Concert Report#564

フェスタ・サマー・ミューザKAWASAKI 2013
「あなたの心をイタリアへ」
新日本フィルハーモニー交響楽団
2013年7月29日(月)  ミューザ川崎シンフォニーホール
Reported by 多田雅範 Masanori Tada

指揮:クリスティアン・アルミンク
ヴァイオリン:豊嶋泰嗣
曲目
三善晃:ヴァイオリン協奏曲(1965)
ストラヴィンスキー:バレエ組曲「プルチネッラ」
メンデルスゾーン:交響曲第4番「イタリア」         

まさしく、指揮者アルミンクと新日フィルとの10年間の総決算を問うような演奏の高み、そしてヴァイオリニスト豊嶋泰嗣の真摯で揺るぎない音楽の理解度、

32歳の三善晃が到達していた厳しく透き通った美意識の結晶「ヴァイオリン協奏曲」、

7月26日にサントリーホールでの定期演奏会を聴いてきた友人が、このような演奏は滅多に出会えない代物、一生の糧となる音楽の体験、豊嶋さんのヴァイオリンは神の領域に触れていると高揚しているもので、

同じプログラムが29日のミューザ川崎で演奏されると知り、体調不良と手持ち5千円の中、診察費用は後払いを押し通して咳の発作を応急措置して微熱のまま駆けつけた。

指揮者とオケのコンビネーションの有機的な到達とはこのようなものか。やはりクラシックを100公演くらい聴かないと、この感触を感知することはできなかったものだ。この空気の伝わりかたは、録音物では届かなくて、クラシックもライブなのだなと身動きできない耳のそばだて、全身での耳のそばだて。

これは何も難しい体験なのではなくて、すっと「楽しい」、すっと「柔らかい」、すっと「涼しい」、あっけにとられるくらいにすがすがしい体験なのだった。体重が軽くなり、咳の症状が楽になり、目に見えないものが見えるようになるような、不思議。ほんとうに美味いものを食べると「おいしかった」「おなかいっぱい」ではなくて、ふわっと単純に全身の血液が躍動しはじめるだけになる、それに似ている。

豊嶋泰嗣のヴァイオリンは、格闘していたり自己を表出していたり技の披露をしているのではなくて、音楽の中にあって透明なヴァイオリンの属性をも失わせるような生命体であるようだった。

このあたり、ヴァーチュオーゾとして観客を楽しませたり感嘆させるアプローチとは別格なありようで、わたしもクラシックの世界に拡がっている可能性を感じるのに耳が拡張された感覚だった。

もっと前から追いかけているべきだったとも思うし、辛うじて今回聴くことができて耳の宝物になった。

2003年に32歳の若さで音楽監督に就任したアルミンクの最後の夏。8月2・3日に、本拠地トリフォニーで、ソプラノ藤村実穂子、合唱指揮栗山文昭でのマーラー3番がフィナーレ、満員御礼だったとのこと。

参考
「豊嶋泰嗣、三善晃のヴァイオリン協奏曲を語る」
http://www.njp.or.jp/archives/12644

ミューザ川崎シンフォニーホールには今回初めて行った。「オーケストラの夏が帰ってきた!!」と題された『フェスタ・サマー・ミューザKAWASAKI2013』(7月28日〜8月11日)は、ここを本拠地とする東京交響楽団をはじめ、新日本フィルハーモニー交響楽団、読売日本交響楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、NHK交響楽団、東京都交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、日本フィルハーモニー交響楽団と9つのオケが揃う。それでS席3000円というのも有難い。京浜東北線で東京から意外と近く感じられたし、川崎の駅から空中都市を歩くようにホールまで数分というアクセスの良さだった。

そして、何よりも音響がすばらしいこと。

震災のときの天井崩落事故ニュースの記憶がよぎっていたけれど、あれは業者の手抜き工事だったんだろ、いくらこの世のものとは思えない音楽を耳にしていたって、な。その後の改修工事はばっちりだし、川崎市は損害賠償請求しているし、今回の公演の素晴らしさでわたしはすっかりミューザ川崎をテリトリーにすることを決めました。(多田雅範)

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