Concert Report #611

マグダレーナ・コジェナ & プリヴァーテ・ムジケ
2013年11月12日(火)東京オペラシティ コンサートホール
Reported by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林 喜代種(Kiyotane Hayashi)

愛の手紙 “Lettere amorose”
曲目
フィリッポ・ヴィターリ:美しき瞳よ*
シジスモンド・ディンディア:酷いアマリッリ*
ジュリオ:カッチーニ:聞きたまえ、エウテルペ、甘い歌を*
ルイス・デ・ブリセーニョ:カラヴァンダ・チャコーナ
タルクィーニオ・メールラ:今は眠るときですよ(子守歌による宗教的カンツォネッタ)*
ガスパール・サンス:カナリオス
シジスモンド・ディンディア:穏やかな春風がもどり*
ビアージョ・マリーニ:星とともに空に*
ジョバンニ・パオロ・フォスカリーニ:パッサメッゾ
クラウディオ・モンテヴェルディ:苦悩はとても甘く*
ジロラモ・カプスベルガー:トッカータ・アルペジァータ
ジロラモ・カプスベルガー:わたしのアウリッラ*
シジスモンド・ディンディア:ああどうしたら?もの悲しい哀れな姿でもあなたが好き*
ジロラモ・カプスベルガー:幸いなるかな、羊飼いたちよ*
ジョバンニ・パオロ・フォスカリーニ:シャコンヌ
バルバラ・ストロッツィ:恋するヘラクレイトス*
ガスパール・サンス:曲芸師
タルクィーニオ・メールラ:そう思う者はとんでもない*
クラウディオ・モンテヴェルディ:ちょっと高慢なあの眼差し*

演奏者
メゾソプラノ:マグダレーナ・コジェナ*
演奏:プリヴァーテ・ムジケ         

チェコ出身のメゾソプラノ、マグダレーナ・コジェナが2009年に録音した“Lettere amorose”とほぼ同じプログラムを持って来日公演を行った。
彼女が歌ったのは16〜17世紀のイタリア・バロックの曲、ディンディア、カッチーニ、メールラ(メルラの方が一般的表記のように思うがプログラムに従っておく)、モンテヴェルディといったよく知られた作曲家によるもの。間に、バロック・アンサンブル、プリヴァーテ・ムジケのみの演奏で同時期のギター音楽などが演奏された。
コジェナは緋色の膝くらいまでの衣装、裸足で舞台にあらわれた。ふつうのコンサート用の枠組みとは違う舞台をつくり、ある種の堅苦しさを破ろうということだったのだろう。ギター、テオルボなど器楽を担当したプリヴァーテ・ムジケのメンバーも含め、日常的な空間をつくりだしていた。
音楽面は、そういった外観とは少し異なるものに感じられた。
コジェナは、それぞれの曲の歌詞をしっかり把握し、細かく表情を付けて歌っていく。声の響き、そして音色の変化は会場全体に伝わる。
しかし、メールラの子守歌では、聖母マリアの揺れる気持ちがもっと表に出てもよいように感じた。
プリヴァーテ・ムジケの演奏は歌を支える立場にまわり、彼女の後ろに控えめについている。
バロックの楽団や音楽を会場で聴く楽しみは、演奏者どうしの即興的な受け渡しや、聴衆の反応を受けての変化があると思う。舞台の姿はそれと意識しているようなのに、実際に聞こえてくる音楽からはそういった自発性を感じ取ることができなかった。
同じような歌手とバロック・アンサンブルでも、ジャルスキー&ラルペッジャータの組み合わせでは、歌手だけが突出することもなく、またアンサンブルの各奏者もそれぞれの個性と主張を聞かせてくれていた。
そういった状況は、コジェナの発声が現代の大ホールに対応するものであったのに対し、ギターなどの楽器の響きはこのコンサートホールをうめるには十分とはいえないものであったことが原因の一つであっただろう。実際、15日の王子ホール(客席数200)では声とアンサンブルのバランスはより均衡のとれたものとなっていた。
それでも、奏者の自発性や即興性にはあまり変化はみられず、こういった団体としては「おとなしい」という印象が変わることはなかった。もともとの性格と考えてよいのだろう。
コジェナ自身にとっては、しっかりサポートしてくれるし、表に出て主張しない分、ある意味では楽なのかもしれないが、聴く立場からするともっと互いに個性をぶつけ合ってくれた方が面白い。
これまでの来日では歌曲歌いとしての彼女しか聴いてこなかったので、彼女の表出力に感心こそすれ疑問をいだくことはなかった。このようなアンサンブルの中での音楽作りが彼女の今後の方向性を見せたものだとすれば少し心配になる。ヴェニス・バロックのような他の団体との共演では違いがあるのかどうか聴いてみたいものである。
40歳になったコジェナ、いままでと同様、オペラ、歌曲、そしてバロックものと幅広い活動を続けていくのだろうか?

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.