Concert Report#540(Extra)

副島輝人『世界フリージャズ記』出版記念パーティ
2013年6月8日(土)16:00
サウンド・カフェ dzumi 東京・吉祥寺
Reported by 稲岡邦弥
Photos by 望月由美

 

出足が遅れ、駆け込んだ時にはすでに中平穂積さんの祝辞が始まっていた。中平さんは今日の主役・副島輝人さんとともに日本のジャズ・シーンを陰に陽にサポートしてきたひとり。副島さんの8ミリ・フィルムを使ったメールス・レポートに新宿DIGを提供するなど副島さんの評論活動に理解を示してきた。中平さんに続いていきなり僕にお鉢が廻って来た。会場から声がかかって中平さんのアンソニー・ブラクストンasの来日エピソードを引継いだ。スイングジャーナルの編集長(当時)の児山紀芳さんに頼まれてアンソニーの滞日費用を捻出するため、アンソニーが持参した1972年のタウンホール・コンサートのマスターを買い取った話をした(この演奏は、「サークル」とともに比較的アンソニーとコミュニケートし易い類いの音楽だ。もっともアンソニーにはスタンダード集もあるが)。副島さんとはたくさんの仕事を一緒にさせていただいたが(いろんな意味で副島さんはこの世界に於ける僕の師匠格にあたる人である)、その嚆矢が1973年の「インスピレーション & パワー14〜フリージャズ大祭 1」である。僕はまだディレクターになりたてだったが、14日間にわたるこのイベントの完全収録をプロデューサーの副島さんに申し出たのだ。映画上映がはねてからの公演だったり、労組員の録音アシスタントの時間外労働拒否に会うなど困難があったが、日本のフリージャズ史上エポックメイキングな出来事として記録されるべきだったろう。録音を担当した荒井邦夫さん、A&Rの原田和男さんも同席し、今年40周年にあたる副島さんの偉業を称えた。この大祭シリーズで出した赤字を副島さんは日雇い労働で完済、余剰分でメールス・ジャズ祭に出掛け世界の最先端のジャズを追うきっかけとなったというのだから、禍いを見事に福に転じた副島さんの粘りには敬服する。副島さんをメールスに誘ったという玉井新二さんやメールスに取り込まれた横井一江さん、レポート発表の場を提供した『ジャズ批評』編集長(当時)岡島豊樹さんらの顔も見える。大祭については副島さんの名著『日本フリージャズ史』(2002年 青土社)、メールスについては新著の『世界フリージャズ記』に詳しい。話の流れに沿ってオーナーの泉 秀樹さんがレコード・ジャケットをかざしてくれたが、やはりジャケットのアートワークというのは文字通り「アート」であることを再認識した。
副島さんとの仕事としては、「フリージャズ大祭」の他に、1991年まさにソ連崩壊前夜に敢行した「アルハンゲリスク七重奏団」の全国ツアー、1996年の「ベルリン・コンテンポラリー・ジャズ・オーケストラ」の日本公演がとくに強く記憶に残っている。ともに、「実行委員会」を組織、副島さんが先頭に立って各地に張ったネットワークを駆使、主催を決めていった。前者は、『ジャズ・グループ・アルハンゲリスク/ライヴ・イン・ジャパン』(日本クラウン)、『ベルリン・コンテンポラリー・ジャズ・オーケストラ/ライヴ・イン・ジャパン1996』(DIW)としてCDに記録されている。副島さんはライヴ至上主義だが、後の検証、あるいは限られた会場の限られた聴衆以外への伝播を考えるとCDの効用も計り知れないものがある。当日参加していたフォト・ジャーナリスト望月由美さんの写真を提供いただいたが、CDに加え、写真も同じような使命を担っていることがよく分かる。
途中、近藤直司さんのテナーによるフリー・インプロヴィゼーションとマサシスギヤマさんのパフォーマンスがいかにも副島さんの出版記念パーティにふさわしく、大いに参加者の耳目を引いた。
副島さんは僕の一回り上の未年だが、まだまだジャズの最前線を追い続ける覚悟だという。後輩としては師匠の後塵を拝しつつ追って行くしかない。師匠とは、「ビバップの本質は変化であり、進展だ。じっと動かず、安全にしているのとは違う。創造し続けようと思う人間には、変化しかあり得ない。人生は変化であり、挑戦だ」というマイルスの言葉を共有したい(マイルス・デイビス自叙伝II/中山康樹訳/宝島文庫)。
なお、副島さんの新著『世界フリージャズ記』(青土社)については、今号掲載の横井一江さんの紹介文(Library #71)を参照願いたい。(稲岡邦弥)
関連リンク:
http://www.jazztokyo.com/library/library071.html

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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