Concert Report #615

東京都交響楽団 第760回定期演奏会 Aシリーズ
2013年11月19日(火) 19:00開演 東京文化会館
Reported by 多田雅範 (Tada Masanori)

曲目
ドヴォルジャーク:弦楽のための夜想曲 ロ長調
マルティヌー:オーボエと小オーケストラのための協奏曲
スーク:交響曲第2番「アスラエル」

指揮:ヤクブ・フルシャ
オーボエ:広田智之         

スークの「アスラエル」、「ただものならぬ」構造に、熱意を充墳させたヤクブ・フルシャの名演

満員御礼の都響、Tokyo Metropolitan Symphony Orchestra、平日なのに!などと失礼な書き方ですが、開演前から上野の東京文化会館の熱気はまだ寒波は押し寄せていない穏やかな秋の夕暮れの気配の中にあって。集う人びとの熱気。コンサート通いはこうでなくっちゃ。

ドヴォルジャーク、マルティヌー、スークというオール・チェコ・プログラム、祖国チェコを振るフルシャ、若い女性の観客も目立つ。

32さいの若き指揮者の渾身の指揮に震える。チェコ出身のチェコを体現する使命感すら感じるフルシャが。わたしは、こないだ伝統のチェコ・フィルを聴いてきたばかりではないか(10月30日イルジー・ビエロフラーヴェク指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 http://www.jazztokyo.com/live_report/report604.html)。クラシック体験がまだ層になっていないわたしはいつも予習無し全身全霊なものだから、耳は最新の体験に大きく左右されるのではないだろうか…。

フルシャの健闘、都響の奮闘、最初に到来するイメージは、なぜにか伊福部昭のゴジラ出現のサウンドスケープだったりする。...

日本は、敗戦のトラウマが放射能のゴジラを骸骨のウルトラマンを生んだ、そういう国だったか。美しい国を標榜する総理大臣も、グローバル仕様のおもてなしプレゼンも、わかるような気がする。都響の身動きを見つめている。福一の依然危険状況という、横っ腹にドスが刺さったまま血を流している。目は血走っている。それはわたしが、だろうか。このサウンド、戦後の日本語はこういうものだったと思う、二百年経ったらわかる。オーケストラという様式を獲得し、チェコの指揮者でチェコのクラシックを弾いても、日本人が弾くとどうしても「日本(語)的なるもの」になってしまう。これは世界に追いついていないとか、本場に負けてるということではないんだ。

…そんなことを考えながらコンサートを聴いている。

思えば、1曲目、ドヴォルジャークの弦楽だけの夜想曲、天性の叙景と叙情に意識を飛ばす技法、高揚、うっとり浮遊する映画音楽の開祖みたいなありがたさだ、ありがたや、ありがたや。 2曲目、マルティヌーは、オーボエ奏者による紹介(http://www.youtube.com/watch?v=NojcHlrv77c)がある。パンフレットで読んで、ドキドキ、そのようなアクロバティックな曲なんだろうなー、と構えた。なるほど、クラシックではこうなるのか。現代ジャズとか変拍子ロックとかでストレッチされている耳だから、安心して聴ける。むしろオーボエ奏者広田智之の力演が映えるアプローチか、リサイタルを聴いてみたい。あと、前半部分の女性がたたく大太鼓が、やたら良かった。突出していた。指揮者も鼓舞されただろう、胸のすく打音だ、楽曲の輪郭をくっきりと方向付けるようないぶし銀の存在がオケには必要なのだ、わたしの音楽賞ピーピコ賞を彼女に捧げたい。

マルティヌーには、ここ数年のコンサート通いで何度も感動している。ECMレーベルでマルティヌーの室内楽?トラックがあったような...。もっかい聴いてみよう。

そしてハイライト、スークの『アスラエル』。なかなか聴けない秘曲のような存在なのかな、という程度の関心で体験した。これが、なんとも不意打つような展開の交響曲なのだ、字余りだらけの俳句の連打にも感じるし、鳴門の渦潮のようにあれよあれよと巻き込まれることにもなる、音楽のロジックに適合していない不穏が時に顔を出す、これはなぜにこのようなのか、捉えどころがないような気分にさせられる。指揮のフルシャは暗譜しているようだ、迷いや風読みはない、これはこうだ、こうなのだ、と、聴く者は指揮者の説得力でぐいぐい引き込まれてゆく。いち、に、さん、し、ドーンという奔流ではない、いきなり、し、ドーン、と、感情の爆発に出くわすような。一、二楽章と三、四楽章が分離しているようにも思う。50分をゆうに超える演奏だったとは思えなかった。音楽に完全に囚われてた!

スークの『アスラエル』。スークはチャイコフスキーの弟子で、チャイコフスキーの娘を嫁さんにもらっていたのか。師が亡くなって、師に捧げるこの交響曲を作曲していると、第四楽章を書き始めた頃にこの若き奥さんが亡くなったのだという。コンサートから帰ってきてから、知る。アスラエルとは、死を司る天使の名を示しているとのこと。なんてことだ。

チェコの音楽として聴くのではなく、現代音楽として聴かれるべきなのかな。そういう構えのくくり方に意味はあるのかどうか。追悼という表現は現代音楽がより多くの領域を耕している気がする。

フルシャの若々しい情熱に引き込まれて、かっちりとした充実感を体験して帰ってきたのだけれど、『アスラエル』の作曲背景を知って、耳に残響している記憶と照らし合わせてみるというか、複雑な心境になってゆくのであった。耳の手応えと、作曲背景との意味の探りあい。そういう時間を、幾度となく繰り返す作業もまた、聴くことの歓びだと思うようになった。

(追記)
この日、サントリーホールではサイモン・ラトル/ベルリン・フィルが、オペラシティではアンドリス・ネルソンス/バーミンガム市響が公演していた。その中での都響の満員御礼はさすがだ。(多田雅範)

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