Live Report #596

Amsterdam Jazz Connection feat. Deborah J.Carter Live in Kaohsiung, TAIWAN
「アムステルダム・ジャズ・コネクション feat.デボラJ.カーター」ライヴ・イン 台湾・高雄市
2013年9月11日 20:00~22:30 Marsalis Bar
Photos and reported by Chao-Ping Chou(周 昭平)

セバスティアン・カプテイン(ds)
ヨースト・スワート(p)
マーク・ザンドヴェルト(bass-g)
デボラ・J. カーター(vo)         

素晴らしいヨーロッパの香りをたたえたホットなアメリカン・ビート

「アムステルダム・ジャズ・コネクション」(AJC)は、オランダ・アムステルダム出身のドラマー、セバスティアン・カプテインが率いるバンド。結成は、2011年。結成の年にベンジャミン・ハーマン(as)をフィーチャーしたアルバム『Live at Café Alto』を日本の55レコードからリリース、東京ジャズ・フェスティバルにも参加した。

そして、今年の9月、沖縄に移住したセバスティアンが再びリーダーに返り咲き、台湾と日本を巡るツアーを組織、11日間で7都市、延べ9回のギグとコンサートを実施した。編成は、ピアノ=ベース=ドラムスからなるトリオにオランダに移住したアメリカ生まれのシンガー、デボラ・J. カーターを加えたカルテット。ツアー初日がここ高雄市というわけだ。

セバスティアンとデボラにとって台湾北部のジャズ・ファンはすでにお馴染み。
ふたりはすでに台北国際ジャズ・フェスティバルに出演しているし、台湾のジャズ・ミュージシャンのレコーディングにも参加しているからだ。しかし、ピアニストのヨースト・スワートとベイシストのマーク・ザンドヴェルトとの台湾ツアーは初めてである。高雄市は台湾第2の都市だが、本格的なジャズ・グループの訪問は久し振りのことである。

ギグがあったのはマルサリス・バー。2008年の開店だが、活発な展開を続け今や高雄市では最高のジャズ・クラブとみなされている。近年では、アメリカのドラマー、アリ・ホーニングや、ノルウェーのピアノ・トリオ「イン・ザ・カントリー」、ジャズ・ピアノの名手ハロルド・ダンコなどが出演している。キャパは50席と小ぶりだが、ジャズには馴染み易く快適な場所と評判である。当日は多くのジャズ・ファンが詰めかけ、開演前には満席となった。

スタートは、ピアノ・トリオでセロニアス・モンクの<ベムシャ・スイング>からスタート。演奏は8分ほどだったが、ジャズ・ファンにはお馴染みの古典とも言えるスタンダードをインプロヴァイズする3者の高度なスキルを示すには格好のオープナーだった。ギグは総じてアメリカのジャズ・スタンダードで占められた。アメリカとヨーロッパの異なる文化の背景を持つ4者が国際都市アムステルダムで出会い、結成されたユニットだけに、今日のジャズのさまざまな諸相がひとつに解け合うさまが聴き取れとても興味深いものがあった。

シンガーのデボラはアメリカで生まれ、ハワイと日本で育った。ボストンのバークレー音大で作曲と編曲を学び、スペインを経由してオランダに居住するに至ったという経歴の持ち主。これらの紆余曲折に富んだキャリアで出会った音楽や文化が彼女の力強くディープなヴォーカルを形成している。当然、レパートリーも多様になるのだが、この日は過去の4枚のアルバムから<クライ・ミー・ア・リヴァー>など、良く知られた曲をピックアップしていた。この夜は多くのスキャットでも楽しませてくれた。

<サムシング><シングス・ウィ・セイド・トゥナイト>、ビートルズの<デイ・トリッパー>など、どの曲も彼女の最大の特徴である表現力の豊かさに圧倒された。演奏では3者の造り出す大きく、長いスペースが非常に効果的で、彼らの世界をより深く、広大なものにしていた。

最初のセットで歌ったのは他に、<ラウンド・ミッドナイト><モーニン><ベター・ザン・エニシング>。それぞれ、50年代、60年代、70年代を象徴する楽曲で、ラテン、ブルース、ジャズを包含した彼女の素晴らしいヴォーカルに酔いしれた。ピアノとのデュエットで良し、トリオをバックにしても良し、彼女の巧みなコントロールには文句無しに舌を巻いた。

セカンド・セットで驚いたのはデボラが<ハム・ドラム・ブルース>を歌ったこと。この曲は伝説的なシンガー、シーラ・ジョーダンが1962年に歌ったユニークな楽曲。デボラはダイナミックにかつ自分のスタイルを交えてこの歌をものにしていた。次いで、ナット・キング・コールの名唱で有名な<ネイチャー・ボーイ>。彼女が十代の頃に初めて習った曲だそうだが、セバスティアンのパワフルな伴走に乗って熱い歌声を聴かせ、この夜のクライマックスとなった!

次いで、取り上げたのは<ニューヨーク・ステート・オブ・マインド>。この曲は軽めのポピュラー・スタイルで歌ったのだが、即興によるスキャットが加えられた。他方、ベイシストのマーク・ザンドヴェルトとピアニストのヨースト・スワートもともに素晴らしい演奏で、盛大な拍手を浴びていた。このふたりもギグを通じて、さまざまなスタイルに通暁していることを認識させた。セットの最後でデボラが取り上げたのはやはりビートルズ・ナンバーで、<アイ・ウィル>と<ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア>。かくして、AJCによる2013 アジア・ツアーの第一夜、台湾・高雄市でのギグは、ビートルズとジャズの取り合わせでファンにとって忘れがたいものとなった。

AJCはとても興味深いプロジェクト・バンドである。セバスティアンによれば、全員のスケジュールが合い、街で仕事がない場合に限り海外ツアーに出るとのこと。今回がそのケースで、4人が初めて揃って台湾と日本を巡るツアーにでることができた。選曲はほとんどデボラが担当。それ故、高雄市でのギグは、デボラの幅広いレパートリーからジャンルを横断した楽曲が選ばれ、トリオはデボラをサポートする側に廻ったが、それでも、トリオの即興やインタープレイを充分楽しむことができた。いうなれば、ヨーロッパの香りをたたえたホットなアメリカン・ビートの響宴といったところだ。(Chao-Ping Chou:周昭平/訳責:稲岡邦弥)

関連リンク;
http://www.jazztokyo.com/five/five920.html

Chao-Ping Chou(周昭平)
1974年、台湾基隆市生まれ。音楽ジャーナリスト。高雄市在住。
国立NCKUで中国文学を学んだ後、NSYSUでMBA取得。
角頭音樂社を経て現在は新聞へのジャズに関するレポートを寄稿の他、ライナーノーツなど文筆活動に従事。台湾で初のヨーロッパ・ジャズに関する共著『樂士浮生記』を刊行。制作に参加した歌手Macy Chenのアルバム『After 75 Years』が、第12回 Independent Music Award で「ベスト・アルバム・デザイン」賞を受賞した。今年、家族で日本を訪れた。
Facebook:
https://www.facebook.com/jazzping?fref=ts

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