Live Report#572

マイク・スターン・バンド feat. 小曽根真、デイヴ・ウェックル、トム・ケネディ
2013年8月27日 ブルーノート東京
Reported by 神野秀雄
Photos by 山路ゆか Yuka Yamaji

Mike Stern (g, vo)
小曽根真 Makoto Ozone (p, Hammond)
Dave Weckl (ds)
Tom Kennedy (b, elb)

1st
Out of the Blues
Avenue B
Wishing Well
Chatter
Big Neighborhood

2nd
Coup de Ville
KT
That’s All It Is
Wing and a Prayer
Tiptinas
Blues for Al         

小曽根真がニューヨークの自宅(当時)で、マイク・スターンとプライベートなセッションを持つという話をきいたのが確か2006年頃。両者の音楽を大好きだったので、「凄いですね」と興奮しながら反応したものの、エレクトリックに変態気持ちいいフレーズとハーモニーで攻めるマイクと、ザ・トリオでの自由自在だがアコースティックでベーシックを大切に演奏していた小曽根のセッションから生まれる音に明確なイメージがすぐには湧かなかった。2007年3月、デイヴ・ウェックル(ds)、クリス・ミン=ドーキー(b)との4人でのブルーノート東京公演が実現。その相性の良さとグルーヴと表現力に圧倒され、その真価を思い知らされる。2007年9月22日に同メンバーで「東京JAZZ 2007」に出演し、東京国際フォーラム ホールAの満席の観客を熱狂させる。そして6年を経て、デイヴ・ウェックル(ds)、トム・ケネディ(b)を擁しての来日となった。

来日公演初日となる27日、1stと2ndあわせて3時間以上、両セットに1曲のダブりもなく11曲が演奏された。会場の熱気に迎えられながら<Out of the Blue>のリフが奏でられ、ブルース進行によるソロパートへ。<Avenue B>では、物憂げな曲調の中、小曽根のハモンドが効果的に響き、デイヴ・ウェックルのドラムソロも冴え渡る。
3曲目はギターとピアノのやりとりから始まる。小曽根のマイクを見る目は、バンド・メンバーとのアイコンタクトというよりも、コンチェルトでマエストロを見る眼差しのように真剣。耳を頼りに音楽に導かれる方向を探す。どこまでも美しいインタープレイの中から、やがて浮かび上がってきたメロディーは<Wishing Well>。『Voices』のために書かれた美しい曲。リチャード・ボナが参加した自身のバンドやステップス・アヘッドでもよく演奏されていたが、ここではマイク自らが歌い上げる。単に口ずさんでいるのではなく、ヴォーカル用マイクスタンドを用意し、今回からマイク・スターンの声にレギュラーの楽器として役割を持たせている。実はいい声をしていて、リチャードの声が極上であるのはもちろんだが、マイクの声はギターにシンクロするだけに完璧だ。
<Chatter>で大きく盛り上げた後、ステージをおりずにそのまま、アンコールの<Big Neighborhood>へ。

第二部は、『Big Neighborhood』の<Coupe De Ville>から。お気楽感のあるコード進行は<There is No Greater Love>のものだ。マイクはスタンダードの名曲から魅力的なリフを生み出すのが巧いし、スタンダード進行によるプレイは素晴らしい。次いで最近では定番の<KT>、おそらくKim Thompsonの頭文字と思うが、演奏される。大好きなバラード<Wing and a Prayer>では、マイクが歌い、4人がどこまでも美しい音を奏でる。<Tiptinas>でも小曽根のハモンドが活躍し、そのままアンコールで、ミディアムテンポのブルース<Blues for Al>へ。客席からの拍手はしばらく鳴り止まなかった。

このバンドを強く印象づける大きなポイントは、ハモンドオルガン奏者としての小曽根の存在だ。ピアニストがライブでハモンドを弾くことは珍しくないが、単なるキーボード音源のひとつに終わり、ハモンドとしてのグルーヴにならないことが少なくない。小曽根の場合、父・小曽根実の下で、幼少の頃むしろハモンドから始め人前でも演奏もしていた。ピアノを本格的に始めるのは12歳でオスカー・ピーターソンと出会ってから。バークリー音楽大学に行くわずか6年前だ。ハモンドの音の立ち上がりと減衰の曲線は、打楽器であるピアノとは全く異なる。小曽根の脳と耳と体にはこの曲線が完全に入っていて本能的に動き、またハモンドでグルーヴを生むことへの感性を誰よりも持っている。さらにその場でフィードバックしてハモンドと体がひとつになる。正直なところ、ハモンドについていえば、マイクにとって小曽根は最上のパートナーであり、CDよりも小曽根とのライブの方が凄いと思う。ジム・ベアードがプロデュースに関わっているため、ハモンドを呼んでくるに及ばないということになるのかも知れないが、小曽根を含むCD録音をずっと心待ちにしている。
また、ハモンドに大きな期待をしながら臨んだが、前回以上に、ピアノとギターの絡みあう美しい響きに感動した。6年間は長い、この間にふたりとも「音」そのものが大きく進化したことが大きいのではないだろうか。なお、今回、小曽根はヤマハのMIDIピアノを使い、アコースティックをメインにしつつ、ときにピアノからさまざまな音色を表現していた。

初日第一部は、心地よい中にも強い緊張感があり、小曽根がマイクの進もうとする方向、バンドとのインタープレイを着実に探って行く感があった。ツアーを重ねた3人に今日加わった小曽根なら必然的にそうなるのかも知れない。もともとマイク・スターンのツアーバンドにおいてピアノは異質でもあり、居場所が用意されているのではなく探し創るものなのだろう。初日の緊張はジャズにおいてはむしろ価値がある。以前、ロイ・へインズ「ファウンテン・オブ・ユース・バンド」の代役で小曽根が参加し、ほぼ初見で弾いていた『パット・メセニー/オフランプ』(ECM1216)から<James>でも緊張感がプラスに作用して、素晴らしい演奏となっていた。
途中、小曽根、デイヴ、トム・ケネディがピアノトリオになりフォービートを演奏した瞬間の親密度とインタープレイは凄かった。小曽根とデイヴは厚い信頼の下、これまでも素晴らしい演奏を聴かせてくれたが、未知数であったトム・ケネディのベースがここまでやってくれるとは。二人の距離感を大きく縮め、三人で長年レギュラー活動を行ってきたかと錯覚するような一体感があり、やり取りの中で新しいアイデアがどんどん出てくるようでもある。何よりも音楽の楽しさが溢れ、音楽への愛が溢れている。そしてそこにマイクが嬉しそうに入ってきて、音楽のストーリーがさらに生まれていく。トムは9月にリー・リトナー、ハーヴィー・メイソンらとともに来日し、またあのベースをブルーノート東京で聴くことができるのが楽しみだ。
第二部になると、第一部で掴んだ一体感と厚い信頼感から、むしろ小曽根は対等以上の存在となり音楽の流れをインタープレイの中で見極めながら、方向を提案し、マイクが嬉しそうについていき、楽しく喜びに溢れた音が生まれていく。そして、リミッターがはずれた、やんちゃの応酬に。初日はこのケミストリーを共有することができ貴重な経験となった。残念ながら後半の公演を見ることはできなかったが、とてつもなく凄いバンドに化けていたことは疑いがない。6年に1回だけではもったいない。早く次回のライブを聴きたいし、録音の機会もあったらよいのにと思う。最高のミュージシャンによって、目の前で、リアルタイムで音楽が創られる瞬間に立ち会い、ジャズの営みを再認識させてくれるすばらしい時間を共有できたことを嬉しく思い、心から感謝したい。

マイク・スターン 公式ウェブサイト
http://www.mikestern.org

All that Jazz with Mike Stern (YouTube)
http://youtu.be/dz4cO6_cXSk

小曽根真 公式ウェブサイト
http://makotoozone.com/jp/

デイヴ・ウェックル 公式ウェブサイト
http://www.daveweckl.com/

トム・ケネディ 公式ウェブサイト
http://www.tomkennedymusic.com















All Over the Place
(Heads Up / ユニバーサルミュージック)


Voices (Atlantic)


小曽根 真 & Gary Burton / Time Thread
(Verve / ユニバーサルミュージック)


Tom Kennedy / Just Play (Capri Records)
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