Live Report#565

西山 瞳&橋爪亮督 デュオライブ
2013年7月31日 20:00 池袋 Apple Jump
Reported & Photos by 神野秀雄

西山 瞳(p) 
橋爪亮督(ts)

Duet (Ryosuke Hashizume)
Uma Nuvem Notura (Ryosuke Hashizume)
月下に舞う (Ryosuke Hashizume)
Re:Person I Knew (Bill Evans)
Pictures (Hitomi Nishiyama)

Endless Stars (Fred Hersch)
Baby, Baby (Carla Bley)
Dark Glasses
from "Masquerade in 3 Parts" (Steve Swallow)
Whispering (Hitomi Nishiyama)
Bye for Now (Hitomi Nishiyama)         

「ヨーロッパジャズ」という私的な非常にいい加減な括りの中で、ビル・エヴァンスらを遠い源流におき、ECMやその周辺からヨーロッパで展開した音楽(ニューヨークにも引き継がれながら)を「ヨーロッパジャズ」と呼ばせて頂くなら、その影響をまっすぐに受け止めながら、オリジナリティのある音楽を日本において着実に生み出しているのが西山瞳と橋爪亮督の二人だと思っている。多田雅範らも橋爪への最大級の賞賛を惜しまないので的外れではないだろう。その二人の最大の成果を見せてもらえたのがこのユニットだった。

これまで、西山瞳の坂崎拓也(b)&清水勇博(ds)による『Parallax』トリオ、佐藤“ハチ”恭彦(b)&池長一美(ds)による現行のトリオを中心に長く聴いてきた。私にとっての西山との出会いは、横浜の「港南ジャズフェスティバル 2006」に遡る。「横濱ジャズプロムナード 2005」ジャズコンペティションでグランプリ受賞の結果として、原満章(b)&加納樹麻(ds)のトリオで出演。全く先入観なしで聴き、美しいオリジナルと流れるようなピアノフレーズとハーモニーに瞬間で魅了される。この段階では、ジョン・テイラーとの接点を感じ、終演後言葉を交わすと西山もそれを認めたが、もっと後で、エンリコ・ピエラヌンツィ(2013年9月来日予定)により大きな影響を受けたことを知った。他方、橋爪については新宿ピットインに出演してきた市野元彦(g)、佐藤浩一(p)、橋本学(ds)、織原良次(b)による橋爪亮督グループを聴き、その深く浮遊感のあるサウンドに驚かされる。こうして両者の素晴らしさは知っていたが、今回、デュオでの演奏を聴く機会にようやく恵まれた。

池袋・立教大学キャンパスからわずか20mほどにあるシンプルで居心地のよいジャズクラブ「アップル・ジャンプ」。初めて聴く二人でのライブは期待していた以上に素晴らしかった。前半は橋爪の作品3曲にビル・エヴァンス、そして『西山瞳/Music in You』(Meantone Records)に西山、佐藤、池長、橋爪で録音されている<Pictures>へ。後半はフレッド・ハーシュ、カーラ・ブレイ、スティーブ・スワローなど個性的な作曲家の曲を取り上げながら、西山の曲で締め括る。作曲に力を入れ魅力的な曲を書き続けてきた二人。特に西山は2010年に米最大規模の作曲コンペティションであるインターナショナル・ソングライティング・コンペティション(ISC)で、全世界約15,000エントリーの中から<Unfolding Universe>がジャズ部門3位を受賞している。二人のオリジナル曲から生まれる世界観は素晴らしく、お互いの曲を理解しているだけにさらに広がりを見せる。西山の美しくも緻密なピアノフレーズが生み出す確かなテクスチャーに、橋爪の簡単には捉えきれない、だが自分自身の明確なイディオムを持ち、独特の空気感があるテナーが静かに絵を描いていく。強いて言えば、楽器の特性上しかたがないことだが、橋爪の作品に対する西山の理解の方が、西山の作品に対する橋爪の理解よりも深いかも知れない。西山の作品でのさらに踏み込んだ橋爪のプレイにも期待したい。
また、前半で個性的な作曲家たちの曲を演奏することで見せる違った表情も楽しめた。西山は文字通り顔の表情も曲により少し違っていたが。フレッド・ハーシュの曲で、美しく切ない気持ちにさせるコード進行の<Endless Star>、この曲は西山のソロライブでも演奏されている。カーラ・ブレイ<Baby,Baby>は『Carla Bley & Steve Swallow/Duets』(Watt/ECM 20)の1曲目。カーラ節だがセロニアス・モンク的にちょっとユーモラスな一曲、日頃の西山・橋爪があまり演奏しないタイプだ。スティーブ・スワローについては、西山がこれまで好んでさまざまな曲をライブでカバーしてきている。
演奏中の写真は許可をもらって撮影したが、デュオのあまりの美しさと緊張感に2枚シャッターを押しただけでそれ以上撮り続けることができず、結局、終演後に記念写真を撮ることになった。それだけ張りつめた空気が覆っていた。締め括りは、『Hitomi Nishiyama in Stockholm-Live at Glenn Miller Cafe』(Spice of Life/Amuse)に収録されている<Bye for Now>。複雑なコード進行の中でピアノとテナーサックスがお互いのフレーズを高め合うかのように絡みながら流れていき、心地よさと切なさが交錯し、確かな余韻を残しながらライブが静かに幕を閉じた。
西山は複数のトリオとソロ、橋爪は独自のグループでの活動を中心にすえ、このデュオはメインの活動とせず、そのため早い段階でデュオ、または二人を含むグループでCD化される可能性はそう高くはないと思う。だが、アルバムを完成する作業を行う中で、もうひとつ先の世界が明確に見えてくるのではないか。いつか西山と橋爪のコラボレーションが作品として実を結ぶ日を楽しみにしたい。

【JAZZ TOKYO関連リンク】
FIVE BY FIVE『橋爪亮督グループ/アコースティック・フルード』text by 多田雅範
http://www.jazztokyo.com/best_cd_2012a/best_cd_2012_local_09.html

【関連リンク】
西山瞳オフィシャルウェブサイト
http://hitominishiyama.net
橋爪亮督オフィシャルウェブサイト
http://www.ryohashizume.com
西山瞳/Music in You (試聴YouTube - 05:44頃からPictures収録)
http://youtu.be/bEaAs7MVJwU





Music in You (Meantone Records MT-002)
<Pictures>収録
西山瞳(p)、佐藤”ハチ”恭彦(b)、池長一美(ds)、橋爪亮督(ts)


Sympathy (MEANTONE RECORDS MT-004)




Acoustic Fluid (tactilesound records TS-001)

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