Concert Report #579

日本フィルハーモニー交響楽団 第653回 東京定期演奏会
生誕200年記念オール・ワーグナー・プログラム
2013年9月7日(金) サントリーホール
Reported by 藤堂 清
Photos by 林 喜代種

作曲:R.ワーグナー
曲目:ジークフリート牧歌
楽劇《トリスタンとイゾルデ》より前奏曲と愛の死*
楽劇《ワルキューレ》より第1幕*、**、***
指揮:ピエタリ・インキネン(首席客演指揮者)
ソプラノ:エディス・ハーラー*
テノール:サイモン・オニール**
バス:マーティン・スネル***
オーケストラ:日本フィルハーモニー交響楽団
        

 2013年は二人のオペラの巨人、R.ワーグナーとG.ヴェルディの生誕200年の記念の年にあたる。世界各地で記念コンサートが行われ、インターネットやテレビで見たり聴いたりできた。このコンサートもその一つといえるだろう。

 結論からいえば大変充実したコンサートであった。
 1980年フィンランド生まれの若い指揮者、インキネンの音楽は繊細で、細部まで目配りが利いたもの。前半のオーケストラだけの部分での弦楽器と管楽器のバランスのとりかたなど、オーケストラの能力を最大限ひきだし、美しい響きを生み出していた。
「愛の死」の部分では、エディス・ハーラー(プログラムの表記に従っておく)の、イゾルデとしては細めの声に配慮、音量を抑えめにコントロールし、声の美しさを浮き立たせていた。ハーラーも、2008年に新国でアガーテを歌ったときに較べると声自体も成熟し、安定感が感じられた。

 後半は歌手3人だけで上演できる《ワルキューレ》第1幕。ジークリンデは前半から登場していたエディス・ハーラー、彼女はバイロイトの舞台でもこの役を歌っている。
相手役のジークムントは、バイロイトのパルジファルであったサイモン・オニール。フンディングのマーティン・スネルも比較的小さな役ではあるがバイロイトの常連。オニールの、明るい響きでありながら厚みのある声は、この役にピッタリ。他の二人に自らの出自やここにいたるまでのいきさつを語る部分では、もう少し陰があってもという気はしたが、十分に満足できる歌であった。
 彼と対峙するスネル、声だけを取り上げれば少し弱いように思えたが、ポイントとなる言葉を強調することで、しっかり役を果たしていた。翌朝の対決を約束した後で、武器を持たないジークムントをあざけるところなど見事であった。
 そういった二人の充実以上に、ハーラーのジークリンデが素晴らしかった。家の中で倒れているジークムントを発見しての第一声の美しい響き。フンディングの登場から三人の場面での本心を隠すかのような表情。そして終盤の愛の歌での、解き放たれた熱い気持ちの表現。

 インキネンの指揮は、音色の変化を中心に彼らの歌をしっかりと支えていた。ワグネリアンであれば「もっとダイナミックレンジが欲しい」といった気持ちになるのかもしれないが、私はこういった繊細さを表に出すワーグナー演奏、面白く感じた。日本フィルがそういった彼の方向性にしっかり応えていたことも評価できる。

 このコンサート、6,7日と続いて行われたのだが、歌手にとっては二日続き、しかも二日目はマチネーということで、体力的にたいへんだっただろう。そういった状況を感じさせない彼らの力にも敬意を表したい。
 なによりも、「ピエタリ・インキネンという指揮者に注目!」というのが、今回の最大の収穫であった。

   まったくの余談だが、同じ6,7日に新日本フィルが《ワルキューレ》第1幕をコンサートの曲目としていた。さらに、14,15日には神奈川県民ホールで、二期会の歌手による全曲の公演が行われる。東京は「ワルキューレ」週間。ワグネリアンの方には忙しい一週間だったろう。

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.