Concert Report#538

アンネ=ゾフィー・ムター ヴァイオリン・リサイタル
2013年6月4日(火) サントリーホール
Reported by伏谷佳代(Kayo Fushiya)
Photos by林 喜代種(Kiyotane Hayashi)
(撮影日はレビューの日と異なります)

アンネ=ゾフィー・ムター(vn)
ランバート・オルキス(pf)*

モーツァルト;ヴァイオリン・ソナタト長調K.379
シューベルト;幻想曲ハ短調D.934
<休憩>
ルトスワフスキ;パルティータ
サン=サーンス;ヴァイオリン・ソナタ第1番ニ短調op.75

<アンコール>
ラヴェル;ハバネラ
マスネ;タイスの瞑想曲
ブラームス;ハンガリアン舞曲第1番

末端まで典雅さに彩られた、見事な共犯関係のデュオ

ジャズ・ファンにとってはアンドレ・プレヴィンというジャンルの壁をものともせぬ巨人の元夫人、ということで一層魅力的にうつるヴァイオリン界の至宝・ムター。この日も大輪の薔薇を地で行くような真紅のドレスで登場。その華やかな気品だけで、会場は静けさにのまれてしまう。
 
そして、その立ち居振る舞いのうつくしさは単なる視覚上だけの効果ではなく、無駄のない筋肉使いがうむ極上ののびやかさへと直結している。ムターの強さは、聴き手の五感の隅々にとびきりの美意識を届けてくれることであり、ファンの心を長年にわたって掴んで離さぬ所以であろう。ヴァイオリンの音色自体としては決して太いわけではない。しかしその線の細さは、どこまでも伸びるしなやかな強靭さと、悠久ともいえる高貴さを湛えている。この強烈な美質をもってすれば、作曲家の時代やジャンルを跨ぐことはわけないことで、既成概念に囚われない大らかな人間性もそれをプッシュする。共演者のランバート・オーキスも似た体質をもった奏者であろう。室内楽ピアニストの地位をソリストに劣らぬ揺るぎない地位にまで高め、同時代作曲家の紹介にも偉大なる功績を残した大ヴェテラン。ムター同様、リリカルで陰影のある、味わい深い音楽造りだ。とりわけ、シューマンとサン=サーンスで見せたニュアンス豊かな鍵盤づかいは、パーカッションとしての鍵盤楽器のひとつの極致といえる、圧倒的完成度である。こうした起伏に富むバックボーンがあってこそ、ムターの息の長い、情感ただようフレージングが自由に動き回れる。
 
個人的にもっとも面白かったのが後半のルトスワフスキ。溜めと湧出、くぐもりと明瞭さ、などのコントラストを歯車のように巧妙に噛み合わせた両者の共犯関係を、もっともダイナミックな形で堪能できたようにおもう。楽曲がもつ多様な楽想が、みごとにムター+オーキスの独自の世界へとシェイプされてゆく。しかも一本調子に陥ることなく、造形そのものが良い意味でシンプルに浮き彫りにされる形で。うねりの見事さとエキセントリックなスピード感が同居するが、決して爆発しないのがムター第一級のエレガンス。音の曳きが消失する最後の一瞬まで典雅。アンコールで奏された3曲も「名曲かくありき」とただただ頷かせるものだった(*文中敬称略。Kayo Fushiya)。

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.