Concert Report (Extra) #574

「ECM: 沈黙の次に美しい音」展(ソウル・速報版)
ECM Exhibition in Seoul
Think Your Ears as Your Eyes 
ARA Art Center, Insa-dong, Seoul
2013年8月31日〜2013年11月3日 ARAアートセンター、ソウル 仁寺洞
Reported & photographed by 神野秀雄

        

そうだ!ソウルへ行こう!

秋になると不思議に京都や東北へ出かけたくなるものだが、ソウル行き航空券も曜日・時間によっては往復2万円くらいからあって、羽田をはじめ日本中の空港から約2時間となれば、海外旅行というより、普通のお出かけの範疇に入る。日帰りも可能。西日本からなら高速船「ビートル」と韓国版新幹線KTXを乗り継いで気軽に行ける。金浦空港・仁川空港・ソウル駅から会場までは電車でも行ける。
ドイツ・ミュンヘン郊外にオフィスを置き、マンフレート・アイヒャーのプロデュースのもと、新しい音を生み出し音楽界に影響を与え続けるジャズとクラシックのレーベルECM(Edition of Contemporary Music)をヴィジュアルに紹介する展覧会がソウルで11月3日まで開催されている。コンサートやイベントも随時行われている。
先述のように物理的・経済的な敷居が相当に低いと認識して頂いた上で、ECMファンのあなた、ECMにかつて夢中だったあなた、ECMを少しは知ってるけど、まあ韓国料理もいいよねのあなた、は、11月3日までにソウルに行く価値があると思うだろうか?
今回ネタバレを避けつつ、速報版をお届けするのは、その判断の材料を提供するためだ。いや、もっと大事な使命は、ネットで的確な情報にリーチするのが難しいため、開催概要をお知らせすることだ。このイベントに限らず日本でも非常に多いケースで、ウェブがスタイリッシュな割に場所がさっぱりわからない。下記の情報を見つけるのに本当に時間がかかった。これがわかれば半分行けたようなもの。

ECM Exhibition in Seoul: Think Your Ears as Your Eyes 
ARA Art Center, Insa-dong, Seoul
85-24 Gyeonji-dong, Jongno-gu, Seoul, Korea TEL. +82-2-733-1981
Nrear
August 31 - November 3, 2013
10:00-20:00 Mon-Thu, 10:00-19:00 Fri-Sun
Admission: Adult W12,000 High school and university student: W10,000 Child W5,000

ECM: 沈黙の次に美しい音 展 
会場:ARAアートセンター、ソウル 仁寺洞(インサドン)
   ソウル特別市鍾路区堅志洞 (チョンノク ジョンジドン)85-24
電話:+82-2-733-1981
期間:2013年8月31日〜2013年11月3日
時間:10:00〜20:00(月〜木)、10:00〜19:00(金〜日)
入場料:一般12,000ウォン、中高大学生10,000ウォン、子供6,000ウォン(5歳以上)
行き方:地下鉄3号線 安国(アングク)駅下車 6番出口を出て、景福宮(キョンボックン)方面へ100mぐらい進み、左へ曲がると仁寺洞(インサドン)の賑やかな店の多い通りに入る。仁寺洞を200mほど進むと道の右側に「仁寺洞11なんとか」と表示がある路地を曲がり100mくらいで、ECMの大きな垂れ幕が下がった半透明のガラスでできた大きめのビルが見つかるはず。ご到着おめでとう!
※この案内は完全保証できかねるので、住所からGoogle Map でも使えばベターだ。


行ってみるまで、ソウル展は、ミュンヘンにおける展覧会「ECM - Cultural Archaeology」の焼き直しと思っていた。しかしその実態は9層ある建物の地下4層分ものボリュームを持つ、全くのオリジナルであった。韓国語と英語の併記も一部あるが、韓国語解説しかない部分も多いものの、ヴィジュアルが多いので十分に感じ取ることはできると思う。初日にマンフレートと会場でばったり会い、「ミュンヘン展のコピーを想像してきましたが、違うオリジナルのものなのですね。」と話しかけると「そう、違うものだよ」と控えめに嬉しそうな顔で応えていたので、ソウル展の展示内容には好感をもって受け止めているようだ。
驚くべき事実はレコード・ジャケットにはあまり重きを置いていない点である。われわれ日本のECMファンならその関心の半分は当時画期的だったジャケット・デザインにあるし、それはCDジャケットでは少し物足りない。ミュンヘンのECM展では300枚以上のレコード・ジャケットが展示されていた。しかしECMブームとしては後発となった韓国は必ずしもレコード時代を経由していない。それは、レコード・ファンから見て、蝋管蓄音機やピアノロールにこだわる人間のように滑稽なことかもしれない。展覧会での試聴用音源はmp3プレーヤーでアルバムを超えて管理されている。たとえば、キース・ジャレット・コーナーでも、曲順は時系列ではなくアルファベット順だ。これは意外に不快でもなく、アルバム名を意識せずに覚えている曲順から記憶を甦らせるのは楽しかった。
他方、全体にアーチスト写真や録音風景などヴィジュアルは充実しているので飽きさせることはない。ミュンヘン展ではアーチスティックな映像としてのミュージシャンの写真が多かったが、ソウル展では録音時のセッティングが分かりやすい写真などもあるし、ECMミュージシャンたちのツアーポスターなどもミュンヘン展にはなく興味深い。また動画作品にもスペースを大きく割いており、特別に用意された空間の中で、映像作品を見るのも貴重な経験となるだろう。
なお、「オリジナルのお宝はあまりない」という点はお知らせしておこう。ミュンヘン展では、遺産そのものとなるマスターテープのほとんどが展示されていてその存在の重さに心が押しつぶされるほど感動したし、ひとつのアルバムに対しバーバラ・ウォルシュの複数の原画の比較があり、自分がジャケットを選ぶような感覚が楽しかった。ソウル展では、『ヤン・ガルバレク/ドレスデン』のジャケットのオリジナルとなる大きな作品を見ることができたが。
結論として言わせて頂けば、もしもあなたがECMに出会って、人生なり感性なりがちょっと変わってしまったという方なら行っておいて損はないと思う。わずか1日千円で広大なECMテーマパークで1日中遊ぶなり、遠く感慨に浸るなり、今後、ミュンヘンでもソウルでもすぐには再開催されることはないだろうし。そんなECM空間が2ヵ月常設で存在していることが奇跡だ。
ECMを創設以来支えてきた日本ではなく韓国でECM 展が開催されたことにわだかまりを感じる方も少なくないだろうし、韓国語の展示ということで敬遠する向きもあるだろう。私にはその微妙な感覚のずれがむしろ楽しい。日本と韓国はパラレルワールドだと思っている。何かと違いが目につき、気に障るのはあまりに近すぎるからだ。「ECM」というお題で韓国が何を見せてくれるのか。もしも展示に微妙な違和感を感じるポイントがあったら、それは不快なことではなく、違う切り口だし、むしろ自分がECMに関して大切にしていたことを知るよい機会になる。ハングルの海の中に表現されるECM。酔いや目眩も感じながらも心地よい気分で過ごすことができた。
9月6日には、ソウル・アーツ・センター(SAC)でのノーマ・ウィンストン・トリオのコンサートにかけつけた。SACはソウル中心部からは遠く森の入口にある。開演時間が迫っているのに地下鉄の駅を降りて道が分からなくなってしまった。通りがかりの青年に話しかけると英語が通じないのに、身振りでついてこいと一所懸命案内してくれて公演に間に合った。90°違う方向に進んでいてそのままでは永遠に着かなかった。宿では学生時代から世話になっているオモニ(お母さん)が心をこめて朝食を作ってくれる。ここにきてこれまで以上に反日・嫌韓が語られることが多いが、そういう韓国人個人の心からの親切と優しさに出会い支えてもらうたびに素直に嬉しくなる。
もしも韓国がECMと、日本にはできなかった関係を築けるなら、反感を持つのではなく、応援していきたい。現実にミュージシャンの招聘などに日韓が力を合わせるメリットは十分にある。今回のECM展開催の背景、マンフレート・アイヒャーによる音楽鑑賞会、コンサートについては次の機会にご紹介させて頂きたい。ぜひ、この機会にソウルを訪れることをお勧めしたい。いや、美味しいものを食べにでも秋の韓国へ。いや、少なくともソウル行きを検討することをお勧めしよう。


【JT関連リンク】
http://www.jazztokyo.com/live_report/report506ex.html

【関連リンク】
ARAアートセンター
http://araart.co.kr
ECM Exhibition公式ウェブサイト
http://ecmfestival.kr/exhibit

















8月31日 マンフレート・アイヒャー解説によるECM鑑賞会


9月6日 ノーマ・ウィンストン&クラウス・ゲーシング
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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
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#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
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#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

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#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
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オスロに学ぶ
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