Concert Report #614

バーミンガム市交響楽団演奏会
2013年11月18日 東京オペラシティコンサートホール
Reported by 丘山万里子 (Mariko Okayama)
Photos by 林 喜代種 (Kiyotane Hayashi)

<指揮>アンドリス・ネルソンス
<演奏>バーミンガム市交響楽団、ヒラリー・ハーンvl*
<曲目>
 ワーグナー:歌劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲
 シベリウス:ヴァイオリン協奏曲ニ短調Op.47*
 ドヴォルザーク:交響曲第9番ホ短調Op.95「新世界より」
<アンコール>
 バッハ:無伴奏パルティータ第2番より「サラバンド」*
 エミール・ダージンズ:憂鬱なワルツ         

 終演後、ほのぼの感が客席を包む。ラトヴィア生まれの指揮者アンドリス・ネルソンスとバーミンガム市響が生み出すいかにも心のこもった音楽の喜びがホールに充溢して、ステージ、客席ともども、みんな満足げ。どの演目もそれぞれの魅力を放ち、幸福な余韻の残るコンサートとなった。
 『ローエングリン』、微かなピアニシモから忍び入る弦。浄らかな聖性を宿すその響きは、やがて壮麗な神殿のごときクライマックスへと翼を拡げ、ワーグナーの神秘世界を一気に現前してみせる。当夜のアペリティフとしてもピタリはまった演奏である。
 続くシベリウス、米国出身のスター、ヒラリー・ハーンが、また素晴らしかった。吸い付くようなボウイングが生むみっしりと目の詰んだ美音に、清冽なリリシズムが匂い立つ。ゆったりとそれを包むオケも、ハーンの奏でる透明な北欧の抒情の色にしっとりと染まる。第1楽章のカデンツァの技巧の冴えも、これみよがしなところがなく、あくまで楚々として美しい。アダージョ楽章の濃やかな情感のさざなみ、一転、大きくうねるリズムにのってのヴィヴィッドなアレグロ楽章と、オケとの交感がいっそう曲趣をもり立てる。ハーンの輝かしい高音、よく響く中低音を際立たせるネルソンスのサポートぶりも好もしい。鳴り止まない拍手に応えてのハーンのアンコールは、バッハの『無伴奏パルティータ』から。神経を隅々まで行き渡らせた細心のバッハで、高い精神性を感じさせる佳品であった。
 後半の『新世界』はネルソンスもオケもパワー全開。管、弦、打のダイナミックな躍動が大きくホールを揺るがせる。バーミンガム市響はサイモン・ラトルの18年にわたる薫陶のもと、一流のオケに成長、2008年からネルソンスが音楽監督に就任、チャイコフスキーとR・シュトラウスの管弦楽作品全曲録音に着手など着実な歩みを見せているが、その両者の相性の良さが遺憾なく発揮された好演である。ネルソンスの指揮は作品のテクスチュアを丁寧にすくいとりつつ、おおらかさにも長けており、作品の持つ郷愁とドラマを大きなスケールで描き出す。ひらひら舞う左手でのニュアンス付けも巧み。第2楽章の「家路」のテーマ、イングリッシュ・ホルンの下に流れる弦のふくよかな響き、スケルツォの切れ味鋭いリズムの刻みなど強い印象を残した。
 客席の喝采に、オケを立たせようと何度も促すネルソンスに、コン・マスを含めオケの全員が足を踏みならし、弓で譜面台を叩いて指揮者をたたえ、立ち上がらないシーンに、メンバーが彼に寄せる信望の厚さが垣間見える。アンコール、ラトヴィアの作曲家ダージンズの『憂鬱なワルツ』では互いに手を取り合うように、ほんのり哀調を帯びた洒脱なワルツを披露し、客席を楽しませた。

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