Live Report #577 |
ボブ・ジェームス&デヴィッド・サンボーン featuring スティーヴ・ガッド&ジェームス・ジーナス |
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Bob James(p) |
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『ダブル・ヴィジョン』から26年を経て再結集したスーパーバンド
1986年にボブ・ジェームスとデヴィッド・サンボーンが共演、ミリオンセラーとなりグラミーを受賞した『ダブル・ヴィジョン』から26 年を経て録音されたのが新作の『クァルテット・ヒューマン』。26年がどれくらいの距離感かと言えば、大学生から見ると生まれる前くらい遠い。フュージョンとバップくらいの距離だ。そして約25年というのは一区切りを感じたり取り組んだりしたくなる長さなのかも知れない。
あらためて、『ダブル・ヴィジョン』を聴く。アメリカのジャズ専門FM局でよくかかりそうな、よくできた典型的なスムースジャズということになるのだろうけれど、サウンドはシンプルに見えて奥は深い。ボブ、デヴィッド、ジェームスにマーカス・ミラー(b)が参加し、ボブ・ジェームスの作編曲が冴え渡り、エレピ、キーボードが気持ちいい。そして作曲も含めマーカス・ミラーの存在が大きいことがわかる。今回の公演では、マーカス・ミラー作曲の<Maputo>を。東京JAZZでは加えて<More Than Friends>も演奏されていた。いずれも素晴らしい演奏となった。
今回のバンドにはウッドベースにジェームス・ジーナスを起用している。日本では小曽根真ザ・トリオの印象が強いが、ブレッカーブラザーズなどでのエレクトリックベースは凄く、またウッドベースの名手でもあり、その両方を兼ね備えており、最適任と言えるだろう。
2013年5月21日にリリースされた『クァルテット・ヒューマン』はアンプラグドで構想され、デイヴ・ブルーベックに捧げられ、ポール・デスモントとのカルテットを意識する形で企画制作されていたが、その録音中にデイヴの訃報が入った。このため、ボブがデイヴを研究して、ピアノにはデイヴ的な現代音楽や民族音楽も取り入れたようなフレーズやハーモニーを披露している。とくにイントロなどでその傾向を強く見せていた。
一方、デヴィッド・サンボーンのアルトサックスの音質が大きく異なっていたことに驚かされた。おなじみの倍音域を多く含む音を想像していたが、ブルーノート東京では高音域が抑えられていた。それだけならPAの違いの可能性もあるが、デヴィッドはフラジオ(サックスの音域外の高音をハーモニックスを駆使して出す奏法)での極端なフレーズ使いも避けていた。今回のアルバムが、デイヴ・ブルーベック&ポール・デスモントを意識したためと推測される。その落ち着いた音に魅了される一方、ちょっと残念な気もした。国際フォーラム・ホールAでの東京JAZZでは、やはりフェスティバルで聴こえるようなおなじみの音質とフレージングだった。デヴィッドの奏法はもともと広い会場で、賑やかなロック、ファンクのバンドでも、サックスの音が確実に遠くへ届くというメリットが背景にあるので理にかなっている。
東京JAZZでは、ボビー・マクファーリンが欠場した時間帯にも、ボブ・ジェームス&デヴィッド・サンボーン・バンドが出演したため、結局このバンドを3回聴く機会を得た。うち1回は、ラリー・カールトンが参加した。そうして、比較するとブルーノート東京での抑えめの表現もしっくりくると分かるようになった。他の海外での公演も調べてみると、会場によって、ジャズクラブ的な音と、フェスティバル的な音を使い分けているようだ。
何よりもこのバンドの素晴らしさの半分は、スティーブとジェームスのサポートによる。スティーブのドラミングは、決して派手で大げさではなく、淡々と基本を叩き出しながら、しなやかで豊かな表現力で巧みに曲の表情を変化させていく。ジェームスのベースラインもさりげなく力強くバンド全体をサポートして行く。
中堅の域のジェームスを別格として、ボブ、デヴィッド、スティーブと長いキャリアを経て、豊かな表現力と真似ができないオリジナリティで最前線を走り続けているのが嬉しい。スティーブは、自身のバンド、ウィル・リーのバンドを含め短期間に3回来日する。彼らの変わらない、いや変わって行く活躍をこれからも楽しみにして行きたい。
* 関連リンク
http://www.jazztokyo.com/live_report/report581.html
【JT関連リンク】
http://www.jazztokyo.com/five/five1027.html
【関連リンク】
ボブ・ジェームス 公式ウェブセット
http://www.bobjames.com
デヴィッド・サンボーン 公式ウェブサイト
http://www.davidsanborn.com
スティーブ・ガッド 公式ウェブサイト
http://www.drstevegadd.com
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
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「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
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#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
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#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
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オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
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#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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