Concert Report #608

没後50年記念
フランシス・プーランクの夕べ
2013年10月23日 東京オペラシティ・コンサートホール:タケミツ・メモリアル
Reported by 佐伯ふみ (Fumi Saseki)

【キャスト】
指揮:鈴木雅明
ピアノ:菊地裕介
ソプラノ:臼木あい
フルート:上野由恵
オーボエ:大島弥州夫
クラリネット:伊藤圭
ファゴット:黒木綾子
ホルン:福川伸陽
オルガン:鈴木優人
新国立劇場合唱団 東京フィルハーモニー交響楽団

【曲目】
メランコリー、三つの小品(pf)
モンパルナス(sop, pf)
フルート・ソナタ
クラリネット・ソナタ
六重奏曲(pf, fl, ob, cl, fg, hr)
オルガン協奏曲
スターバト・マーテル         

 20世紀前半、黄金期のパリを象徴する芸術家の一人、フランシス・プーランクの没後50年を記念するコンサート。キャスト、曲目ともに充実した、メモリアルにふさわしい華やかな演奏会であった。フランスの音楽、しかも近現代となると、どういうわけか一向に(クラシック・ファンにすら)普及していかない、難しいジャンルである。プーランクはそれでも室内楽の名曲の数々がコンサートでも録音でも取り上げられることの多い作曲家なのだが、大ホールではさぞ集客に苦労したことだろう。企画側――主催の東京オペラシティ文化財団と、鈴木雅明氏を初めとする演奏家たち――の見識と熱意の賜物としてこうした演奏会が実現したことに、まず敬意を表したい。

 当夜の聴きものは、実演に接することの少ない演目という点で、またその演奏の面白さの点で、まず第一に『オルガン、弦楽とティンパニのための協奏曲』であった。若く、覇気ある鈴木雅人のオルガンを、父・雅明の指揮する東京フィルがしっかりと包み込む。出だしでは、背後のオケへの遠慮なく自由闊達にテンポを揺らしたいオルガンを、オケがフォローしきれない場面もあったが、父子共演と考えるとそれもまた一興、面白かった。プーランクのオルガン使いの巧みさ、あふれる創意工夫が改めて再認識できる、貴重な上演であった。
 前半は室内楽の名曲を各奏者が競い合うように聞かせた。六重奏曲が面白いのは当然だが、オーボエの大島弥州夫はソロでも聴きたかったところ。クラリネット・ソナタの伊藤圭、フルート・ソナタの上野由恵の熱演が心に残る。ピアノの菊地祐介のフレージングの柔らかさ、弱音の美しさは特筆もので、巻頭のメランコリーには息をのんだが、室内楽では伴奏に回り過ぎたと言うべきか、その繊細さが逆に物足りなくなった。表現の幅広さ多様さがもっと欲しいし、ソロ楽器として、他のパートを挑発するくらいの主張をして欲しい。ソプラノの臼木あいのまろやかな美声はさすがであったが、ピアノと同じ印象を受けたのは、美しすぎる演奏はプーランクには似合わない、ということ。一見、ノンシャランでサロン風の装いの陰に、色気や不良っぽさのみならず、驚くほど真摯な信仰、それと裏腹ののっぴきならない背徳、死への底深い不安、忍び寄るファシズムへの強い反発、そういったものが重層的に積み重なっているのが、プーランクの音楽なのである。つまり前半の室内楽は、プーランクを表現することの難しさを改めて再認識させられる体験でもあった。もっとも奏者たちにとっては、本来もっとキャパの狭い、親密(インティメイト)な空間で奏されるべき音楽を大ホールで鳴り響かせなければならないのは、大変な不利だったろう。違う場で聴いていれば、もしかしたら違う感想になったかもしれない。この際、そういう不満は言えないけれど。

 最後の『スターバト・マーテル』はさすが完成度の高い仕上がり。合唱音楽もプーランク自家薬籠中のジャンルで、こうした質の高い上演に接すると、改めてその巧みさ、深い感情表現に感動させられる。分厚い合唱と管弦楽を突き破って、ソプラノが天に捧げる祈り。臼木は熱演だったが、低いピッチから徐々に上げていく入りで、上がりきらず、オケや合唱に溶け合わない箇所も見受けられ、技術的に非常に難しい曲であることを再認識。しかしそれは瑕疵であり、全体の印象は輝かしいものであった。
 プーランクがこのような珠玉の音楽の数々を残してくれたことに感謝。奏者たちのそんな声が聞こえてくるような、忘れがたいコンサートであった。

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