Concert Report #580

第12回 東京JAZZ
The Premium Gala+Jazz Beyond
2013年9月7日(土)13:00〜 国際フォーラム HALL A
Reported by 稲岡邦弥
Photos by (c)Reiko Oka(*) (c)Hideo Nakajima(**)

The Premium Gala
1.マット・ダスク with special guest 八代亜紀
2.マヌ・カッチェ・ユニット
3.トニー・ベネット with カルテット

Jazz Beyond
1.大江千里 サタデイ・ナイト・オーケストラ with special guest マット・ダスク&シーラ・ジョーダン
2.リー・コニッツ・カルテット
3.ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ featuring オマーラ・ポルトゥオンド         

午後の部と夜の部、90分ほどのインターミッションをおいて各3グループずつ6グループを聴いた。さすがにやや疲労感を覚えたが、近年になく充実した手応えを感じた。その大きな要因のひとつはシニア・アーチストの活躍である。観客の高齢化に対応した企画か偶然の結果かは定かではないが、80才以上のシニア・アーチストが4人も登場し、それぞれが“至芸”と呼ぶにふさわしい演奏を披露、聴衆に大きな感動を与え、また、音楽を聴く喜びを再認識させることに成功したのだ。これは高齢者に限らず、老若男女を通じて等しくいえることだったのだが。シニア・アーチストとは、まず、午後の部『ザ・プレミアム・ガラ』の最後に登場したトニー・ベネットで当年とって87才、次いで、夜の部『ジャズ・ビヨンド』の「大江千里サタデイ・ナイト・オーケストラ」にゲスト参加した84才のシーラ・ジョーダン。シーラの登場はまったく予告されていなかっただけに文字通りビッグ・サプライズだった。「リー・コニッツ・カルテット」の御大リー・コニッツは85才。夜間の部のトリを務めた「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」のフィーチャリング・アーチスト、オマーラ・ポルトゥオンドは82才。「ソシアル・クラブ」はもともと長寿バンドなのでオマーラの他に80才を超えたシニア・アーチストが何人か存在するに違いない。因に、コニッツ以外の3人は皆ヴォーカリスト。ところが、この4人のシニア・アーチストを超える最長寿者に会場で出会ったのだ。ジャズ評論界の最長老、瀬川昌久先生である。87才のトニー・ベネットの至芸を礼賛し合っていたのだが、気が付いてみると先生は1924年生まれの89才!ジャズに限らず、映画、ミュージカルなど多方面で現役として活躍しておられる。どうやら音楽は長寿を保つ秘薬のようである...。


The Premium Gala
1.マット・ダスク with special guest 八代亜紀

マット・ダスクは1978年カナダ・トロントの生まれ。「21世紀のフランク・シナトラ」と称され、チェット・ベイカーの歌とラッパをこよなく愛するという。チェットの代表作で知られる<マイ・ファニー・ヴァレンタイン>をトランペットと合わせたが、体躯の割には恵まれた声量とパワーで独自の世界を描く。ところが、トランペットが一本気で、その上この日のPAオペレータがことさらソロを立てるため、情緒を味わうという類いの雰囲気にはならない。歌に合わせ広いステージを上下(かみしも)に軽やかなステップで動くさまは見事に決まっており、ショーではことさら映えるに違いない。6曲目の<スウェイ>(ボレロの<キエンセラ>で知られる)、マットがリードしたあと、八代亜紀が真紅のドレスで登場、歌い継ぐ。ふたりでダンスを披露したあと、八代が<雨の慕情>をボサノバで歌う。<帰ってくれて嬉しいわ>。NYのバードランドで実現したというヘレン・メリルとのデュエット、日米ハスキー・ヴォイスの共演をここでも聴きたいと思った。マットの実力は最後の<マイ・ウェイ>で存分に堪能することができた。

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2.マヌ・カッチェ・ユニット

きっちり作り上げられたショー・スタイルの(自由なソロがあったとはいえ)マット・ダスコのステージのあと、マヌ・カッチェの大きなグルーヴとしなやかなリズムにどれほど解放感を味わったことか!スティングやピーター・ゲイブリエルらトップ・アーチストとの仕事を経てもマヌの本質は変わらない。リチャード・ボナ(el-b) にも共通するアフリカ系ミュージシャンに特有の悠久の大地と交信する心地よさである。カリフォルニア生まれながらアフリカ音楽にも共感を示すカイル・イーストウッド(クリント・イースウッド監督の子息)のベース・ギターもマヌのグルーヴと相性が良い。実力派で知られるベルギー出身のピアニスト、エリック・レニーニとイタリア出身のサックス奏者、ステファノ・ディ・バティスタがその弾力あるグルーヴに乗って思う存分翔けめぐる。ワールド・ミュージック風味に溢れたジャズ系フュージョンが心の凝りを真からほぐしてくれた。

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3.トニー・ベネット with カルテット

トニー・ベネットがこれほど日本で人気があったとは...。とくに若い人たちに。
マット・ダスクが自己紹介で「僕はいわゆるクルーナーというタイプの歌手で、クルーナーにはフランク・シナトラ、ナット・キング・コール、それからトニー・ベネット」とトニーの名前を出したところで、わっと拍手が起き、マヌのステージが終わり、場内アナウンスが「次のトニー・ベネットのステージは...」とコメントすると、また、わぉーと歓声が上がる。グラミー賞に輝いた『デュエッツ』では、たしかにレディ・ガガや、マライア・キャリー、ノラ・ジョーンズなどとも共演はしているのだが。とにかくアイドル歌手のように一挙手一投足に歓声が上がる。ブレイクで一回転でもしようものなら大歓声だ。リズムのある曲ではすかさず手拍子が付く。トニーも熱い声援に元気一杯のステージで応える。声に昔日の張りや艶が充分あるわけではない。しかしそのマイナスを語り口でカバーする。愛や恋を恋人に語りかける。時に優しく、時に激しく。その声音がじつにリアルで真に迫る。声が滑らかさを欠いていたり、伸びが足らずにエンディングで音程が揺れる場面もあった。しかし、そういうマイナスをリバーヴなどでカバーしなかったのが良かった。まさに生身のトニーを実感したからだ。イントロやバースの頭で拍手をするお客さんも多かったところをみると、年季の入ったトニー・ベネット・ファンも多かったようだ。5000人の大ホールとはいえ、トニーも敏感に雰囲気を感じとっていたに違いない。
前回の来日時にPAを担当した録音エンジニアの及川公生氏によると、トニーは専用のマイクを携行しているという。ヴォーカリストの基本とはいえ心遣いにぬかりはない。
ところで、バックを務めるカルテットの要になっていたのがドラムのハロルド・ジョーンズ。60年代後期のカウント・ベイシー・オーケストラのドラマーで、派手さはないものの切れ味の良さが身上。この日もカルテットのアンカーとして若手3人をしっかり支えていた。トニーはといえばソロをとるミュージシャンの傍らに歩み寄り力を引き出すなど、ミュージシャンの引き立て役にも余念がなかった。
<ウォッチ・ホワット・ハップンズ>から、<イン・ナ・メロウ・トーン>(ギターのグレイ・サージェントがソロで<スキヤキ・ソング>のメロディを挟むなどサービス)、お約束の<思い出のサンフランシスコ>を経て、<スマイル>、<フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン>まで全22曲、まったく疲れも見せずにエネルギッシュに、音楽性とショーマンシップを兼ね備えたこれぞ真のエンターテイナーの“至芸”を楽しませてもらった。いや、楽しんだだけではない。告白すると、知らず知らず目頭が熱くなっていたのだ。馬齢を重ねた今、滅多にあることではない。

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Jazz Beyond
1.大江千里 サタデイ・ナイト・オーケストラ with special guest マット・ダスク&シーラ・ジョーダン

Jポップや演歌系で成功した歌手がジャジーなアレンジやジャズ・バンドをバックに持ち歌をカバーしたアルバムを制作することはままあるケースである。そして発売記念ライヴと称してジャズクラブを中心にいくつかのライヴをこなす。
しかし、大江千里の場合はまったくそれらとは異なるようだ。シンガーソングライターのキャリアをほとんど全うし、コンポーザー/ピアニストとしての展望を見据えてみると、その表現形態、表現手段はジャズをおいて他になかった、ということのようだ。とはいえ、Jポップの世界で成功を収めた者がジャズの世界で生きていこうと決断するには、それ相応の勇気を必要とする。そして、大江はその道を選んだ。経過については知らない。逡巡した挙げ句か敢然と立ち向かったか。しかし、このオーケストラの音を聴く限り、吹っ切れていることがよく分かる。ジャズを信じジャズを表現手段として選んだことにまったく迷いはみられない。新作の『スプーキー・ホテル』と題された一種のコンセプト・アルバムからの曲が並べられた。この架空の“幽霊ホテル”に出入りする客の個性を想定して曲が作られているがどれも新鮮である。本人が力説するほどおどろおどろしさはなく、むしろ多くが爽やかでさえある。もともとメロディ・センスに恵まれている人だから曲想が豊かで狭小なナショナリティは一切感じられない。だからこそ、あのシーラ・ジョーダンにもすんなり受け入れてもらえたのだろう。<インテレクチュアル・ラヴァー>、まさにシーラそのものだ。シーラといえば、昨年、NEAジャズ・マスターに選出されたばかり、今や大御所的存在である。そんなシーラに電話をかけて、参加を依頼する。シーラを必要としたからだ。NYから駆け付けたシーラを1曲で退場させるわけはなく、前日誕生日を迎えた大江をオリジナルのブルースで祝い上げた。シーラのこんなドラマチックなパフォーマンスに接したことはなく、大江の功績大である。バンドのメンバーにとくに名の知れたミュージシャンは見当たらない。彼らを使って大江の書きたい絵を描きたかったのだろう。今後、大江がジャズとどのような折り合いを付けていくのか楽しみである。

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2.リー・コニッツ・カルテット

じつは、この日、一番楽しみにしていたのがリー・コニッツである。ケニー・ウィーラーの名義になっているECMの『エンジェル・ソング』は、ゴダールがアートワークを手掛けた『ライヴ・アット・バードランド』と共にECMの全カタログのなかで最も好きなアルバムの1枚である。他のレーベルからリリースされている最近のアルバムもどれも良い。
コニッツをひと言で表すなら“joker”である。“joker”を辞書で当たってみると、冗談好きな人、という一般的な意味の他に、利口ぶった野郎、カムフラージュ条項、策略、遂行を難しくするもの、などとあり、どれもコニッツに当たらずといえども遠からず、と思えてくる。だから、彼のトークもパフォーマンスの重要な一部なのだが、この日はスタッフが駆け付けて手渡すまでトーク・マイクに気が付かず地声でしゃべっていた。辛うじて聞き取れたのは、「さっき、トニー(ベネット)に会った。彼もトシだけど僕の方が年上なんだ。(実際は、トニーが87才で、コニッツは85才)」「完璧にやるつもりだけど、やってみないと分からんさ。いつもスポンテイニアス(即時的)ではあるけどね」「(トニーに敬意を評して)<思い出のサンフランシスコ>から始めるつもりだけど」「じゃあ、またあとでね」。
「またあとでね」は、自分たちの世界に遊ぶから君たちとはまたあとで、という意か? <サンフランシスコ>を演るとは誰も想定していなかったが、1曲目は<星影のステラ>だった。あのコニッツの音が甦る。限られたダイナミック・レンジの中で、飄々と。昨年、旅先のシドニーで倒れ、高齢なだけに再起が懸念されたが体調は戻ったようだ。2曲目は誰しも<オール・ザ・シングス・ユー・アー>と聴いたが、実際はコード進行を借りた<シンギング>だった。コニッツの場合は、テーマをパラフレーズしたりメロディを変えることが多いので、原曲に通じていると楽しみが倍増するということだろう。残りのトリオは御大の演奏に合わせ、ダイナミズムに細心の注意を払いながら世界を形成していく。ひとりベースのトーマス・モーガンが大胆なリズム・フィギュアでカウンターを狙っていく。2曲目が終わったところで、スタッフがトーマスに駆け寄り首から下げたパスをひったくるように取り去っていく。クローズ・アップされたトーマスにパスが大きく映り込む絵づらを嫌ったのだろう。音楽以外には頓着しないトーマスらしい風景で面白いと思ったのだが。この絵づらを問題にするなら、シーラ・ジョーダンの垂乳根(たらちね)はどう処理するのだろう。演奏の方は一聴淡々と<ボディ・アンド・ソウル>から<ケリーズ・トランス>へ。腕時計を見ながら「じゃ、また来年ね」と言ってステージをあとにした。4曲!ジョークと思っていたが、客席の照明が明転して、インターミッションに入った。どの曲もCD化されているので、また明日にでも聴き直そう。

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3.ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ featuring オマーラ・ポルトゥオンド

2002年に味わったあの興奮と感動が鮮やかに甦った。イブライム・フェレール(オリジナル・メンバーの男声ヴォーカル。現存していたら86才)こそ欠いていたものの、フィーチャリング・シンガーのオマーラ・ポルトゥオンドはまだまだ元気一杯!
調布の東京スタジアム(現、味の素スタジアム)で開催された記念すべき第1回東京JAZZ。開催間際になって追加発表されたグループを見て驚いたものだ。ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブだったからだ。良く知られているように、ブエナ・ビスタはライ・クーダーの音頭でキューバのシニア・ミュージシャンを中心に結成され、1997年にアルバムを制作、グラミー賞を獲得。2年後にはヴィム・ベンダースによりドキュメンタリー映画が制作されその存在が全世界の知るところとなった話題のバンドだった。CDの発売と映画の公開から間もないこともあり、大勢のファンが詰めかけた東京スタジアムは文字通り興奮の坩堝と化した。
コンガ、ボンゴ、ティンパレス、カウベルなどさまざまなパーカッションが綾なす狂熱のリズムにブラスの迫力のあるオブリガートとソロ、哀愁味を帯びたギターとリュート、それにしても82才のオマーラの甘く艶のある美声は奇跡的ですらある。「マイ・ハズバンド!」と紹介してギターのパピ・オヴィエドを椅子からフロントに立たせて伴奏をさせ、ふたりでネイティヴなダンスまで披露する可愛らしさ。
オマーラに煽られてこの日も会場は大興奮、東京スタジアムの11年振りの再現となった。手拍子を打ち、踊り出す者も、最後はスタンディング・オベイションとなっていつまでもいつまでも別れを惜しむ拍手が止まなかった。

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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