Concert Report #586

塩谷 哲 〜solo debut 20th Anniversary series〜〈Part U 〉
"Dialogue" ~special 3 duos~
2013年9月28日(土)17:30 東京・Bunkamura オーチャードホール
Reported by 神野秀雄 (Hideo Kanno)
Photo by 中村尚樹 (Naoki Nakamura)

        

塩谷 哲 (p)
上妻宏光 (津軽三味線)(AGA-SHIO)
小野リサ (vo, g)
佐藤竹善 (vo)(SALT&SUGAR)

AGA-SHIO
上妻宏光(津軽三味線) 塩谷 哲(p)
1. ラプソディー (作曲: 上妻宏光 / 編曲: 塩谷 哲)
2. 田原坂 (熊本県民謡 / 編曲: 塩谷 哲)
3. 風林火山 〜月冴ゆ夜〜 (作曲:千住 明)
4. 「3つのノクターン」〜三味線とピアノのための〜 (作編曲:塩谷 哲)
  T 木漏れ日の庭
  U 巡る思い
  V 花吹雪
5. Wonder (作曲:上妻宏光)

小野リサ(vo, g) & 塩谷 哲(p)
6. Palpite Infeliz (Noel Rosa)
7. Retrato em Bremco e Preto (黒と白のポートレイト) (Antonio Carlos Jobim / Chico Buarque)
8. Aqua de Beber (おいしい水) (Antonio Carlos Jobim / Vinicius de Moraes)
9. 窓 (作詩:岩崎宏美 作曲:塩谷哲)
10. ワインレッドの心 (作詞:井上陽水 作曲:玉置浩二)
11. Insensatez (How Insensitive) (Antonio Carlos Jobim / Vinicius de Moraes)
12. Summer Samba (Marcos Valle)

SALT & SUGAR
佐藤竹善(vo) & 塩谷 哲(p)
13. Diary (作詞 塩谷 哲 作曲 佐藤竹善)
14. ココロスタート (作詞 佐藤竹善 作曲 塩谷 哲)
15. Let Love Lead Me(作詞:CAT GRAY 作曲:塩谷哲)
16. マヤカシ慕情 Side by Side (We Go) (作詞曲:塩谷 哲)
17. Moon River (Henry Mancini) with 小野リサ
18. Come Together (John Lennon & Paul McCartney) with 上妻宏光
19. Heal Our Land (Jonathan Butler)
20. Superstition (Stevie Wonder)
21. Piano Man (Billy Joel)

塩谷 哲(p) 小曽根真(p) 佐藤竹善(vo) 小野リサ(vo) 上妻宏光(津軽三味線)
22. Samba de Uma Nota So (One Note Samba) (Antonio Carlos Jobim)

  塩谷 哲ピアノソロ
23. Life with You (塩谷 哲)


当時、ビルボード・ラテンチャート11週連続1位、国連平和賞受賞、グラミー賞ノミネートなどの偉業を成し遂げていたオルケスタ・デ・ラ・ルスのピアニストとして注目されてきた塩谷哲(しおのや・さとる)が、ファースト・アルバム『SALT』でソロデビューして20周年。その節目となる2013年には3つのスペシャル・コンサートが用意された。第1弾が、新作 『アロー・オブ・タイム』 をリリースしたSuper Salt Band。田中義人(g)、松原秀樹(b)、山木秀夫(ds)、大儀見元(perc) という特別な音楽仲間たちによるジャズクラブ公演。第3弾に11月30日、紀尾井ホールにてスペシャルッゲストに小曽根真を迎えたピアノデュオ。そして第2弾の今回は、3つのデュオを対比させるという企画。なお、年末には毎年恒例で開催されている「Saltish Night」が待っている。思えば、塩谷は、ソロピアノに重きをおき、山木秀夫(ds)、井上陽介(b)とのトリオを大切にしながら、デュオというフォーマットが多い。小曽根真(p)と、平野公崇(sax)と、今井美樹(vo)と、そして、今回演奏されたAGA-SHIO、SALT&SUGARは、長期的に準レギュラーの活動となっている。クラシックギターの村治佳織も何度か共演しており、今回も出演が予定されていたが、村治が長期療養のため活動休止となり、代わって、小野リサが出演することになった。

AGA-SHIOは、津軽三味線の上妻宏光 (あがつま・ひろみつ) とのデュオ・プロジェクト。上妻は茨城県生まれながら6歳から津軽三味線を始め、民謡からジャンルを越えて伝統楽器の新しい可能性を開拓している。2004年に上妻の希望で塩谷が 『上妻宏光/Beyond』 の1曲に参加。共演を重ねながら、2009年に 『AGA-SHIO』 をリリース。2010年にはヨーロッパ、アフリカ・ツアーを行っている。コンサートは、<ラプソディー>から始まる。さまざまな表情を見せる上妻の曲。続いて上妻が歌う<田原坂>(たばるざか)。千住明作曲による大河ドラマの音楽<風林火山〜月冴ゆ夜〜>では、陰からナレーションが入り、やがて声の主、「風林火山」ファンの佐藤竹善(さとうちくぜん)が満面の笑みで登場、会場は爆笑の渦となる。このセットのハイライトは、今回のために塩谷が書き下ろした<「3つのノクターン」〜三味線とピアノのための〜>。塩谷らしく美しい響きの中にさまざまな表情を見せる。この曲にも表れているが、AGA-SHIOが目指すのは伝統楽器で西洋音楽を演奏させることでもなく、二つの個性、日本の伝統音楽と欧米をベースにした音楽観を溶け合わせることでもなく、並行して共存する中で新しい響きとグルーヴが生まれることを意図している。激しさと静けさが強いコントラストを見せ、ときに別々に演奏しているように見えて、まったく新しい音楽が出現する。今後もそれぞれの活動を行いながら、インターバルをおきながら共演を続け、長期的に音楽の世界を拡張していくのが楽しみだ。

続いて小野リサがステージに登場。サンパウロ生まれで10歳までブラジルで過ごし、やがて、ボサノヴァの演奏を始め、アントニオ・カルロス・ジョビンらと共演する機会も得て、1990年代になってあらためて日本におけるボサノヴァを広めることになった。トム・ジョビンの名曲3曲を豊かな表現で聴かせる。ふんわりした存在感の中に浮かび上がる確かな音楽。J-popから<窓><ワインレッドの心(ポルトガル語バージョン)>を。これまでも世界の音楽をボサノヴァにのせて歌う「旅」を続けてきたが、最近では『Japao』、『Japao 2』をリリースしている。塩谷は、ギター1本とヴォーカルだけで小野の音楽が完成されていることを絶賛し、「もう何も足さなくて、ピアノを弾かずに聴いているだけでいい」と冗談めかして言っていた。翌日の9月29日「DENKA presents J-WAVE 25th ANNIVERSARY "OZ+3+1" SPECIAL LIVE @25th Blue Note Tokyo Anniversary」での小曽根真と小野リサの共演でも感じたことだが、小野との共演は、自由なインタープレイから音楽を組み立てケミストリーが起こるというよりは、小野のグルーヴに寄り添って支える形になり、前後のデュオとは違った趣を見せていた。<あこがれのリオデジャネイロ>という名曲を持っている塩谷だが、実はまだブラジルに行ったことがなく、いつかブラジルの大地と空気を感じて、さらにブラジリアン・ミュージックの世界を大きく拡げて行くことを期待したい。

最後を飾るのは「SALT & SUGAR」。佐藤竹善(vo)と塩谷哲(p)による、つまり砂糖と塩というネーミングのユニット。SING LIKE TALKINGで活動しソロ活動を始めた頃の佐藤竹善と、同じくソロ活動を始めた頃の塩谷が1995年から活動を開始した。1996年にライブアルバム『Concerts』をリリースするが、SALT&SUGAR名義で次のアルバムが出て、次のツアーを行うのは13年後の2009年。その間がなかったわけではなく、塩谷名義で年末恒例のコンサート「Saltish Night」、佐藤名義で主としてゴールデンウィークに行われる「Cross Your Fingers」のコアとしてコンスタントに共演し、着実に音楽を育ててきた。もはやプロジェクトというよりも、ふたりにとっての大切なホームとも呼べる場所になっている。
1曲目は、最初にリリースされたシングルから<Diary>。続いて2009年の<ココロスタート>へ。いずれも一方が作詞、他方が作曲という共同作業で作られている。塩谷は今回のコンサートに新曲を出そうと思ったができなかったけど、といいながら演奏した<マヤカシ慕情>は、私も大好きな素晴らしい曲<Side by Side (We Go)>にコミカルな歌詞をつけたもの。ふたりのトークがそのまま歌になったような歌詞で、塩谷も歌ってデュエットし、会場はまた爆笑に包まれる。もともとこのセット自体が半分はトークで音楽漫談のようでもある。
続いて、小野が参加し歌い上げる<Moon River>、上妻が参加し津軽三味線でのリフが新鮮なグルーヴを生む<Come Together>へ。
スティービー・ワンダーの<Superstition>は、Super Salt Bandのためのアレンジを受けて7/8拍子だが妙に心地よい。ビリー・ジョエルの<Piano Man>は、まさにこのデュオの真骨頂と呼べるもので、佐藤の伸びやかな声と、塩谷の表現力豊かなピアノが絶妙に絡みながら、素晴らしい音楽がオーチャードホールの巨大な空間を満たしていく。
最後に全員がステージに集まる。そのときシャンパンを持って小曽根真が登場。これ以上のサプライズはなく、驚愕し感動する塩谷。小曽根も連弾で参加して、ジョビンの<Samba de Uma Nota So>が演奏される。休憩なしで3時間に及ぶ公演。鳴り止まない拍手に、塩谷が一人で現れ、涙を流しながら、これまで本当に素晴らしい音楽仲間たちに恵まれて、ファンに支えられて、20年間ここまで音楽をやって来られたことに、深く感謝の気持ちを述べた。そしてソロピアノによる<Life with You>の優しいメロディーと美しい響きで静かに結ばれた。


【JT関連リンク】
塩谷 哲 Satoru Shionoya with Super Salt Band
http://www.jazztokyo.com/live_report/report532.html
塩谷 哲/アロー・オブ・タイム Satoru Shionoya / Arrow of Time
http://www.jazztokyo.com/five/five975.html
及川公生の聴きどころチェック163『塩谷 哲/アロー・オブ・タイム』
http://www.jazztokyo.com/column/oikawa/column_163.html
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2013 「パリ。至福の時」 #147小曽根 真&塩谷 哲 「パリ×ジャズ」
http://www.jazztokyo.com/live_report/report528.html

【関連リンク】
塩谷 哲 公式ウェブサイト
http://www.earth-beat.net
上妻宏光 公式ウェブサイト
http://agatsuma.tv
AGA-SHIO 公式ウェブサイト
http://www.aga-shio.com
AGA-SHIO 公式PV
http://youtu.be/sSxoVwEIVLU
小野リサ 公式ウェブサイト
http://onolisa.com
SING LIKE TALKING 公式ウェブサイト
http://singliketalking.jp
佐藤竹善ブログ「おくらの軍艦巻き」
http://plaza.rakuten.co.jp/okranogunkanmaki/


塩谷哲/アロー・オブ・タイム(ビクターエンターテインメント)

SALT & SUGER / Interactive (ユニバーサルミュージックUPCH1725)

SALT&SUGAR / Concerts U (ビクターエンターテインメント)

AGA-SHIO (エイベックスイオ)

小野リサ/Japao 2 (Dreamusic)

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