Live Report#568

ニルス・ヴォグラム+サイモン・ナバトフ
Nils Wogram + Simon Nabatov
2013年8月19日 新宿Pit Inn
Reported by 稲岡邦弥
Photos by 横井一江

        

会話を交わすように自由自在に楽器を操り音楽を話し合うふたり

このデュオが初来日と知って驚いた。個人としても訪日の経験なしとのこと。ハービー・ニコルスの<ハウス・パーティ・スターティング>(この夜、唯一のジャズ・スタンダード。ニルスは<House Party Was Over>とアナウンスしていたが、ギャグかも)でセッションを閉める前に、マイクを握ったニルスが口を開いた。「今回の来日はKazueのお陰で実現した。ソウルで仕事が決まったので何とか東京でも、といろいろトライしたが誰ともコンタクトできなかった。思い余ってベルリンのAki Takase(ピアニストの高瀬アキ)に相談したらKazueを紹介してくれた。皆、Kazueに拍手を!」。Kazueとは、本誌でもペンと写真で活躍中の横井一江である。横井さんが結果的に赤字を被ったかどうかは知らない。しかし、何れにしても彼女がリスクを負ってふたりをソウルから呼び寄せた。リスクを負ってでも日本のジャズファンに聴かせたいとの彼女の思いが決断させたのだ(僕らはかつて“ブラジルの至宝”エグベルト・ジスモンチをソウルからリオへの帰途、東京を経由させたシャララの田村直子さんの勇断を忘れてはいない)。ピットインは7割ほどの入りだったが、集まったファンは彼らの演奏に充分納得したに違いない(彼らはもう1ヶ所、横浜のエアジンでも演奏している)。
かくいう僕も彼らについてはヨーロッパ・ジャズ通の横井さんや伏谷佳代さんの情報を通じて得たものだ。横井さんは2000年のメールス・ジャズ祭以来何度かニルス(1972~、独)についてレポートしているし、彼のCDについては伏谷さんが、「Root 70」、「Trio」、「Septet」、さらにはこのデュオに至るまでそのすべてを紹介した上で、「Septet」アルバムを2012年度の海外盤年間ベストに推すほどの入れ込みようだ。(末尾の「関連リンク」参照)
それにしてもサイモン・ナバトフ(1959~、モスクワ)、オフ・ステージの巨体を持て余しただらけ気味の中年親父が、オン・ステージでの豹変ぶりはどうだ。眼鏡を外し、イケメンのニルスとまなじりを決して対峙する意気込み!十数年のキャリアを誇るデュオが“日本のジャズの聖地”新宿ピットインで初心に帰ったようだ。こういう演奏をアメリカでは“フリー・バップ”というのだろうか?シンプルだがテーマがあり、アドリブを展開するのだが、それなりにキメもあり、オンとオフを往き来しつつ、テーマに戻って締める。トロンボーンとピアノのデュオ、異色のようだが音楽の三要素、メロディ、ハーモニー、リズムをカバーできる。とくにニルスはマルチフォニックス(重音奏法)やサーキュラー・ブリージング(循環呼吸法)も含めて(この夜は控えていたが)多彩なテクニックを有しているので誠に表現力に富む。ユニゾンで歌ったり、カウンターメロディをぶつけ合ったり。長いキャリアのふたりだけに、やや手慣れた感を覚える場面もなくはなかったが、会話を交わすように自由自在に楽器を操り音楽を話すふたりの魅力は絶大である。
そして、横井さんと伏谷さんの熱意は、本稿執筆中のまさに今日叶えられることになった!ニルス・ヴォグラムに2013年度のアルバート・マンゲルス賞授与のニュースが飛び込んできたのだ。隔年ごとに、ドイツ・ジャズ界に貢献した音楽家に与えられるビッグ・プライズ。賞金は15,000ユーロ(邦貨約150万円)。弱冠41才のニルスに対する授賞は、彼に対するドイツ・ジャズ界の高い評価と大いなる期待を物語るものである。
ところで。
“東欧最強のサックス奏者”と謳われるリトアニアのリューダス・モツクーナスから、たった1日の大使館のギグだけを終えて帰国するには忍びない。一般のファンとも相見えたいのだがとアピールがあり、東欧スラヴ音楽リサーチセンターの岡島豊樹さんの協力を得て11月22日(金)吉祥寺・サウンドカフェ・ズミと23日(土)水道橋Fttariを確保した。現役の横井さんのような元気はないので、自らリスクを負うに至らず、ブッキングだけの手伝いになった。結果、リューダスとペトラス・ゲニューサス(p) のふたり、チャージですべての経費を賄う手打ちギグになる。ヨーロッパの最新の音を聴きたいファンはぜひ出掛けてふたりを無事日本から帰してあげて欲しい。誌上を借りてお願いする。(詳細は国内ニュース欄)(稲岡邦弥)

*関連リンク
http://www.jazztokyo.com/column/reflection/v28_index.html
http://www.jazztokyo.com/five/five768.html
http://www.jazztokyo.com/five/five822.html
http://www.jazztokyo.com/five/five945.html
http://www.jazztokyo.com/five/five769.html
http://www.jazztokyo.com/best_cd_2012b/best_cd_2012_inter_01.html

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FIVE by FIVE 注目の新譜


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#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
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#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
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・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
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