Concert Report#553

ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団 2013年日本公演
2013年6月26日 東京オペラシティコンサートホール
Reported by 佐伯ふみ
Photos by 林 喜代種

<演奏>
首席指揮者:ミヒャエル・ザンデルリンク
ヴァイオリン:川久保賜紀
ピアノ:上原彩子

<曲目>
ベートーヴェン:「エグモント」序曲 Op.84
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 Op.64
(ヴァイオリン:川久保賜紀)
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 Op.73「皇帝」
(ピアノ:上原彩子)

 かの大指揮者クルト・ザンデルリンクの息子、チェリストのミヒャエル・ザンデルリンクが率いるドレスデン・フィルが来日した。6月20日〜29日まで、山口、東京、奈良、大阪を回る9公演。演目は、いかにもドイツ的と定評ある独特の音色をもつ古都のオーケストラにふさわしく、ベートーヴェンの交響曲「運命」「田園」「第7番」「エグモント」とブラームスの「第1交響曲」、そして上記のコンチェルト2つ。
 第1ヴァイオリンを左に、第2ヴァイオリンを右に、ベートーヴェン時代の両翼配置をとったオーケストラは、指揮者の言うとおり、内声部がよく聞こえてきて、その独特の重い(暗いとも言われる)音色と、これもいかにもドイツの古都のイメージを彷彿とさせるような、愚直なほどにきっちりとした音楽づくりで、非常に新鮮、面白かった。幕開けの「エグモント」から、これは、と思わせる出来映えで、都合でどうしても行けなかったブラームスを聴きたかったと臍(ほぞ)をかむ思いだった。
 前半のメン・コン、川久保のソロは、実のところ少し残念な結果であった。このオケの音色、音楽づくりに身を置いてみると、川久保の軽やかで華麗なヴァイオリンが、なにやらいかにも線が細く見え、どうにも異質で溶け合わないように感じられて居心地が悪かったのである。音色の個性の問題だけでもないようだった。ソリストの音程、そして細かい早いパッセージに、どうも甘さが感じられてしまって、弾きなれた曲の怖さ、といった言葉が頭に浮かんだ。
 後半の上原彩子は、このオケの強固な音楽作りと存在感を前にしても一歩も引かず、最初から最後まで音楽を支配していたのはこの小柄な女性ソリストだった。出るところ引くところ、心憎いばかりに演奏効果を計算し尽くした演奏。立派なものである。
 ただ、時折少々気になるのは、絶対にオケの音には埋もれないという意思を感じさせるタッチ(旋律線をレガートで歌うことを敢えて犠牲にして、一音一音をまるで刻み込むかのようにマルカートで発音する)のゆえに、耳に痛いような「たたく」響きになることがある。部分的にオケに埋もれて聞こえなくなっても、ここは、旋律線を美しく歌ってほしい、と思うところが何カ所かあった。音が聞こえなくても、聴き手は想像でそれを補って一本の旋律線を共に歌っている。しかしオケの音楽に埋もれないことを意識しすぎるあまり、前後の音との脈絡を犠牲にして音量調節をすると、旋律線は壊れ、聴き手にとっては一種のショック、興ざめの瞬間となる。ピアニッシモで歌うソロ部分などは、十分に繊細な美しさを湛え、なんとも切ない歌を伝えてきてくれただけに、少々惜しいと思った。

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