Concert Report#541


Film "About Rock In Opposition romantic warriors II - a progressive music saga" & SPECIAL LIVE! THE ARTAUD BEATS
映画「アバウト・ロック・イン・オポジション」日本語字幕版上映+アルトー・ビーツ ライヴ
2013年6月9日(日) 18:00
渋谷 アップリンク ファクトリー
Reported & photos by 剛田武

THE ARTAUD BEATS:Geoff Leigh/Yumi Hara Cawkwell/John Greaves/Chris Cutler
アルトー・ビーツ:
ジェフ・リー(fl, sax, electronics, vo)
ユミ・ハラ・コークウェル(key, vo)
クリス・カトラー(ds)
ジョン・グリーヴス(b, vo)

1968年ケンブリッジ大学で結成されたアヴァンギャルド・ロック・バンド、ヘンリー・カウは、ソフト・マシーンやキャラヴァンなどと共にカンタベリー・ロックの一翼を担う個性派として知られる。カンタベリー・ロックとはイギリスのカンタベリー出身者を中心とするプログレッシヴ・ロック系のバンド、ミュージシャンの一群による音楽を指す用語で、フリージャズの影響を受けた即興演奏が特徴である。キース・ティペット、エルトン・ディーン、ロル・コクスヒルといった英国を代表するフリージャズ・ミュージシャンも属していた。個性的なアーティストの多いこのシーンの中でもヘンリー・カウは最前衛派として知られる。1973年に新興ヴァージン・レコードの第一弾アーティストのひとつとしてデビュー。サックスやクラリネット等管楽器を導入した前衛ジャズと現代音楽の色濃いサウンドはチェンバー(室内楽)・ロックと呼ばれた。ヴァージンからリリースした5作のアルバムは高く評価されたが、1978年ヴァージンの路線変更に伴い契約解消。ニュー・ウェイヴ全盛でプログレッシヴ・ロックは時代遅れと言われる風潮の中、自主独立的活動を目指してヨーロッパ各国の創造的アーティストと恊働して「R.I.O.=Rock In Opposition(反対派ロック)」というコンサート・組織を設立。メジャー音楽シーンが商業主義に向かう中、真の創造性と自由を貫きロック史に残る存在になったR.I.O.のドキュメンタリー映画が元ヘンリー・カウのメンバーによるバンド、アルトー・ビーツの1年ぶり2度目の来日ツアーに絡めて上映された。
ヘンリー・カウのドラマーにしてR.I.O.の中心人物クリス・カトラーを始め、参加ミュージシャンやレーベル・オーナー、コンサート・オーガナイザー等の証言をもとに、R.I.O.および自主独立的に音楽を配給すべく設立されたレコメンデッド・レコードの精神と活動が詳らかにされる。既存の制作・宣伝・流通体制に頼らず自らの力で音楽制作・配給システムを確立しようとする闘いは、世界中の自覚的な音楽家の交流と共同作業へと発展し、それまで人知れず孤立した活動を続けてきた真の才能を世界中に紹介する媒介となった。現在であればインターネットを基盤として誰でも容易に出来るようになったグローバルなコミュニケーションを30年前に実践したのである。また当時はクラシックやジャズに比べてロックは社会的評価が低く、芸術としての価値を認められることは難しかったが、R.I.O/レコメンデッド・レコードの活動によりロックにも真摯に芸術作品を創造するミュージシャンが存在することを世界中に知らしめた意義は非常に大きい。80年代以降次々と登場したインディー・レーベルの先駆的存在でもあった。
映画の中ではこの運動が過去の遺物ではなく、現在も脈々と引き継がれていることを描き出す。ヨーロッパ中心だった動きがアメリカ、日本、南米、その他の国々に波及し各地から新世代のアーティストが続々登場し、フランスでは毎年R.I.O.コンサートが開催され世界中から出演者と観客が集まる。
現在に継承されるR.I.O.精神の支柱として活動するのがアルトー・ビーツである。元ヘンリー・カウという知名度を利用しプロモーターやメディアにアプローチすれば規模の大きいツアーを行うことは可能だろう。しかし彼らは既存のシステムには頼らず、自ら会場をブッキングし、インターネットで告知して地に足の着いた手作りの公演に拘る。演奏も同様で、過去の楽曲を再現することは有り得ない。ヘンリー・カウ時代もライヴでの即興演奏にこそ本質があったと映画で語るが、アルトー・ビーツの演奏はすべて完全即興である。元ヘンリー・カウの3人、クリス・カトラーが66歳、ジョン・グリーヴスが63歳、ジェフ・リーが67歳という歴戦のベテランに、現代音楽と即興演奏中心にイギリスで活動し 、デヴィッド・クロス(vln/キング・クリムゾン)、チャールズ・ヘイワード(ds/ディス・ヒート、マサカー)、ヒュー・ホッパー(b/ソフト・マシーン)、デヴィッド・アレン(vo,g/ゴング)、坂田明、梅津和時、吉田達也等と共演してきたピアニスト兼ヴォーカリストのユミ・ハラ・コークウェルを加えた4人組アルトー・ビーツの演奏はロック的なダイナミズムの中に現代音楽的な複雑なパッセージとフリージャズ的な自由度の高いインプロヴィゼーションが融合された唯一無二の即興音楽。ピアノ弾き語りソロで味のあるヴォーカルに定評のあるジョンと、アコースティックな管楽器と共にシンセサイザーとカオスパッドでノイジーな電子音を奏でるジェフと、ユミによる3声のヴォーカリゼーションは各自が即興詩を異なる旋律で歌うアブストラクトなもの。まるでスコアがあるかのように場面展開が変化し、一幕の即興劇を観るようなストーリー性は、あまたある抒情派ロックやムード・ジャズに感じる思わせぶりな予定調和とはまったく異質の、高い精神性と卓越した音楽性に裏打ちされた「混沌のハーモニー」としか名付け様のないオリジナリティー溢れる世界を創造している。
彼らのライヴでは、素材を提供することを条件に観客の録音・録画を許可している。それにより隠し撮りではなく、クオリティーの高い音源・映像を入手出来るし、観客がYouTubeやSNSやブログ等で情報発信することで宣伝効果が得られ、観客自身も満足感が得られリピーターになる可能性があるので、まさに一石三鳥である。昨年のツアーで観客から提供された音源をハンドメイドのCDR+DVDRボックスにして限定リリースした。今回の来日公演の音源と映像もファンの心をくすぐる形で発表されることは間違いない。リスナーの気持ちを理解しつつ、とことん自主独立精神に基づいた活動を続けるアルトー・ビーツは、音楽界の永遠の反対派と言えるであろう。(剛田武 2013年6月11日記)

 

剛田武(ごうだ・たけし)
1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。レコード会社勤務。
ブログ「A Challenge To Fate」
http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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