Live Report #605

you me & us JAPAN TOUR2013
2013年10月31日(木) 秋葉原 Club Goodman
Reported & photographed by 剛田 武(Takeshi Goda)

出演:you me & us/超即興
you me & us:
デヴィッド・アレン(g,vo)from:GONG
クリス・カトラー (ds)from:Henry Cow, Art Bears, Cassiber, The Artaud Beats, etc
ユミ・ハラ (pf,key,vo)from:HUMI, the Artaud Beats, Mammal Machine, etc

超即興:
吉田達也(ds,vo)
内橋和久(g)         

70年代のブリティッシュ・ロック/ジャズに興味のある方には馴染み深いだろうが、英国音楽界にカンタベリー・ロックという大きな流れがある。カンタベリーはイングランド南東部ケント州東部に位置し、中世から巡礼地として栄えてきた古い街。ケント大学をはじめ多くの教育機関があり学生の街としても知られる。この街で1964年に結成されたワイルド・フラワーズを祖として、数多くの才能あるミュージシャンが登場し、バンドの離散集合とともに人脈が広がって、「カンタベリー系」というジャンルとしてくくられるほどの存在感を示すようになった。ロック、サイケデリッ ク、プログレッシヴ、ジャズ、フュージョン、インプロヴィゼーション、実験音楽など特定の音楽には括れないが、英国らしい一種独特なサウンドの感触に惹かれるファンは世界中に数多く存在する。ソフト・マシーン、キャラヴァン、ナショナル・ヘルス、ハットフィールド・アンド・ザ・ノース、マッチング・モール、ギルガメッシュ、ヘンリー・カウ、ゴング、エッグなどのバンドのメンバーを中心に複雑に繋がり絡み合った人脈図は、カンタベリー・ファミリー・ツリーとして有名でもある。

英国音楽界に深く根を張ったカンタベリーの鉱脈は20世紀末に日本へ広がった。90年代に前衛ロックや即興ジャズの中から、プログレッシヴ・ロック、特にカンタベリー・ロックにシンパシー を持つミュージシャンが登場し、ヨーロッパの音楽家と協働した。その中核のひとりが磨崖仏レーベルを主宰し、ルインズ、高円寺百景、大陸男対山脈女、是巨人など様々なユニットで活動するドラマーの吉田達也である。日本はもちろん、デレク・ベイリー、ジョン・ゾーン、フレッド・フリス、チャールズ・ヘイワード、デヴィッド・アレン、サムラ・ママス・マンナなど、数多くの海外のアーティストとも共演する吉田を巡るミュージシャン・マップはまさに日本版カンタベリー・ファミリー・ツリーといえるだろう。

吉田に加えて現在のカンタベリー人脈のリンクの中心にいるのが、ロンドン在住の作曲家・ピアニストのユミ・ハラである。2000年代からデヴィッド・クロス(キング・クリ ムゾン)、チャールズ・ヘイワード(クワイエット・サン、ディス・ヒート)、ヒュー・ホッパー(ソフト・マシーン)などと活動してきたユミは、2009年頃ジェフ・リーとのデュオ活動をきっかけにクリス・カトラー、ジョン・グリーヴスという元ヘンリー・カウの3人とアルトー・ビーツを結成。去年と今年2度の日本ツアーが実現した。

2009年に病気で惜しくも他界したソフト・マシーンのヒュー・ホッパーと2007〜8年にHUMIというデュオで活動していたユミは、ヒューの結ぶ縁で吉田達也やゴングのデヴィッド・アレンと知り合ったという。こうした運命の糸の導きによる出会いは、まさにカンタベリー的であり、いつかユミにじっくり語ってもらいたいものだ。それぞれ同時期にヒューと別のユニットを組んでいたデヴィッドとユミは、昨年秋に初めて会い、すぐに意気投合して、かつてヒュー&デヴィッドと一緒にBrainville3というバンドを組んでいたクリス・カトラーを加え、今年5月にyou me & usとしてロンドンで演奏した。バンド名はデヴィッドがユミの名前に因んで命名したらしいが、ゴングの名盤『You』(1974)やデヴィッドらしいヒッピー的友愛主義が窺えて興味深い。初ライヴに確かな手応えを感じた3人はその勢いで話を進め、日本ツアーが実現に至った。アルトー・ビーツと同じくエージェントやプロモーターを介さず、すべて自分たちでアレンジするインディペンデントなツアーである。

約2週間の日本公演の初日は秋葉原 Club Goodmanで、吉田達也のユニットを迎えて開催された。じつはクリスは吉田に会ったことがなく、会うならステージの上で、と希望していたという。吉田は11月から自分のバンドのヨーロッパ・ツアーがあり、共演出来るのはこの日だけだった。事前告知はインターネットとフライヤーだけだったが、会場は熱心なファンで満員。75歳のデヴィッドがどんな姿で現れるか、期待感が高まる。

●超即興 (吉田達也/内橋和久)

吉田達也の数多いユニットの中でもとりわけ硬派なデュオ。内橋和久はアルタード・ステイツを中心にGROUND ZERO、渋さ知らズ、Combo PianoなどのバンドやJ-POPのプロデュースでも活躍し、前衛とポップの垣根を飛び越えた作曲家・ギタリスト。2004年から吉田と超即興として活動している。現在ベルリン在住なので、内橋も来日アーティストといえる。先述したように唯一共演可能なその日に内橋が日本にいたのは誠に幸運だったという他ない。昨年のアルトー・ビーツの日本ツアーの最終日に、舞台音楽の仕事でたまたま来日中だった内橋が飛び入り出演したこともあるので、両者にはカンタベリーの神様のご加護があるのかもしれない。変拍子を多用した超絶ドラムに加えオペラチックなヴォーカルを聴かせる吉田に、テーブルの上に並べたエフェクターを慌ただしく手で切り替えながら無限の音色をギターで紡ぎだす内橋のパワーと独創性に溢れた共演は、文字通り火花散る対話だが、決して無軌道な力技の応酬に陥ることなく、緊張と弛緩の流れのある演奏を展開する。ユニット名通りインプロヴィゼーション(即興)を超えて、コンポジション(楽曲)との境界を消し去るアプローチは、今後の即興音楽の進むべき方向性を提示しているようだ。

●you me & us(David Allen/Chris Cutler/Yumi Hara)

70年代、ゴングは「ラジオ・グノーム・インヴィジブル」というスラップスティックなSF物語に基づいた独特の宇宙を形成した。ゴング惑星からフライング・ティーポットに乗ってやってきた宇宙人という荒唐無稽な設定は、デヴィッド・アレンの頭の中のユートピア信仰やヒッピー志向の具現化といえる。オーストラリア〜ヨーロッパ〜アメリカと国境を越えて現役で活動するデヴィッドの核心には今も同じ理念があるに違いない。

蜘蛛を想わせる長い手足、純白の髪、白いジャケットという見るからに奇人めいたルックス、トレードマークのグリッサンド奏法(絃を金属棒で擦ってドローン音を出す奏法)にディレイを深くかけたスペーシーなギター・サウンド、ポエトリー・リーディング風の演劇的なヴォーカル。40年前とほとんど変わりない姿に、「継続は力なり」というフレーズが浮かぶ。サイケデリックなインプロヴィゼーション、自作曲やユミ・ハラの曲、エルヴィス・コステロやソフト・マシーンのカバー、 キャプテン・ビーフハートの語りをループさせた即興など、ヴァラエティ豊かな構成は、何度も中断しつつも45年間続くゴングの魂が今でも生きていることの証明だった。ユミとクリスは柔軟な演奏でデヴィッドを支え、ゴングの代表曲「Dynamite〜I Am Your Animal」ではユミが立ち上がり、ハンドマイクで魔女さながらの歌を聴かせる場面もあり、トリオとして充実したステージを展開した。

アンコールは全員のセッション。デヴィッドを中央に左にyou me & us、右に超即興の変則ダブル・トリオのスタイルに、オーネット・コールマン『フリー・ジャズ』のダブル・カルテットが頭に浮かぶ。クリスvs吉田/デヴィッドvs内橋のドラム&ギター対決は強烈な高揚感があり、テクニックや音楽性を超えた生の喜びに満ちていた。この出会いを導いた立役者ヒュー・ホッパー作のソフト・マシーンの人気曲「Facelift」の演奏に満場の観客も大喝采。ツアー初日からお祭り騒ぎになった。

沖縄を含む14公演を大盛況のうちに終えたyou me & usが帰国の途につくのと入れ替わりに、ゴング時代の盟友、スティーヴ・ヒレッジのユニットSYETEM 7の日本ツアーがスタートしたことは偶然にしても面白い。またカンタベリーの中心バンド、 キャラヴァンのデイヴ・シンクレアが現在京都在住で、近江八幡公演で共演を果たしたことも日本とカンタベリーの深いリンクを物語るエピソードかもしれない。(剛田 武 2013年11月20日記)

* 12月18日〜23日 ユミ・ハラ日本ツアー
http://www.jazztokyo.com/hotline/hotline_local.html#hot_local01

剛田 武(ごうだ・たけし)
1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。レコード会社勤務。
ブログ「A Challenge To Fate」
http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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