Concert Report#557

「室内楽マイスターへの道1」〜イェンス=ペーター・マインツ×津田裕也
2013年7月3日 トッパンホール
Reported by 丘山万里子
Photos by 大窪道治/提供:トッパンホール

<演奏>
イェンス=ペーター・マインツ(Vc)
津田裕也(Pf)

<曲目>
シューベルト:アルペジオーネ・ソナタ イ短調D821
ヴァインベルク:チェロ・ソナタ第2番 Op.63
ブラームス:チェロ・ソナタ第2番 ヘ長調 Op.99

<アンコール>
ブラームス:歌曲「愛のまこと」
        歌曲「調べのように私を通り抜ける」
        

 トッパンホールの新シリーズ「室内楽マイスターへの道」が始まった。若い才能たちが、なかなか共演の機会のない実力者とともに音楽を創りあげてゆく「夢」と「挑戦」のステージを、というプロジェクトで、その第1回にイェンス=ペーター・マインツと津田裕也が登場した。イェンス=ペーター・マインツは1994年ミュンヘン国際コンクールで優勝、2006年よりルツェルン祝祭管弦楽団のソロ・チェリストをつとめるドイツを代表するチェリストである。古典的なレパートリーの他、現代曲にも造詣が深い。津田は2007年仙台国際音楽コンクールで第1位を獲得、東京芸大卒後、ベルリン芸術大学へ留学、現在同大学院国家演奏家コースに在籍する新進。室内楽にも積極的で、ピアノ・トリオ<Accord>を結成、活動の場を拡げている。
 シューベルトの冒頭、歌心にあふれた柔らかな入りから、津田の卓抜した協奏センスはすぐに見て取れ、その上に滑らかにのってゆくチェロの豊かな音律とともに、シューベルトの歌謡世界がのびのびとひろがった。第1楽章の軽やかさ、第2楽章のしっとりした抒情、第3楽章の小気味良く弾むリズム、どこをとっても、二人のバランスは抜群。が、このデュオが、その真骨頂を聴かせてくれたのは、続くヴァインベルク。これが素晴らしかった。ヴァインベルクはポーランド生まれのユダヤ人作曲家。第2次大戦の勃発とともにソ連に亡命したものの、スターリン恐怖政治下で様々な苦難を味わい、波乱の生涯を送った。ショスタコーヴィチからの影響を多く受け、このソナタもショスタコーヴィチ風な味付けが濃厚だが、随所に才気を感じさせる傑作である。シューベルトとはガラリ変わって、くぐもるような翳りを帯びたチェロの音色がまず耳を惹きつける。幅広く上下動するモチーフも新鮮で、時おり底光りする低音がいっそう音楽の奥行きを深める。ピアノも繊細な部分はあくまで繊細の一方で、鳴らすところはがっつり鳴らし、メリハリを効かせる。両者のパワー全開となったのは終楽章で、せわしなく回転する音形に民族的香りを撒き散らしながら激して行くさまはスリリングで、パーカッシヴなピアノに挑みかかるようなチェロの重音が白熱した高揚を生み出した。両者渾身の最後の一音に、飛びつくようにかかった「ブラァボ!」の声にも納得。ブラームスもスケールの大きな演奏で、変化に富む語り口がダイナミックに展開された。
 チェロ、ピアノともにがっぷり四つで、「室内楽マイスターへの道」にふさわしい一夕。今後のこのシリーズに期待したい。

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