Live Report #601 |
今 ポーランドがおもしろい ♯2 |
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内橋和久(guitar,daxophone)の企画によるフェスティヴァル「今 ポーランドがおもしろい」シリーズの2回目が、ポーランドから8人のミュージシャンを迎え、2013年10月に東京・大阪・京都で開催された。その東京(@新宿ピットイン)での2夜をのぞいたのでここに記録しておきたい。
この企画は、単にポーランドのグループを紹介する場ではなく、日本のミュージシャンとの混成小グループの演奏も行われるフェスとして2011年に初回が開催された(@新宿ピットイン)。初回では、ポーランドのグループだけの夜と、ポーランド勢(9人)と日本勢(4人)が交わったいくつかの臨時混成小グループによる即興演奏の夜というふうに分けて2日間開催されたが、今回の♯2の東京公演では初日、2日目ともにポーランド勢(8人)と日本勢(11人)による多数の臨時混成小グループによる即興ナイトとなった。
こうした即興演奏の企画は、内橋が1995年に神戸で、即興演奏の楽しさをわかちあう場として始めたワークショップ「ニュー・ミュージック・アクション」(*1)の発展的継続と言えるものである。内橋は海外での演奏が多くなっていくにつれ、海外でも積極的に即興演奏ワークショップを実施するようになっていった。それはポーランドでも恒例となり、興味深いミュージシャンと交わり刺激を受けた。ポーランドには個性豊かなユニークな人たちが数多くいるが日本ではまったくといっていいほど知られていないということで、内橋が一肌脱いだのが2011年の初回で、ジャズということに限定しないで、独自の音楽性を持っているユニットで活動する面々を連れてきた(*2)。ポーランド勢は日本で初めて共演するケースも多かった。そこが昔から保持されている内橋のキモと言える。つまり、音楽の作り方が違う者同志が、即興演奏をキーワードに歩み寄ることで生まれるかもしれない、いまだ名付けられていない何かへの期待、ワクワク感である。「今 ポーランドがおもしろい♯2」でも、内橋自身はもちろん参加した誰もがその思いを共有していることがうかがわれた。
●出演者(10月23-24日)
♯2ではポーランドから下記の8人が来日した。
イェジー・マゾル(Jerzy Mazzoll, bass clarinet, clarinet)
ヴァツワフ・ジンペル(Wacław Zimpel,alto clarinet, clarinet)
ミハウ・グルチンスキ(Michał Górczyński, clarinet, bass clarinet)
マチェイ・オバラ(Maciej Obara, alto sax)
ダグナ・サトコフスカ(Dagna Sadkowska, violin)
ピョトル・ドマガルスキ(Piotr Domagalski, ac/el-bass)
イェジー・ロギェヴィッチ(Jerzy Rogiewicz, drums他)
DJレナル(DJ Lenar, turntable)
新宿ピットインで次の11人が彼らを迎えた。
芳垣安洋(drums)23日
吉田達也(drums) 23日
坪口昌恭(electric modified piano)23日
広瀬淳二(tenor sax)23日
カール・ストーン(laptop)23日
梅津和時(alto sax, bass clarinet)24日
坂田明(alto sax, clarinet)24日
八木美知依(箏)24日
高良久美子(vibraphone)24日
田中徳崇(drums)24日
内橋和久(guitar, daxophone)23-24日
[なお、大阪(10月26日@コーポ北加賀屋)では、稲田誠(bass)、半野田拓(guitar,electronics)、木村文彦(percussion)、内橋が8人と共演し、京都(10月27日@Zac Baran)ではドマガルスキ、ジンペル、オバラと中村哲也(guitar, etc)、内橋の共演であった]
●共演ダイジェスト(@新宿ピットイン)
ポーランド勢の冒頭にあげたイェジー・マゾルは、長いキャリアがあるので国際的にけっこう名前が知られているはずだ。ポーランドでは1990年代初頭に“連帯”でおなじみのグダニスクの若者によるボーダーレスな音楽ムーヴメントが全ポーランド規模の注目を集めるに至っているが、そのときの中心人物の1人がこのマゾルである。今回のポーランド勢の中では兄貴分的な存在だったはず。そんなイェジー・マゾルbclとヴァツワフ・ジンペルaclというポーランド有数のインプロヴァイザー2人に、内橋和久g、そして内橋の良き理解者である芳垣安洋dsが組んだカルテットで♯2の幕が上がった。ユニークなトーンでミニマル〜ドローン系をベースにしたプレイで共演者を刺激するマゾル、状況を鋭敏に把握しヴァーチュオーソと言えるテクニックで多彩な吹奏を繰り広げるジンペル。内橋と芳垣の予期できない突っ込みがもたらす急転の快感。いきなりメインディッシュが差し出された気分だった。その後も、広瀬淳二tsとのデュオ他で熟達ぶりを印象づけたマゾルだが、翌日の梅津とのバスクラ二重奏では別の顔を見せた。2人は奇想的・逸脱的な挑発の応酬へ発展し、まるでドラマを演じているかのようなパフォーマンスもみせるではないか。抱腹絶倒しながら満喫できる即興インタープレイというやつだ。
今回はマゾル、ジンペル、さらにミハウ・グルチンスキとクラリネット系が3人もいて、古今ジャズのイメージがべったり貼り付いたこの楽器に新しい声を盛んに出させていたのが印象的だった。ジンペルは終始クールな万能的技巧派だが、箏の八木美知依、田中徳崇dsとのトリオにおいて東欧風味のエレジー、バルカン〜中東を思い出させるメロディをけれんみなく持ち出し、定評通りの引き出しの多さをうかがわせた。数多くの現代音楽作品の演奏に関わってきたというグルチンスキの場合、創意工夫がミクロ的に数珠つながりになっているクロウト好みのする演奏と言えるだろう。
マチェイ・オバラasとダグナ・サトコフスカvlnのデュオは睦言を交わしているともとられかねない濃密なメロディ的絡みで嫉妬させてくれたが、2人に高良久美子vibも加わったトリオではマイクをオフにし、楚々として清らかな湧き水のような質感を醸し出した。オバラasは、ピョトル・ドマガルスキb、吉田達也dsとのトリオでは変幻するリズム、ドローン上を巧みにサーフするようなブロウで感心させるかと思うと、内橋g、広瀬ts、芳垣ds、ドマガルスキdsとのスリリングかつタフな応酬にも鋭くパワフルに対応していてこれまた立派。サトコフスカヤvlnは坂田明vo、ドマガルスキbとのトリオで坂田の和のヴォイス・パフォーマンスに見事に連れ添ってみせた。サトコフスカの艶のある音もメロディ的即興も素晴らしいが、それと対極的に、グルチンスキcl、坪口昌恭p、カール・ストーンlaptopとのカルテットではノイズ的奏法だけで巧みに会話を成立させていたのも印象的だった。イェジー・ロギェヴィチds、DJレナルttの演奏で個人的に最も印象的だったのは、この2人にとって最初の出番であった広瀬tsとのトリオ演奏だ。広瀬の特殊奏法だけで迫るプレイに、只事ではないゾといった様子で集中を高め緊張感が高まっていくのが私には感じられた。この2人に限らず、ポーランドの面々が皆真剣にセッションしなおかつ楽しんでいる様子は印象的であったし、日本のミュージシャン達の真摯な対応と優れた演奏もまた印象に残った。内橋の期待通り、両者の相互作用による果実がいくつもあったように思う。
なお、ポーランド・ジャズ専門ライターのオラシオ氏がフライヤーにもブログ(*3)にも、ポーランドの8人について的確な紹介文を載せているのでぜひのぞいてみて欲しい。とても参考になると思う。(岡島豊樹 Toyoki Okajima)
* 1=http://www.japanimprov.com/kuchihashi/kuchihashij/interview.html参照
* 2=http://www.jazztokyo.com/interview/interview120.html参照
* 3=http://ameblo.jp/joszynoriszyrao/entry-11597210790.html
第1日目:10月23日@新宿ピットイン
DJレナル | ピョトル・ドマガルスキ | マチェイ・オバラ |
マチェイ・オバラ | 広瀬淳二 | DJレナル、イェジー・ロギェヴィチ、広瀬淳二 |
イェジー・マゾル、広瀬淳二 | ダグナ・サトコフスカ、マチェイ・オバラ | カール・ストーン、イェジー・ロギェヴィチ |
吉田達也、ピョトル・ドマガルスキ、ヴァツワフ・ジンペル、坪口昌恭 | ヴァツワフ・ジンペル | イェジー・マゾル、芳垣安洋、ミハウ・グルチンスキ |
第2日目:10月24日@新宿ピットイン
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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