Concert Report #611 |
マグダレーナ・コジェナ & プリヴァーテ・ムジケ |
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チェコ出身のメゾソプラノ、マグダレーナ・コジェナが2009年に録音した“Lettere amorose”とほぼ同じプログラムを持って来日公演を行った。
彼女が歌ったのは16〜17世紀のイタリア・バロックの曲、ディンディア、カッチーニ、メールラ(メルラの方が一般的表記のように思うがプログラムに従っておく)、モンテヴェルディといったよく知られた作曲家によるもの。間に、バロック・アンサンブル、プリヴァーテ・ムジケのみの演奏で同時期のギター音楽などが演奏された。
コジェナは緋色の膝くらいまでの衣装、裸足で舞台にあらわれた。ふつうのコンサート用の枠組みとは違う舞台をつくり、ある種の堅苦しさを破ろうということだったのだろう。ギター、テオルボなど器楽を担当したプリヴァーテ・ムジケのメンバーも含め、日常的な空間をつくりだしていた。
音楽面は、そういった外観とは少し異なるものに感じられた。
コジェナは、それぞれの曲の歌詞をしっかり把握し、細かく表情を付けて歌っていく。声の響き、そして音色の変化は会場全体に伝わる。
しかし、メールラの子守歌では、聖母マリアの揺れる気持ちがもっと表に出てもよいように感じた。
プリヴァーテ・ムジケの演奏は歌を支える立場にまわり、彼女の後ろに控えめについている。
バロックの楽団や音楽を会場で聴く楽しみは、演奏者どうしの即興的な受け渡しや、聴衆の反応を受けての変化があると思う。舞台の姿はそれと意識しているようなのに、実際に聞こえてくる音楽からはそういった自発性を感じ取ることができなかった。
同じような歌手とバロック・アンサンブルでも、ジャルスキー&ラルペッジャータの組み合わせでは、歌手だけが突出することもなく、またアンサンブルの各奏者もそれぞれの個性と主張を聞かせてくれていた。
そういった状況は、コジェナの発声が現代の大ホールに対応するものであったのに対し、ギターなどの楽器の響きはこのコンサートホールをうめるには十分とはいえないものであったことが原因の一つであっただろう。実際、15日の王子ホール(客席数200)では声とアンサンブルのバランスはより均衡のとれたものとなっていた。
それでも、奏者の自発性や即興性にはあまり変化はみられず、こういった団体としては「おとなしい」という印象が変わることはなかった。もともとの性格と考えてよいのだろう。
コジェナ自身にとっては、しっかりサポートしてくれるし、表に出て主張しない分、ある意味では楽なのかもしれないが、聴く立場からするともっと互いに個性をぶつけ合ってくれた方が面白い。
これまでの来日では歌曲歌いとしての彼女しか聴いてこなかったので、彼女の表出力に感心こそすれ疑問をいだくことはなかった。このようなアンサンブルの中での音楽作りが彼女の今後の方向性を見せたものだとすれば少し心配になる。ヴェニス・バロックのような他の団体との共演では違いがあるのかどうか聴いてみたいものである。
40歳になったコジェナ、いままでと同様、オペラ、歌曲、そしてバロックものと幅広い活動を続けていくのだろうか?
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