Concert Report#570

THE PIANIST コンポーザーピアニスト・フェスティバル2013
2013年8月23日 東京オペラシティコンサートホール
Reported by 稲岡邦弥
Photos by 堀田力丸

第1部 辻井伸行
使用ピアノ:スタインウエイ & サンズ D274

第2部 加古 隆
使用ピアノ:ベーゼンドルファー モデル290 インペリアル

第3部 レ・フレール(斎藤守也+斎藤圭土)
使用ピアノ:ベーゼンドルファー モデル290 インペリアル ”Dhanie”         

新進気鋭、円熟の極地、桜花爛漫、三者三様のピアニズムを満喫

“コンポーザー・ピアニスト”、コンポーザー(作曲家)とピアニスト(演奏家)の資質を併せ持つアーチスト、あるいは両方のジャンルで注目すべき活躍をしているアーチスト。何れか一方の資質で世に認められるだけでも容易なことではないが、何れの資質も傑出しているアーチストとなると必然的に数は限られてくる。該当するアーチストから2者1組を選りすぐった異色の企画。
当夜、参加した2者1組(4手連弾)は音楽性と同時にコンポーザーとピアニストとしての活動の比重に、今後はいざ知らず、現時点ではかなりの差を認めることになる。1部に登場した辻井伸行は、「第13回ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクール」で日本人として初優勝、一躍注目を集めた演奏家である。その後、2011年には『神様のカルテ〜辻井伸行自作集』を発表、映画やTVのテーマ音楽を手がけるなど、作曲家としても注目を集めている。2部の加古隆は、東京藝術大学・大学院作曲研究室終了後、パリ高等音楽院でオリヴィエ・メシアンの下、作曲家修行に励んでいた折り、フリー・ジャズのピアニストとしてパリでデビュー、演奏家として今年で40年のキャリアを迎える。1980年に帰国後は映画やTVの音楽の作曲と演奏に多大な成果を上げている事は良く知られている通り。第3部のレ・フレール(仏語で兄弟の意)の斎藤兄弟はともにルクセンブルグ国立音楽院でピアノを学び、帰国後、ふたりで1台のピアノを演奏する「キャトルマン・スタイル」を確立、自作曲を演奏する。新しいスタイルのため、自らオリジナル曲を書く必要に迫られての作曲、ということになる。エンタテインメント性豊かなステージングで辻井、加古と一線を画する。
使用ピアノは、辻井がスタインウエイ、加古とレ・フレールがベーゼンドルファー・インペリアル(97鍵)のそれぞれの専用楽器を使用。
1部の辻井は自らの作曲歴を辿るかのように高校時代の作品から始めた。いかにも高校生の作品らしく初々しさに満ちたものだったが、この初々しさは素直さ、純粋さと共にその後の辻井の作品に共通するキーワードに思えた。これらの要素に満ちた楽曲が辻井が紡ぎ出す無垢な音で生きた音楽として奏でられるとき、そこはまさに天上の一隅のような安らぎの場と化す。コンサートからしばらくたって、辻井をヨーロッパに追った『旅のチカラ』というTV番組を観る機会があった。セーヌの河の流れを手先で確かめ、海辺に立って波の音で海を実感する。版画家が彫った版木を指でなぞって波のうねりを体感する。辻井の作品を聴いたミシェル・ベロフは、「作曲というのは見たまま感じたままを音にするのではない。心の奥底で響く真実にじっと耳を傾け、それを音にするのだ」と極意を伝授。辻井は、乾坤一擲、ショパンのエチュードで目の覚めるようなキレのある演奏を披露、演奏家としての真骨頂を披露することを忘れなかった。

加古とレ・フレールは作曲と演奏が表裏一体となったまさにピアニストコンポーザーの典型といえよう。2部の加古は長いキャリアの中で定番中の定番となった楽曲でプログラムを構成。僕自身、何度もコンサートやCDで耳にした曲ばかりだったが、中でも<チトン通り11番地>が聴き応えがあった。これはパリに留学中の70年代後期に書かれた作品で、若さと情熱、ひたむきさ、可能性への挑戦など当時の加古のスタンスがそのまま反映され、それらのすべてが巧みにバランスされた作曲と即興で表現される。最近の作品ではほとんど姿を消してしまった不協和音やテンション、濁音などジャズ特有の要素に変わらぬスリルが味わえる初期の代表作である。CMやNHKのシリーズ番組で広く知られるところとなった<ポエジー>や<パリは燃えているか>など、何度も演奏されてきた楽曲が円熟の極みを伴って演奏された。
3部のレ・フレールは、何年か前に「東京JAZZ」でデビュー演奏を聴いて以来だが、長足の進歩を遂げていた。何度もコンサートをこなしながら楽曲ごとの演出をブラッシュ・アップしてきたのだろう。兄弟で低音部と高音部を変えたり、低音担当の兄が高音担当の弟の手をクロスして高音部に乗り込むアクロバチックな演奏をみせたり視覚的な目くらませも盛り込む。兄が弦をミュートさせて太鼓や箏の音を出すなどは新趣向。何れのアクションも素早くキレが良いので効果が倍加する。客席の応援団の指笛や手拍子に乗せられ会場は大盛り上がりだ。キメや仕掛けの多い演奏の中で即興を中心としたブギウギに心が解放される。エンタテインメント性の高いステージだったが、オリジナリティとしっかりした技術に裏打ちされた演奏は世界に通用するものだろう。

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FIVE by FIVE 注目の新譜


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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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