Concert Report#547

松岡直子ピアノリサイタル
2013年6月16日(日) 東京文化会館小ホール
Reported by 伏谷佳代(Kayo Fushiya)
Photos by 林 喜代種(Kiyotane Hayashi)

<出演>
松岡直子(ピアノ)

<プログラム>
バッハ;フランス組曲第5番ト長調BWV816
フランク;前奏曲、コラールとフーガ
ラヴェル;クープランのトンボ―
      夜のガスパール

*アンコール
バッハ;アリオーソ

美しい音色、省察と共感に裏打ちされた透明な音楽造り

新進音楽家たちを日本演奏連盟がバックアップするリサイタル・シリーズ。毎回オーディションによって選抜されたソロイストが出演するが、第23回はピアニストの松岡直子の登場である。松岡直子は国立音楽大学および同大学院修了。在学中に岡田九郎賞、NTT Docomo賞などを受賞し、数々の演奏会に出演。イタリアで開催されたパルマ・ドーロ国際コンクールにおいて2度にわたり入賞しているほか、第23回ソレイユ新人オーディションにおいても最高位を獲得している。欧州各地の国際アカデミーで研鑽を積み、室内楽奏者としても評価が高い。現在は演奏活動の傍ら、国立音楽大学付属小学校にて教鞭をとっている。

こうした企画の良いところは、演奏家という存在そのものについてフレッシュな視点で見つめ直すことができる点にある。松岡直子の美点のひとつに、ステージでの押し出しの良さと存在感が挙げられるだろう。前半と後半でドレスをグリーンからブルーへと衣替えし、華やかでありながらも落ち着いた魅力でステージをつつむ。演奏とは直接無関係として看過されがちかもしれないが、総合的なパフォーマンスとして筆者には見逃せないところだ。また、こうしたたおやかさは、演奏の成熟度とも分かち難く繋がっているものである。バッハからラヴェルに至るまでペース配分は周到に計算されたものであり、超絶技巧の箇所でも殊更なヒートアップは鳴りを潜める。一音一音が、深いところまで考察されている。概してまろやかな音色である(強音の部分で響きの方向が乱れる箇所が若干あったにしても)。含蓄のある音色の造形は冒頭より清冽な魅力を放っていたが、全開になったのが後半のラヴェルからである。ラヴェル演奏において、音楽とともに物語を追う楽しみを味わったのは本当に久方ぶりだ。漠然とアルペジオの流動性が水の趣きを放っていたり、これみよがしな弱強の照射など、良く言えば絵画的・悪く言えば平面的な演奏がおおいなか、松岡の演奏は自己の深いところから作品に共感し、省察し尽くされ、全うな意味での自己の透明化に成功している。理性と感性のバランスがベストに保たれており、それは「保守的でありながら新しい」ラヴェル作品の根幹にある情緒を忠実に浮き立たせることにも繋がっている。装飾音や奇抜な和声などでもあえて鋭さは出さず、消失と滲みの微妙なラインを保つことで、聴き手の想像力をいっそう高めるところがある。梃子(てこ)の原理を最大限に活用したパーカッシヴな凹凸と、はっとするような流麗なパッセージが不思議と柔和な一枚布に溶け込む演奏だ。

ひとつだけ加えさせてもらえば、こうしたアーティストを後押しする企画では、ステージ上でMC的なひとコマがあればさらに人物像のイメージが膨らむのに、とは感じた (*文中敬称略。2013年6月17日記。Kayo Fushiya)。

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.