Live Report #617

高瀬アキ 2 DAYS〜エリック・ドルフィーに捧ぐ
11月23日20:00 新宿 Pit Inn
Reported by 悠 雅彦 (Masahiko Yuh)
Photos by鈴木寛路(新宿ピットイン)

高瀬アキ(p)
林栄一(as)
井野信義(b)
田中徳崇(ds)
ゲスト:内橋和久(g)〜23日のみ         

 高瀬アキが昨年に引き続いて帰国し、新宿のピットインで2日間(22日、23日)、高瀬アキ2 DAYS として演奏した。彼女の帰国演奏を企画進行に当たったのが本JTでも健筆をふるっている横井一江氏。
 当初はライヴ・リポートで書く予定はなかったのだが、23日の2セット、とりわけ最初のセットでのクヮルテット演奏を聴いて、本当に久しぶりで脳天に心地よい刺激を浴びた。いわば単独のライヴ・リポートとして書かずにはいられなくなるほどの、脳髄が逆流するような衝撃としか言いようがない。俄然、エキサイトした。
 いったいこれは何を意味するのだろうか。少なくとも高瀬が生活と演奏活動の拠点にしているベルリンで、のほほんとピアニストとしての活動をエンジョイしながら日々を送るといった安楽な生活に明け暮れているのではないことだけは疑いない。ジャズの表現者としての、さらにいうなら身を削って創造活動に献身することへのひとつの覚悟というべきものを彼女が今なお持ち続けていることを、彼女がピアノのキーを打鍵した瞬間に聞き手に伝わってくる、得体の知れない張りつめた空気感がいみじくも暗示していた。芸術家は誰しもそうなのだが、とりわけジャズ・ミュージシャンは意識の崖っぷちに立って表現の修羅場に立っていなくては駄目だと、ともすればふだん忘れほうけていて怠惰な日常に埋没しがちな私たちの目を覚醒させるだけの迫真的な説得力を、キーをひとつ叩くだけで示唆する高瀬の衰えぬパワーと高度な意識を、まさにこの夜私はひしひしと思い知らされた。そう、それは偉大な先人たち、チャーリー・パーカー、ジョン・コルトレーン、エリック・ドルフィー、セシル・テイラーら多くの偉人たちの演奏から教えられたはずなのに、この最も切実な一事をともすればどこかに置き去りにしたまま日々の生活に埋没しているとは。いささか愕然とした。その怠惰を高瀬の一撃が撃退してくれたような気がして、実際のこと、その瞬間、私は目が覚めたように我に返った。
 ピットインでの高瀬アキの連続二夜。<エリック・ドルフィーに捧ぐ>と銘打った2日目で、ドラマーの田中徳崇以外は彼女がいつも演奏パートナーにするお馴染みの面々。ファースト・セットのオープニング曲、ドルフィーのいつごろの演奏だったか思い出せないが、「Seventeen West」での冒頭の彼女の激烈な無伴奏ソロに触れたとたん、曲のことなどどうでもよくなった。久しぶりに浴びる新鮮な刺激!間に高瀬自身の「Smoke Bell」をはさんで、「Something Sweet, Something Tender」、および「Serene」、「Miss Ann」というドルフィー・ファンには馴染みのオリジナル曲と、前半の最後が林栄一の「ナーダム」。どの曲でも高瀬は決して気を緩めたりはしない。こちらが奮い立つほどの真剣勝負。誇張していうなら彼女が演奏の端々で醸し出す殺気立つ空気の渦が聴き手の心を目覚めさせるのだ。
 田中徳崇という若いドラマーのプレイを目の前で聴くのは初めてだが、シャープで勘がよく、鋭敏なセンスの持ち主と拝察した。シカゴで活動していたというが、将来を約束させる素質豊かなホープと見た。
 第2部からはギターの内橋和久が加わったクィンテット。ただし、第1曲では林栄一が休んだためにクヮルテットで変わらなかったが、同じ4重奏団でもホーンがないと演奏の有り様が一変する。林が引っ込んで4者の視線が対等に飛び交い、均衡が目に見える形でプレイに拍車をかけたり、逆に興奮を抑制するブレーキ役をはたすからか。冒頭の「ヨコハマ」での高瀬と内橋のつばぜり合いが、そんなわけで聴きものだった。次の「ニュー・ブルース」から林が戻り、「ハット・アンド・ベアード」や高瀬が坂口安吾の小説からヒントを得たという「チェリー」で集中力に富むプレイを披露した。ただ、昔と比較しての話だが、林栄一らしいひねりの利いたプレイが影を潜めて落ち着きが過ぎた印象を受けた。かつてはもっと得体の知れぬスリルに身を乗り出したものだった。私の気のせいであって欲しい。捻りを利かせた高瀬の「Take the U Train」、そして最後を飾った私の好きなドルフィー曲「245」。前者では田中のドラミングが目をみはらせ、後者では内橋のサックス奏者のように歌うギターが耳をなごませた。(悠 雅彦/2013年12月5日記)

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