Concert Report #600

東京都交響楽団 第759回 定期演奏会Aシリーズ
2013年10月23日(木) 東京文化会館
Reported by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)

曲目
ドヴォルジャーク :スターバト・マーテル(悲しみの聖母)op.58 B.71

指揮:レオシュ・スワロフスキー
ソプラノ:エヴァ・ホルニャコヴァ
メゾソプラノ:モニカ・ファビアノヴァー
テノール:オトカール・クライン
バス:ヨゼフ・ベンツィ
合唱:スロヴァキア・フィルハーモニー合唱団
合唱指揮:ブランカ・ユハニャーコヴァー オーケストラ:東京都交響楽団         

ドヴォルジャーク(プログラムの表記に従っておく)の《スターバト・マーテル》は、19世紀に作曲された同名の宗教曲のなかで、ロッシーニによるものと並び演奏される機会が多い。18世紀の作品であるA.スカルラッティやペルゴレージの独唱と小編成のオーケストラという形式と比べると、管弦楽の編成も大きく、合唱の役割の重要さなど、教会での典礼ではなくコンサートでの演奏を目指した曲となっている。この "Stabat mater dolorosa" に始まる20節のラテン語の典礼文は、十字架に懸けられたイエス・キリストの死を嘆き悲しむ聖母マリアを歌うものだが、ドヴォルジャークはそれを10曲にまとめている。
この日の公演の指揮者、ソリスト、合唱は、スロヴァキア(あるいはチェコ)からの来日であり、音楽的な均質性という点でメリットがあった。スワロフスキーの作る音楽は、しっかりとした骨組の上に、余計な脂肪分をつけない筋肉質なもので、オーケストラは出だしから高い音圧で弾きだし、全曲とおしてだれるところがなかった。スロヴァキア・フィルハーモニー合唱団はザルツブルク音楽祭に出演するなど国際的に活動しており、ここでも安定したハーモニーを聴かせてくれた。歌の精緻さではもっと上手い合唱団はあるだろうが、声の響きの同質性が実際のヴォリューム以上の音圧を生み出していた。ソリストの歌は各パート1曲ずつとそれほどウェイトは大きくないが、それぞれ自らの聖母への願いを歌う部分で、一人称の歌である。4人ともかなり踏み込んだ歌を歌ってくれた。なかでも、テノールのオトカール・クラインとメゾソプラノのモニカ・ファビアノヴァーは、彼ら自身の気持ちをよく歌い伝えてくれたように思う。
最後の "Amen" の音が消えた後、しばしの静寂があり、その後大きな拍手が拡がっていった。コンサートホールであっても、こういった祈りが伝わるのだと感じられた。
レオシュ・スワロフスキーは、2010年に東京都交響楽団の特別公演で、スメタナの歌劇《売られた花嫁》を指揮している。この時も彼のがっちりと骨太な音楽に感心したが、今回も同じ感想をいだいた。プログラムの記述によれば、2014年よりセントラル愛知響音楽監督に就任ということだが、今後の東京での活躍も期待したい。

藤堂 清 kiyoshi tohdoh
東京都出身。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。ソフトウェア技術者として活動。オペラ・歌曲を中心に聴いてきている。ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウのファン。ハンス・ヴェルナー・ヘンツェの《若き恋人たちへのエレジー》がオペラ初体験であった。

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.