Concert Report #587

八代亜紀 シンフォニック・スペシャル・ナイト
2013年9月26日(木) すみだトリフォニーホール
Reported by 多田雅範 (Masanori Tada)
Photos by 三浦興一 写真提供:すみだトリフォニーホール

八代亜紀[歌]
竹本泰蔵[指揮]
新日本フィルハーモニー交響楽団[管弦楽]

スペシャル・グループ
有泉 一[ドラムス]
河上修[ベース]
香取良彦[ピアノ&ヴィブラフォン]
田辺充邦[ギター]
岡 淳[テナー&アルト・サックス、フルート、篠笛]


第1部《ジャズ・セッション》
1 フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン
2 サマータイム
3 ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー
4 別離(わかれ)
5 ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ
6 五木の子守唄〜いそしぎ
7 ジャニー・ギター

第2部 《八代亜紀 meets 新日本フィル》
1 雨の慕情
2 もう一度逢いたい
3 おんな港町
4 花束(ブーケ)
5 愛の終着駅
6 舟唄
7 愛を信じたい

アンコール:雨の慕情         

八代亜紀シンフォニック・スペシャル・ナイト!@トリフォニー。これは素晴らしい。度肝を抜かれた。この八代亜紀の新機軸、冒険は輝かしい勝利だ。演歌とクラシックの真のチャレンジ。

「光田健一(ピアノ、exスターダストレビュー)の書いた完全にクラシックなオーケストラ編曲」



「八代亜紀の演歌の呼吸」

の、止揚する音楽の緊張感と同時に解放の輝き。

ほとんど何の曲が始まるのかわからない完全にクラシックに構築されたイントロに続いて、八代亜紀の名曲がインしてくる。クラシックと演歌のそれぞれのグルーヴは合うわけないところ、それをだ、八代亜紀の、いわば“インプロヴァイザー的な本能”が、この重層を成立させてしまうのだから、そのテンション、歪むような力学、混沌を瞬時に光に変えていたとも形容できる。

それはもう、オペラチック!でさえあった。

国民的歌手、八代亜紀を国民一般的に享受してきた。札幌の高校生のときに、おふくろが八代亜紀のコンサートに行って来て、「アンタ八代亜紀はすごいよ、馬のような目をしてるんだ、あの目の大きさは馬だ、馬の目だ」としきりに話していたのだったから、一重まぶたのおふくろのコンプレックスを相当ストレートに突いたのであろうし、ちょいとあの世から逝去2年目のおふくろを呼び出して行く気になっていたのだ。

久々4ヶ月ぶりの錦糸町トリフォニーホール。ここのエスカレーターを上がる右手の東京スカイツリーはいつも美しく夢を与えてくれるし、そうだ東京スカイツリーから見下ろす街に、東京スカイツリーを見上げる街に住んでみたいのだった。あれれ?ついこないだの中秋の名月が半月になっている。

小学5年生の時にジュリー・ロンドンのレコードを聴いてジャズに出会い、シンガーになることを決意した八代亜紀。ジャズのスタンダードを歌った『夜のアルバム』は75ヶ国リリースで売れて、ヘレン・メリル82を担ぎ出してニューヨーク公演までして、そのライブ盤もリリースされる、それはそれで良い。さすがだ。誰かさんみたいに老いた声を重層加工して往年のヒット曲を美談とともに大ヒットさせてるのとはうんでーの何とやら。

『夜のアルバム』は小西康陽プロデュースの編曲技の数々が光るジャズフレイバのポップス名品だ。八代亜紀はフォーマットに即して丁寧に仕上げている。インプロヴァイザー的な本能は封印されている。

トリフォニーのホールにおいてジャズのドラムス・セットで風呂場のカラオケ状態でスイングする第一部は、ジャズバンドを従えての『夜のアルバム』再演、ニューヨーク「バードランド」公演ライブ盤発売を視野にしているけれど、クラシック・ホールでのサウンドは正直いくら上手でも耳が苦しい。途中で席を立ちたかったし、休憩になったら帰ろうと心に決めるまでになっていた。後半のオケの響きで1曲お付き合いしてみようかな、休憩時間待っているの辛い。どうせ生オーケストラをバックに往年のヒットパレードなんだぜ。あーあ、4500円現金さえあればおれは今夜東京文化会館で岩崎洵奈のピアノ・リサイタルに出かける選択をしたはず,,,。

しかし、9回裏2死3点差を満塁逆転ホームランのように八代亜紀シンフォニーナイト!にやられてきた。

人生、一寸先は光だ。

八代亜紀44さい、コンサートでは何回も念を押していたから真実なのだろう、今日のコンサートは緊張で眠れなかったくらいとチャーミングに笑う。「次の曲は何でしょう!」、光田健一の導入部のオーケストラ・サウンドは、まったく何の曲かわからない豪華さ、やはり頭でかい八代亜紀、獅子舞みたいだ、パット・メセニーも真っ青だ、八代亜紀の歌い出すタイミングの難しさ、クラシックのビートと演歌のこぶしのコンフリクトを乗り切る緊張感。

このドキドキは、CD化不可能だろう、リハーサルを繰り返して慣れて歩み寄ってしまえば前提が覆るのだ。でも聴きたい。ユニバーサルミュージックは、さらなる金鉱を掘り当てた。この初見参ライブをこそCDにすべきだ。編曲の、ベースの河上修、歌手の八代亜紀のインプロヴァイザー的な本能の真価をまた聴きたい。

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
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COLUMN
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