Concert Report#539

ユーリ・バシュメット&モスクワ・ソロイスツ合奏団
2013年6月5日 東京オペラシティ コンサートホール
Reported by 佐伯ふみ
Photos by 林 喜代種

ユーリ・バシュメット(指揮・ヴィオラ)
モスクワ・ソロイスツ合奏団
樫本大進(ヴァイオリン)

シュニトケ(バシュメット編):室内オーケストラのトリオ・ソナタ
シューベルト(クルーゲ&バラショフ編):アルペジオーネ・ソナタ[オーケストラ伴奏版]
 ユーリ・バシュメット(Vla)
モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 K.364
 樫本大進(Vn) ユーリ・バシュメット(Vla)

 60歳記念と銘打った、2013年の日本ツアー。客演は樫本大進。
 プログラムには、過日モスクワで開かれたバシュメットの60歳を祝う催し(5時間にも及ぶ)の詳細が林田直樹氏によってレポートされていて、クラシック音楽の枠にとどまらないバシュメットの多彩な活動と交遊関係の広さ、モスクワ文化界における声望の高さをうかがわせる。
 
 前半まずは、バシュメット指揮、モスクワ・ソロイスツによるシュニトケの作品。この作品は、横須賀・東京・静岡・熊谷・神戸と巡る今回のツアーの中では唯一、オペラシティ公演のみに入れられたもので、東京の聴衆を意識したプログラミング。モスクワ・ソロイスツの弦の響きはまろやかで伸び伸びしており、まずその心地よさと、シュニトケの透明感ある響きに、ロシアの音楽家たちだなぁという感慨を抱く。
 第2曲、バシュメットをソリストに立てたオーケストラ伴奏版での《アルペジオーネ・ソナタ》でもその美質を十分に堪能したが、合奏団の演奏は細部の磨きあげが弱く、よく言えば大らか、悪く言えば大ざっぱ。あっけらかんとした彼らの演奏を聴いているうちに、細かいことに目くじらたてず、この祝祭的なコンサートの雰囲気を楽しめばよいのだと、こちらも妙に鷹揚な気分になるから不思議である。いろいろ問題もあるけれど、憎めない。これはもしかしたら、バシュメットという音楽家そのものの特質なのかもしれない。

 後半のモーツァルトの二重奏曲では、樫本大進が登場。舞台上の音楽家たちも、客席の聴衆も、おそらく前半とは違う集中力と熱をもってこの1曲に向き合ったに違いない。それくらい、樫本が良かった。
 積極的に音楽を作っていく姿勢、音そのものに宿る豊かな叙情性、歌心、大胆さと、細部まで磨きぬかれた繊細さとの、ほど良いバランス……。また一段と器の大きくなったヴァイオリニストの姿を惚れ惚れと眺め、その音楽を堪能する1曲となった。
 一方のバシュメットは、さすが天才肌の面目躍如というべきか、この樫本に対して遜色ないだけの演奏を展開していたが、まず音そのものが、もっと響くはずではないのか、というもどかしさを感じさせる。邪推かもしれないが、楽器をもち、演奏をみがく時間を日常どれだけもっているのか、その時間の蓄積の差が表れているのではないかと思う。決して悪い演奏ではない。しかし丁々発止のやりとりを楽しむというよりは、樫本のすごさを強く印象づけられる演奏であった。













演奏終了後ホール内のホワイエで、バシュメット還暦60歳のお祝いが行われた。 赤いちゃんちゃんこと赤い帽子と花束が贈られ、戸惑いながらも うれしそうだった。 また今年は来日30周年にも当り思い出を語った。

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