Concert Report #594 |
スティーヴ・ガッド・バンド featuring マイケル・ランドウ、ラリー・ゴールディングス、ジミー・ジョンソン&ウォルト・ファウラー |
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スティーヴ・ガッドの「歌う」ドラムスに酔う
満席の観客の盛大な拍手で迎え入れられ、<The Windup>で幕を開ける。『キース・ジャレット/ビロンギング』(ECM1050)から。パット・メセニー・グループも好んで演奏していたが、両者に共通するオーネット・コールマン的な感性を離れ、ガッド流はラテンのリズムの中で原曲の躍動感はさらに高められている。
スティーヴは68歳を迎えたが、嬉しいことに、ボブ・ジェームス&デヴィッド・サンボーン・グループ、自己のグループ、ウィル・リーズ・ファミリーと、今年後半だけで続けて3度も来日してくれる。今回の来日はそのハイライトとなるもので、スティーヴ・ガッドのスタジオ録音としては25年ぶりとなる新作『ガッドの流儀』、原題『Gadditude』(BFM Jazz/ビデオアーツミュージック)の録音メンバーだ。現在のスティーヴ・ガッドの活躍の中では、ジェームス・テイラー・バンドが大きな位置を占めるが、そのバンド仲間から結成されたのが今回のスティーヴ・ガッド・バンド。最高のミュージシャンの歌をサポートしながら固い信頼で結ばれ、どこまでも息が合い素晴らしいアンサンブルで魅せる。
初日の10日第2部は、このメンバーにしてブルースの真髄を見せる<Who Knows Blues>へと続き、2日目の11日1部では、穏やかに歌うアブドゥーラ・イブラヒムの<The Mountain>へと続いた。第1部と第2部ではかなり曲目が違う。『ガッドの流儀』では、ラリー・ゴールディングスが<Ask Me><Cavaliero>を、マイケル・ランドウが<Who Knows Blues>と、魅力的な曲を持ち寄っているが、これらは1部か2部かどちらかでしか聴けない。CD収録曲から両セットで演奏されたのは<The Windup>の他には、全員の共作による<Green Foam>だった。10日第2部では、今年8月に亡くなったジョージ・デュークに捧げる形で<Duke’s Anthem>が演奏された。ウォルト・ファウラーの作曲らしい。
初日第2部を聴いた後、「<Country>をぜひ聴きたいのですが、明日以降は演奏する予定はありますか?」とスティーヴにきいたところ、「明日も来るの?」「ファースト?」「セカンド?」と真剣にきかれて、「君が来るならやるよ」くらいの勢いだった。そうなると気になってしまい結局、翌日11日第1部へ行ってしまった。自由席はもう売り切れていた。後から調べるとセットリストには<Country>が用意されていなかったが、<Oh Yeah>にあたる順番で、あ、そうそう<Country>をやらなきゃ、と演奏を始めた。『キース・ジャレット/マイ・ソング』(ECM1115)からの一曲。<The Windup>と同じく、ヤン・ガルバレク(ts)、パレ・ダニエルソン(b)、ヨン・クリステンセン(ds)のいわゆるヨーロピアン・カルテットまたはビロンギングがオリジナルだ。キース・ジャレットに名曲は多いものの、カヴァーしてもオリジナルを越えることは難しいが、ヨーロピアン・カルテットとは異なる形で、キースの魂を抽出し表現することに成功している。ガッドのブラシワークとマイケル・ランドウのギターのメロディーから始まる、よりスローなワルツ、ウォルト・ファウラーのフリューゲルホルンがサビを歌い上げる。全編にわたりカントリーの感覚に溢れ、ゆったりした時間が流れ、アメリカの大地が浮かんでくる。CDでも最も気になる曲だったが、ライヴで聴くことができてとても感動した。
ザ・クルセイダーズの演奏で知られる<Way Back Home>は両セットで演奏され、哀愁の漂うメロディーが心に沁みる。両セットの最後に向けて演奏されたのは、ジミ・ヘンドリックス&バディ・マイルスの演奏で知られる<Them Changes>で、満席の会場の盛り上がりが最高潮に達した。
ラリー・ゴールディングスは、ハモンドとYAMAHA MOTIFを弾いていた。マイケル・ランダウはシンプルな音を聴かせるもののエフェクターは幅広く使われていて職人的に最適な音を作り出していることが窺えた。ウォルト・ファウラーのフリューゲルホーンとトランペットがバンドの音にさらに暖かみを添える。ベースのジミー・ジャクソンは、ジェームス・テイラー・バンドのミュージック・ディレクターでもあるが、決して派手なプレイはしないのに、低音を確実に支えて、スティーヴともに強力なグルーヴを生み出しているのが印象的だった。
個人的には、スティーヴ・ガッドの音としては、スタッフは名曲のいくつかは知っているものの聴き込んだ方ではないのだが、『ステップス/スモーキン・イン・ザ・ピット』『チック・コリア/フレンズ』『チック・コリア/スリー・カルテッツ』などは聴き込む中でその音は体に沁みついている。ただ、その正確なリズムと巧み過ぎるテクニックにむしろ距離感を感じていたところもあった、ステップス・アヘッドでもピーター・アースキンの方に暖かみがあるなどと勝手に思ったりもした。
それから何十年も経て聴く、スティーヴのドラミングはテクニックが聴こえてくるのではなく、淡々と優しい音に包まれるようで、ドラムスから歌が聴こえてくるようだ。たくさんの一流の歌たちと向き合う中で、その一つ一つのスピリッツが宿ったのかも知れない。これまでもテクニックについて「神ドラマー」と呼ばれることはあったが、今回、音楽性全体に対して一つ先の世界に行ってしまっている、神がかっていると感じた。バンド全体も凄腕ミュージシャンによる優れた歌伴がそうであり、実際に彼らがジェームス・テイラーを支えるように、サウンドに常に大きく豊かな「間」が存在し、一貫した透明感がある。微妙な音色とわずかな音程のゆらぎから生まれる豊かな表現を生み出す。そして、アメリカの歌の根底にあるカントリーやブルースが浮かび上がる。
アルバムからさらにパワーアップして、最高の「歌」をしっかり聴かせてくれたこのバンドの次のアルバム、再度の来日があることをぜひ期待したい。
【JT関連リンク】
『スティーヴ・ガッド・バンド/ガッドの流儀』
http://www.jazztokyo.com/five/five1027.html
ボブ・ジェームス&デヴィッド・サンボーン featuring スティーヴ・ガッド&ジェームス・ジーナス
http://www.jazztokyo.com/live_report/report577.html
東京JAZZ What Music Can Do/Jazz Heritage
http://www.jazztokyo.com/live_report/report581.html
【関連リンク】
スティーヴ・ガッド公式ウェブサイト
http://www.drstevegadd.com
Pledge Music - Gadditude
http://www.pledgemusic.com/projects/stevegaddband/
Gadditude 公式YouTube
http://youtu.be/DUI8Scntink
ラリー・ゴールディングス公式ウェブサイト
http://www.larrygoldings.com
マイケル・ランドウ公式ウェブサイト
http://www.mikelandau.com
ウォルト・ファウラー公式ウェブサイト
http://waltfowler.com/
ジェームス・テイラー公式ウェブサイト
http://www.jamestaylor.com
スティーヴ・ガッド/ガッドの流儀 (BFM Jazz/ビデオアーツミュージック) |
ステップス/スモーキン・イン・ザ・ピット |
キース・ジャレット/マイ・ソング(ECM1115) |
キース・ジャレット/ビロンギング(ECM1050) |
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
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#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
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Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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