Concert Report #588

チョン・ミョンフン指揮
フランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団 日本公演
2013年9月30日(月) サントリーホール
Reported by 多田 雅範 (Masanori Tada)
Photos by 林 喜代種 (Kiyotane Hayashi)

ラヴェル : 組曲「マ・メール・ロワ」
ラヴェル : ピアノ協奏曲 ト長調
サン=サーンス : 交響曲第3番 ハ短調 「オルガン付」 op.78

ピアノ:アリス=紗良・オット
オルガン:クリストフ・アンリ         

「モノが違っていたフランスのオケ、反重力の指揮者チョン・ミョンフンの指揮だ!」

スポーツ新聞のタイトル風に書いてしまっているけれど、わたしはね、クリティークというのは3行で済んでしまうやり方なんでございます。

演奏前のオーケストラの音合わせからして、空から管弦楽が降ってくるようであった。これだけでわたしはお金を払う用意がある。2時間、自由自在に音あわせしててくれ。まったくうっとりものだ。

このオケで日本のゲンダイオンガクは無理なのだな、と、口をついて出た自分であったが、どういう耳の理路によるものかうまく説明はできない。無理なものは無理なのだ。したがって、マンフレート・アイヒャーの手がけたカタログに三善晃や黛敏郎が無いのは、聴こえていないものには手を出しようがなかったのだ。

フランスを代表するオーケストラと、チョン・ミョンフン指揮、で、ラヴェル。この組み合わせ。わたしはミョンフンの指揮を最近まで知らなかった。なんだこのスムースに空を切る曲線のスピードは。浮き上がる空間は。たまたま6月のNHK交響楽団ミョンフン指揮モーツァルトがNHK−BSで放送していたのを録画してあったのを観て、N響との合わなさと観客のダメさはさておいて、ミョンフンは恐るべき反重力の指揮者であることを察知した。従って、質量を持たないラヴェルの演奏。アリスのピアノは、不定形放射なドキドキ感が素敵のようで(リサイタルでは聴きたくないけど)、これが、実にマッチしていた。胸のすくようなリズミック・ブラボー。

フランス国立放送フィル。さすがだ。

BSプレミアム「NHK交響楽団のヨーロッパ公演2013ザルツブルク」で聴いたデュトワ指揮での武満や細川、さすがN響による日本のゲンダイオンガク、身体に息づいている。国家を背負っている。N響には歌舞伎の練り歩きの遺伝子があるんでないかい?そう、感じた。

それと同じ身体と背負いを感じた。

韓国のECMフェスでマンフレート・アイヒャーとチョン・ミョンフンが並んで笑顔で記者会見をしている写真におののいたのは、「反重力の指揮者」と断じた直後だった。

(おまけに、アンドラーシュ・シフとハインツ・ホリガーというクラシック界の掛け値なしのツートップとでECMフェスのトリの演奏会になだれ込んだというのだ!まさに新しい、歴史的なことが進行しているのだ)

サン=サーンスのオルガン付きは、ミョンフンが演りたかったのだろう。後半ハイライトの渾然一体バシャメシャ指揮棒決めの連続の切れがいいこと、これでブラボーにならなきゃどうかしている、いわば強制ブラボーな、身体に悪い麻薬のような、そんな曲。オルガンがどう鳴っているのか今イチわからない、のは、奏者のせいでもなさそうで、この曲、もっと違う場所で演奏されることを想定して作曲されていたんじゃない?と思う。もう聴かなくていい曲だけど。

ミョンフンの指揮は新世紀のものなのだ。これは特別な才能だ。世界のオザワを旧時代にしてしまうような、そういう反重力なクラシックのオーケストラやソリストのありようを、これからECMはリリースして世界を転覆してしまうのかもしれない。いちおうこの予言は世界初でコピーライトおれね。

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