Live Report #585

ハシャ・フォーラ
2013年9月22日 鎌倉・クラブ「ダフィネ」
Reported by 稲岡邦弥

ハシャ・フォーラ:
本宿宏明(fl, EWI)
池田里花(vln)
モーリシオ・アンドラージ(g)
ハファエル・フッシ(bass-g)
則武 諒(ds)

スペシャル・ゲスト:
ギラ・ジルカ

セット・リスト:
1st Set
True Pot (Baião)
Post Noodle (2種類のPartito Alto)
Garota de Ipanema with Geila (Afoxé)
Sakura Sakura with Geila (ECM Baião)
Solar (Baião)
PONTO (Xote)

2nd Set
Summertime (Xote)
Blue In Green (Slow Samba)
Seven Steps To Heaven (Afoxé)
Cardao de Ouro - Berimbau (Baião)
Wood Raw - (Samba)
Rind Well (Frevo)
Encore: Sus Div (Ballad)         

鎌倉駅を出て小町通りを歩く。日曜日の8時近くというのにまだそぞろ歩く観光客が多い。駅の近くまで来ながらまだ去りがたいのだろう。最後の余韻を楽しんでいるようだ。僕も鎌倉は久しぶり。自宅からバスや電車を乗り継いで1時間強、鎌倉はいつも気になってはいるのだが、そうそう足を運ぶチャンスはない。そんなわけで、今回の「ハシャ・フォーラ」の日本ツアーのお楽しみは鎌倉を選んだ。じつをいうと、駅から数分の良く知られたクラブ「ダフィネ」も初見参である。開演予定の数分前に着いたのだがすでに満席。リーダーに取材予定を入れてあったので何とかカウンター席を確保する。フロントにはまだ席を求めて数人が並んでいる。目の前のオープン・キッチンからいい匂いが立ちfる。「ダフィネ」は美味しい料理でも知られているのだ。
並びは下手(しもて)から、リーダーでフルートの本宿宏明、彼の斜め前にはEWIとMacが設置され、センターにヴァイオリンの池田里花、本当に小柄でお人形さんのよう、その奥にベースのハファエルが巨体を置き、上手(かみて)にギターのモーリシオ、その背後にドラムスの則武という布陣。アルバム同様バイヨンのリズムに乗せた<トゥルー・ポット>で演奏が始まったが、アルバムよりずいぶんレイドバックした印象だ。これは後々分かってきたことだが、レギュラーのバンデイロが抜け、ドラムスの則武に代わったことが一つの要因だろう。バンデイロがあのシャープな音色で突き上げるようなリズムを叩き出すとまさにそこはブラジリアンの世界。それと関西からスタートした今回のツアーがすでに多くのギグをこなし、バンドにすっかり余裕が出て来たこと。おまけに鎌倉は本宿の地元で親戚や知合いが大勢詰めかけていること。
マイルス・ファンとして嬉しかったのは、マイルスの曲を3曲も演奏してくれたこと。<ソーラー>に<ブルー・イン・グリーン>、<セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン>!本宿も大のマイルス・ファンで自室には何枚ものマイルスの写真を貼ってあるという。「ハシャ・フォーラ」のコンセプトは“ブラジリアンのリズムに乗ってジャズのインプロをすること”であるから、ジャズのスタンダードが何曲あってもおかしくはないのだが。それにしても、バイヨンやサンバ、アフォセなどブラジルのネイティヴなリズムで聴くマイルスもまた格別。
2曲を終えて登場したのが、何とギラ・ジルカ!人気急上昇中の女性ジャズ・ヴォーカリストだ。本宿とはバークリー時代の同期生とのことで、ボストンではアルトサックス奏者として研鑽を積んでいたとの秘話まで飛び出す。ボサノヴァを象徴する<イパネマの娘>をアフォシェのリズムで歌わせられ、<さくら さくら>はバイヨンで。ギラにとっては初体験だったろうが、そこは実力派、ソツなくこなし、大きな拍手を得た。<さくら さくら>では池田のヴァイオリンが殊の外なまめかしかった。<PONTO>では本宿のEWI(ウインド・シンセ)がフィーチャされたが、気にかかっていたシンセの嫌みはなくむしろ幽玄さえ醸し出し効果的だった。やはり相当使い込みすっかり手の内に入っているのだろう。モーリシオとハファエルが弾き出すネイティヴなブラジリアン・リズムが心地よく、身体がつねに宙に浮いているよう。彼らはメロディ演奏からパーカッショニストの役割までこなし、裏に表に変幻自在、ハファエルは<ビリンバウ>で強力なスラップまで聴かせた。サポートの則武もすっかりバンドに溶け込んでいるようだった。本宿はアンコールでサングラスを外し、素顔を晒した。詰めかけた親類・知己への彼なりの挨拶だろう。
冒頭に掲げたセット・リストにはリズムまで付けてもらった。耳慣れたスタンダードがリズムを変えることでまったく違った印象を与える。そのリズムの多くはブラジル音楽ファン以外には馴染みが薄いかも知れない。演奏された曲の多くは彼らのCDに収録されている。興味のあるファンはCDであたってみて欲しい。また、バークリー音大とニュー・イングランド音楽学院を同時に入学、同時に卒業、学院ではジョージ・ラッセルに学び卒業後もながらくアシスタントを務めたり、ジョージのリヴィング・タイム・オーケストラにも参加していたという快男児・本宿宏明の破天荒なキャリアについては本誌掲載のインタヴューがカバーしている。
本宿のアレンジとリーダーシップでまた来年も「ハシャ・フォーラ」を聴いてみたい。(稲岡邦弥)

関連リンク;
http://www.jazztokyo.com/interview/interview119.html
http://www.jazztokyo.com/five/five1018.html

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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
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#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
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#10 Contents
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・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
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第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


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「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

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#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
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#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
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#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

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