Concert Report #598

マレイ・ペライア・ピアノ・リサイタル
2013年10月15日(火) すみだトリフォニーホール
Reported by 多田雅範(Masanori Tada)
Photos by三浦興一 (Kohichi Miura)/写真提供:すみだトリフォニーホール

J.S.バッハ: フランス組曲第4番 変ホ長調 BWV815
ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ第23番 ヘ短調 op.57「熱情」
シューマン: ウィーンの謝肉祭の道化 op.26
ショパン: 即興曲第2番 嬰ヘ長調 op.36
     : スケルツォ第2番 変ロ短調 op.31         

「名指せぬマレイ・ペライア 津波のような法悦の可能性」


わたしはあるときに、とてつもなく不感症なのではないかと慌てることがある。どんなピアノで圧倒してくれるのだろう、世界的なピアニスト、マレイ・ペライア66さい、ホロヴィッツの薫風、を、初めて体験しにすみだトリフォニーへ。わたくし、マレイ・ペライアというピアニストを根拠無く女性だと思っていました。

20代のクラシックのピアニストのとっかかりがグールドとアファナシエフだったというわたしの耳は、それだけで、あら、残念ななれそめなのねえと思えるくらいのたしなみはあるつもり。

バッハのフランス組曲。じっと、耳をすませて聴く。...バッハに聴こえない。これは何?

マシュマロのようなペライアの形をした音楽が鳴っている!ゴーストバスターズのマシュマロマンを知っている方はそのものずばりです。笑いを取るのに書いているのではない。あの風情なのだ。ペライアは楽しそうだ。リラックスしながら、「いつものワタシ」を愉しむように精神がスイングしている。それで音楽が軽々しいわけではない、そうだな、タイプは異なるけれどゲルバーとの遭遇に似た質量を、いや圧力を、いや揺るぎないものを感じる。

でも、マシュマロ。ベートーヴェンの「熱情」も、おんなじだなあ。

前半が終わってまわりの女性客が顔を紅潮させて吐息をたてて拍手をしている。え、ええっ?周りを見渡すわたし。わたしだけが魔法にかかりそこねた、落ちこぼれていたのに気付くような哀しい気持ち。

ガールフレンドが来ていて「どうだった?熱情はなかなかのものだったわね。」と話しかけてくる。「え!ふうううん、マシュマロだね」「なにそれ、わかんない」「おれもわかんない」

後半は、何かを感じようとするスイッチを切ってしまっていた。「ああ、昔行った御茶ノ水の名曲喫茶に居るような安心感だなあ」と、音楽に身をまかせていた。そうそう、名曲喫茶だなあ。ぼくのまわりの女性客は「うっとり」を絵に書いたようなのめり込みよう。

コンサートが終わってラッシュアワーのように出口に向かう女性客の中にいて、なんとも言えない置いてけぼり感にしょぼんとしながら帰宅した。

コンサート体験というのは不思議なものである。マレイ・ペライアはCDでも聴いたことがないと思っていた。8年前に繰り返し聴いていた編集CDRに、マレイ・ペライアのトラック「バッハ:イギリス組曲1番より“アルマンド”」が入っているのに、数日後気付いたとたん、に、ボケていたピントが合うようにこの日のペライアの演奏が“聴こえ”てきた。こう、なのか!ふううっと不気味な音をたてて押し寄せる津波のように、音楽はやってきた。

わたしが今まで持っていなかった目で見えた、大きな音楽のスケールだった。今はそのようにしか記述ができないでいる。

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FIVE by FIVE 注目の新譜


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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
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オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

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