview (公式YouTube)
http://youtu.be/_iE0kZQxnFw

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