Live Report#558

『000/Fumics』イラストマシーン FUMICS PYOSHIFUMIX 展
2013年7月7日(日) 19:00 七針
Reported & photos by 剛田 武

ライブ出演:
三浦モトム(g)+小川直人(vo,syn)
組原 正(vo,g/グンジョーガクレヨン)+美川俊治(electronics/インキャパシタンツ、非常階段)

七針は2006年に下町・八丁堀にオープンしたスタジオ・ギャラリー。30人も入れば満席の小さなスペースだが、音楽だけではなく舞台芸術一般の小規模公演や造形美術の展覧会場としても場を提供している。向井千惠、林栄一、広瀬淳二、PHEW、山本精一などのベテランから、二十歳そこそこの若手まで、経歴・ジャンルを超えた表現者が集い、他の場所では出来ない実験や冒険的試みを夜な夜な実践している。

今回は札幌在住のイラストレーターFumics Pyosshifumixのイラスト展と二組の即興セッションを組み合わせたアート×ミュージック・イベント。通常の画廊やギャラリーで常設アート展のアトラクションとして開催される音楽イベントとは違って、展示も一日限りというハプニング性がこの会場ならでは。

Fumicsは札幌のローカル・シーンではコンサートフライヤーやカセットレーベルで知られたデザイナー/イラストレーターで、2000年に初の個展を開催し、海外でも作品が紹介されたというが、北海道の外ではほとんど知られていなかった。昨年からツイッターやフェイスブックで積極的に情報発信しはじめ、こうしたSNSで知り合ったフォロワーや友達の間で、その特異なイラストの評判が広まった。それがきっかけで突然段ボールの蔦木俊二のソロCDにイラストが使われ、実際に会ったことのないネット上の友人たちが企画して今回のイベントが実現した。ヴァーチャルな繋がりが、突然ダンボール、グンジョーガクレヨン、インキャパシタンツ/非常階段という日本の先鋭的音楽の重鎮に辿り着いたのだから、新時代のコミュニケーション・ツールとしてのSNSの重要性は計り知れない。
ステージ背面にFumicsのカラフルなイラストが貼り巡らされていて、単なる装飾以上の異次元的なオーラを放っている。まさにアートとミュージックのジャム・セッション。

●三浦モトム+小川直人

一組目は札幌出身の若手アーティストの演奏。Fumics自身が声をかけたという。三浦はターンテーブルを含むエレクトロ・ファンク・バンド、HALBACHのギタリスト。小川は“ひとりパンクバンド”と称して基本的にソロで活動するパフォーマー。どちらも活動の場を求め札幌から東京へ移り、ライヴハウス・シーンで注目を集める存在である。チープなリズムボックスのビートが80年代風のキッチュなポップ感を醸し出す中で、小川がヴィンテージ・シンセサイザーを抱えて電子ノイズを鳴らしながら激しくシャウト。暴力的なパフォーマンスに虚を突かれる。三浦もノイジーなサウンドを撒き散らす。ノイズの即興演奏といえば、大音量で延々と騒音の垂れ流しが続くイメージが強いが、この二人の演奏は5分程度の居合抜きのようなセッションで完結する。その分パワーが凝縮されたハイテンションな演奏が繰り返される。イラストのポップなイメージに彩られたコンパクトでショッキングなインプロ・ノイズが新鮮だった。

●組原正+美川俊治

当初は蔦木俊二が加わり、突然ダンボール+グンジョーガクレヨン+インキャパシタンツという日本のエクストリーム・ミュージックの代表格の三つ巴対決になる予定だったが、都合により蔦木は不参加。そのため逆に二者ががっぷり四つに組み、焦点のハッキリした堅固な演奏になった。昨年7月の組原の2ndソロ・アルバム「inkuf」リリース記念ライヴで初共演してから1年ぶりの再会だが、旧知の仲のように信頼関係が成り立っていることが伝わってくる。組原も美川も昨年から積極的にソロやセッション活動を始めているが、何処で誰とやっても100%の自分自身であることに感嘆する。自分の表現を貫いたうえでの即興セッション。ふたりとも完全にオープンマインドで、来るものは拒まずという姿勢を持つ。そんな二者の共演は21世紀のインプロヴィゼーションの理想形を提示した。「信頼関係=馴れ合い」ではない、ということが一聴して理解できる、厳然とした個と個のぶつかり合いは一瞬もだれることなく、緊張感に満ちた演奏が40分に亘って展開された。

ネットが生んだ奇蹟的な出会い、壁一面に飾られたカラフルでストレンジなアートが放つサイケデリックな雰囲気、新旧インプロヴァイザーの本気のぶつかり合い。下町の小さな創造道場で繰り広げられた類い稀な夜に心酔した。(剛田武 2013年6月11日記)

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#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
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・トランスワールド・コネクション 剛田武
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