Live Report #592

「SABU豊住芳三郎 Meets浦邊雅祥」
2013年10月6日(日) Duo at Sound Cafe dzumi吉祥寺
photos & reported by 望月由美

SABU豊住芳三郎(ds、Vln、二胡、その他)
浦邊雅祥(as、鎖、椅子、パイプ、その他)         

 きっちりとリズムをきざんでスイングするドラマーは沢山いる。しかし、音が美しくなければ、ときにそれは騒音になる。その点SABU豊住のたたくドラムは一音一音の粒立ちがよくて美しいから共演者に一層の自由をあたえ、フリーなインプロヴィゼーションが生まれる。
 ただ、残念なことにSABU豊住は根っからのコスモポリタン、気のおもむくままに世界を旅し日本に居る時間よりも海外生活の方が長いので、日本でのSABU豊住の演奏機会は極端に少ないのが現状である。寅さんではないが、そろそろ海外かな、と思っていた矢先、吉祥寺の「サウンド・カフェ・ズミ」でライヴが行われた。


SABU豊住芳三郎(ds)

 この夜のセットはSABU豊住と浦邊雅祥とのデュオ。二人は初顔合わせである。浦邊さんを聴かせていただくのはこの夜がはじめて。浦邊さんは小柄で落ちついた風情の方で、足は素足。演奏の途中で素足の理由がわかってくる。
 「インプロヴィゼーション 豊住芳三郎 Meets 浦邊雅祥 “DUO”」と銘打った演奏は休みなしで、およそ1時間15分、ノンストップの完全即興が繰りひろげられた。


SABU豊住芳三郎(vln) 浦邊雅祥(as)

 滑り出しはSABU豊住のヴァイオリン・ソロから始まる。この数日前、SABU豊住に電話をすると由美さん来るの!じゃあ、ヴァイオリン持ってっちゃおうかなぁとの話だったが、話は本当だった。昨年、台湾でヴァイオリンを見つけて買ってきて練習しているという話は以前から聞いていた。おそらく本邦初演ではないかと思うが、いきなりのヴァイオリン・ソロには驚いた。音の艶、スピードがあり二胡とは違った弦の響きと、なによりも艶かしさに魅きつけられる。ビリー・バングやリロイ・ジェンキンスなどとも違い、たったひとつの音、ワンノートを長く短く、速く遅くきしませ、さまざまな色を塗ってゆく。昔聴いたオーネットのヴァイオリンはいまひとつ心に響いて来なかったがSABU豊住の音は気持ちをゆったりとさせてくれる。僅か1年で自分の楽器にしてしまうのだからSABU豊住はまさしく音のミューズだ。


SABU豊住芳三郎(vln)

 長いヴァイオリン・ソロの途中から浦邊雅祥がアルトで入ってくる。浦邊は初めスースーと音にならない空気を擦る音を発してヴァイオリンにからみ、風速何メーターかの風きり音を吹く。その間SABU豊住はヴァイオリンとバスドラで応える。やがて浦邊は単音でブォー、ブォーと尺八のむら息のように空気を波立てる。アルトから出る単音にはいくつもの倍音がからみクールな熱気を帯びやがて絶叫に変わる。ヴァイオリンとアルトとのせめぎ合いがあくまでも冷静沈着なところが面白い。


浦邊雅祥(as)

 次にSABU豊住はヴァイオリンをマレットにもちかえる。乾いた皮の音が気持ちよく部屋を満たしてゆく。マレットとスティック、ブラシを煩雑に持ち替えSABUサウンドのショーケースが始まる。
 ドラムの醍醐味はスピード、フリーのドラムは4ビート以上にスピードが演奏の鍵をにぎることがしばしばあるが、この夜のSABU豊住のプレイはドラムもしかり、ヴァイオリンも二胡もスピード感に満ち溢れていて居合わせた客全員にジャズのグルーヴをふりまいてくれた。
 バスドラからわずか50センチという至近距離で聴くSABU豊住のサウンドは気持ちよく空間を、心を満たしてくれる。
 会場のサウンド・カフェ・ズミは東京・吉祥寺、中央線南口を降りて吉祥寺通りを5分ほど南へ、有名な焼き鳥や「いせや総本店」を越えて直ぐ先の右手のビルの7階、窓越しに井の頭恩賜公園の緑が目に優しい。階段を上って2階からエレベーターという凝った造りなので初めての方はご用心。オープンして7年、即興演奏、Free Jazzなどが専門のカフェ。15、6人程度のキャパでこぢんまりと落ちついたお店。店主の泉さんはCS放送ミュージックバードで永年「Free Music Archive at Sound Café dzumi」を担当しているフリージャズのオーソリティー、部屋にはフリーに関する書籍やアルバムが多数あり、SABUはその書棚と井の頭公園を背に叩いている。ノンマイク、完全アコースティックで聴くSABU豊住は格別に気持ちよい。
 大きなホール、規模の大きいライヴ・ハウスではドラムといえどPAの音がほとんどでPA次第では本人とは似ても似つかぬ爆音を聴かされることもしばしばであるが、ここ「ズミ」では狭い空間ながら大きな書架や満員のお客さんが音を程よく落ち着かせ自然な響きを保っている。ここでは楽器の音からミュージシャンの衣擦れの音までつぶさに聴こえ、身体にしみこんでくるからフリー・ミュージックなどのように微妙なニュアンスを味わうには格好のスペースである。「ズミ」は普段はレコード演奏であるが最近、生の演奏にも力を入れていてこの次の週の10月13日(日)にはトリスタン・ホンジンガー(cello)、11月22日(金)にはリューダス・モツクーナス(sax)などのライヴが予定されている。
 SABU豊住もこの空間が性にあったと見えて、あらゆるドラムスの手法を次々と繰り出し、自らの音を楽しんでいるようであった。


SABU豊住芳三郎(ds)

 ドラムのショーケースのあとSABU豊住は二胡を手にする。大事そうにケースから楽器を取り出す姿から最近、SABU豊住が二胡をメイン楽器としていることが伝わってくる。
 SABU豊住は、昔からメロディーとかリズムとかの敷居は取り払っているので弦が2本の二胡でも朗々とSABU MUSICを奏でる。この辺のSABU 豊住の音楽を言葉にするのは野暮で無用、ただただ、その自由な遊び心を共有するだけで充分である。


SABU豊住芳三郎(二胡)

 一方の浦邊はSABU豊住のバスドラから客席までの僅か50センチほどの隙間をゆっくりと踊りを踊るでもなく、音もなく静かに歩き回る。はだしの意味がここではじめて理解できた。
 そして椅子を持ち上げ、鎖を打ち鳴らす。懐かしいフリーの光景が浮かび上がる。しばし歩いた後、金属製の穴の開いたパイプを口にほおばり、息を吹き込みはじめる。ヒューヒューと云う音がSABU豊住と交わる。浦邊雅祥は以前、佐藤通弘(津軽三味線)や三上寛(vo)などと共演している人という程度の事しか知らなかったが横浜・白楽「Bitches Brew」では「7days・ソロ」など頻繁にソロやデュオで演奏しており、この10月29日にも「Bitches Brew」で演奏することを会場で貰ったチラシで知った。


浦邊雅祥(パイプ&椅子&鎖)

 SABU豊住は音の出るものは何でもたたき、音にしてしまう。時にはハイハット・スタンドを叩き、床を叩き、空を切り、ときには紙のシワからもリズムを作り出してしまう。この夜もズミの棚に置いてあったチラシを2枚、シュルシュルとこすり、見事な音空間を創り上げた。
 70年代の後半、阿部薫を最良のパートナーとしデュオを組んでいたSABU豊住と阿部薫にも似たストイックな姿勢で吹き、アクトを行う浦邊雅祥とのデュオは延々1時間15分とぎれることなく続いた。


SABU豊住芳三郎(ds)

 SABU豊住が快活にドラムのあらゆる技法を叩くのは久しぶりだ。屈託のないSABU豊住のパルスが浦邊にどういう作用をもたらしたのかは知る由もないがSABU豊住のフリーは底抜けに明るくて楽しい。この夜の「サウンド・カフェ・ズミ」はSABU豊住のハピーな音に満たされ、井の頭通りのそよ風も心なしか踊っているようだった。
 SABU豊住はこのあと10月15日には南米へと旅立ち、チリ、ブラジル、アルゼンチンなど南米諸国を旅するという。そして12月の中ごろ帰国し、来年の1月は上海、香港、北京、西安などを旅するという。フリーをやる人は世界中にいるからね!SABU豊住芳三郎のインプロの旅は果てしなく続く。(2013.10.14 望月由美)

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